7年の時を経て再会を果たしたリンクとカヤノ。
コキリの集落の端に座り込んでお互いに起きた事を話した。
しかしカヤノは、ガノンドロフに捕らわれてからの事を話せない。
何度も快楽拷問を受け、何度もガノンドロフに犯され、挙句の果てに奴の子を身籠り産み落としたなど。


「(話せない……リンクに知られたくない……)」


幸いにもリンクはガノンドロフに捕らわれてからどう過ごしていたのかは訊ねて来なかった。
そしてリンクの方も、聖地で目覚めた時に出会った賢者の1人、ラウルに教えて貰った事を話す。


「オレさ、……コキリ族じゃないんだって」


かつて、ナビィがカヤノに教えた事。
しかし当然あの時リンクは居なかったので、彼は大人になるまで知らなかった訳だ。
リンクはハイラル王家に仕える騎士の家に生まれたが、戦で父親が死に、残された母親がリンクを抱えてコキリの森まで逃げ息絶えた。
デクの樹はリンクに課せられた運命を見抜き森で育てる事に決めたという……。

リンクは一振りの剣を見せてくれた。
それはマスターソードという、魔を討ち払う退魔の剣。
確かナビィの話では勇者の資格ある者しか扱えない剣で、これを扱えるようになる為、リンクは7年もの間 眠り続けていた。


「賢者ラウルの話では、オレがマスターソードを抜いた事によって聖地への道が開かれて、そこからガノンドロフが侵入してしまったらしい」

「もしかして、トライフォースは……」

「……奪われてしまった。もう聖地で安全なのは、オレが眠っていた“賢者の間”って所だけだってさ」


ガノンドロフはトライフォースを手に入れ、魔王となってしまったという。
しかしそこでカヤノはある事を思い出す。
それはいつかシークから聞いた、シーカー族に伝わるトライフォースの隠された伝承。

トライフォース……聖なる三角……。
それは 力、知恵、そして勇気、三つの心をはかる天秤なり。
聖三角に触れし者、三つの力を合わせ持つならば万物を統べる真の力を得ん。
しかし、その力無き者ならば、聖三角は力、知恵、勇気の三つに砕け散るであろう。
後に残りしものは三つの内の一つのみ。それがその者の信ずる心なり。

シークは、ガノンドロフの心では完全なトライフォースは手に入らないだろうと言っていた。
それをリンクに伝えるが彼の表情は晴れず、自嘲するような笑みを浮かべる。


「そうだとしても、オレのやる事は変わらない。ガノンドロフから聖地を取り戻さないといけないしな」


これからリンクがやるべきなのは、7人の賢者を探し出し、その力を用いてガノンドロフを封じる事。
1人は賢者の間に居るラウルなので残り6人を探す必要がある。
時の勇者とは賢者達の力を得て戦う者の事。


「正直オレ、勇者だとかまだ実感 湧かないよ。だけどオレしかやれないって言うのなら、やるしかない」

「私も手伝うわ。リンク以外には出来ない事でも、その手伝いまで出来ないって訳じゃないでしょう? ナビィ……お母さんの力だって私にある」

「ありがとう。それにしても、まさかナビィがカヤノのお母さんだったなんてな。カヤノの事、ずっと見守っててくれたんだ」

「……うん」

「……クーデターの日、ナビィと一緒に時の神殿へ行ったのが最後だなんて……信じられない……」

「私も、まだ信じたくない」

「ナーガだけは何としてでも助け出さないとな。まだガノンドロフに捕まってるんだろ?」

「そのはずよ。ダークが守ってくれていると思うわ」

「あいつか。オレが居ない間、1年以上も一緒に居たんだよな」

「ええ。お陰でとても心強かった」

「……オレなんて、まだカヤノと2ヶ月も一緒に過ごしてないのに」


自嘲するような笑みを浮かべていたリンクが、突然 真剣な表情になった。
睨み付けるようにも感じるその顔はどこかで見覚えがある。
確か、あれは……ナボール達の所へ行く前、カヤノがリンクを想っているのを知ったダークが珍しく見せた、感情の篭った表情だ。
見ていると胸が痛くなって、カヤノは話題を変えた。


「ところでリンク、賢者の居場所は分かるの?」

「ああ。実はオレさっきカヤノが話した、トライフォースの秘密を教えてくれたっていうシークに会ったんだ」

「シークに会ったの!?」

「会った。そこで彼に賢者の居場所を大まかに教えて貰ったよ」


世界が魔に支配されし時、聖地からの声に目覚めし者たち、5つの神殿にあり……。

ひとつは【深き森】に
ひとつは【高き山】に
ひとつは【広き湖】に
ひとつは【屍の館】に
ひとつは【砂の女神】に……。

目覚めし者たち、時の勇者を得て魔を封じ込め、やがて平和の光を取り戻す。

残り1人の賢者については教えて貰えなかったそうで、自力で探すしかなさそうだ。


「それに加えて、コキリの森にカヤノが居るって教えてくれたんだ。だから来た」

「え……」

「……会いたかったよ、カヤノ。眠ってる間、オレは君の夢を見ていた。一緒に青空の下で、笑ってる夢……」


子供の頃の面影を残しつつも、精悍な大人となったリンク。
彼が穏やかな笑みを浮かべながらそんな事を言うものだから、思わず頬を朱に染めたカヤノは顔を逸らした。
そんな様子を微笑ましく見ながら時のオカリナを手にしたリンクは、とある曲を奏で始める。


「? その曲はなあに?」

「【時の歌】。これで時の神殿の扉が開いた」


未だ行方知れずのゼルダが想いを込めて教えてくれた曲。
ナビィと共に過ごした最後の時間であり、7年もの眠りのためにカヤノやナーガと別れる切っ掛けにもなり、しかしお陰で魔王となったガノンドロフと渡り合えるであろう力が手に入った出来事と共に奏でられた曲。
リンクにとってこの【時の歌】は、あらゆる意味で思い出深い曲となっている。

カヤノの質問に答えるために演奏をやめていたリンクが再び時の歌を奏で始める。
神秘的で、しかしどこか切なくもあり、これまでの楽しくも苦しい日々が思い出された。
少しの間その旋律に耳を傾けていたカヤノだったが、ふと響いた懐かしい声に我に返る。


「お、おい、オマエら誰だ!」

「え」


演奏をやめたリンクと共に声のした方を見ると、そこに居たのはミド。
思わず「ミド!」とリンクが声を掛けそうになったが、その前に彼の方が口を開く。


「こんな時によそ者が入ってくんな! 一体なんだってんだよ、集落にまでモンスターが出るし、サリアは帰ってこねーし!」

「サリア? サリアがどうかしたのか!? 帰って来ないって一体……」

「な、なんだよ、オマエらにはカンケーないだろ!」


走って行ったミドを追い掛けるリンクとカヤノ。
そこで2人の目に入ったのは、集落の中にまでモンスターが居る光景。
ミドが棒切れを持って複数のデクババに向かっている。


「オマエら、この森から出ていけーーっ!!」

「危ないっ!」


リンクが慌てて割って入りながらミドを庇い、彼に喰いつこうとしていたデクババ達を切り捨てる。
庇った時に突き飛ばす形になってしまったミドが尻もちをついて唖然としている所へ歩み寄り、手を差し出す。


「大丈夫か? えっと……」

「なんで……何なんだよオマエら……」

「……ねえ、ちょっとオカリナを貸して」


大人になってしまっている為に名乗る事も出来ず、どうしようかと迷っていたリンクに時のオカリナを借りるカヤノ。
その曲でサリアに教えて貰ったあの歌を奏でてみた。
踊り出したくなる軽快さながらどこか郷愁を感じさせる旋律。
サリアがよく吹いていたその曲を聴いたミドの目が驚きに見開かれる。


「そ、その曲、サリアがよく吹いてた……もしかしてサリアの事を知ってんのか!?」

「ええ、サリアの友達よ。何があったのか教えてくれない?」

「……なんか、思い出す」

「え?」

「オマエら……よく見たら似てる。アイツらに……」

「……」

「……わかった、話すよ」


デクの樹が死に、森の守護者は不在なまま。
それでも暫くは何とかなっていたが、2年ほど前から集落にもモンスターが現れるようになったという。
2年……恐らくガノンドロフが聖地から戻って来た辺りだろう。
サリアは「あたしが何とかする」と言って迷いの森の奥に向かったきり、帰って来ないという。
以前にカヤノがサリアと訪れた、彼女お気に入りの【森の聖域】。
サリアはそこにある【森の神殿】に行ったハズだとミドは言う。


「森の神殿って……!」

「森の賢者が居る所だ。サリアの事も放っておけないし丁度いい。ミド、オレ達がサリアを探して来るよ」

「? オイラ名前 言ったっけ?」

「え? あ、ああ、言った言った」

「そうだっけ……まあいいや。アニキ達 強いみたいだし頼むよ。サリアが居ないと、リンク達が帰って来た時にゼッタイ悲しむ。特にカヤノなんて一緒に住んでたし、よく一緒にいたし」

「……」

「あ、リンクとカヤノってのはオイラの……と、友達。森から出て行ったんだけど、アニキ達 見た事ない? アニキ達に似てる、オイラくらいの子供」

「……ごめん、知らないよ。とにかくサリアの事は任せてくれ。危ないからモンスターには挑まない事。いいね」

「わかった。アニキもアネキも気をつけてな!」


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