大切な友との再会を夢見ながら、カヤノは生き続けた。
各地を転々とし、ロンロン牧場やカカリコ村、ゾーラの里、ゴロンシティ等に世話になる。
コキリの森に別れを告げてから更に2年が経ち、カヤノは今16歳。
元の年齢だった18歳の容姿にだいぶ戻って来た。

今はゴロンシティにやって来て、族長ダルニアへ挨拶に来た所。
ここへ来るのは1年振りくらいだ。


「おうカヤノ! また見ない間にベッピンになりやがって、この年頃の人間の成長には目を見張る」

「あ、ありがとうございます」

「そうキンチョーすんな! いや、照れてんのか!?」


そう言って豪快に笑うダルニアには圧倒されるが、竹を割ったような性格は心地良い。
近況を報告し合っていると、部屋の入口の方から子供のゴロン。
リンクとカヤノ達がゴロンシティを救ってから産まれたというダルニアの息子だ。


「父ちゃん、カヤノたちが来たってほんとゴロー!?」

「おうダルマーニ、ホントに来てるぜ!」

「こんにちは、ダルマーニ君」

「こんにちはー! ナーガ、いっしょに遊ぶゴロ!」

「あそぶ! あそぶ!」


ダルニアの息子ダルマーニは、何度か訪れるうちにすっかりナーガと仲良し。
ダルマーニがナーガを担いで行ってしまい、微笑ましくも騒がしい子供達を見送ると部屋は一時の静けさに包まれた。
何か次の話題を、と少し頭を巡らせたカヤノとナビィだが、ダルニアの方から口を開く。
なぜか深刻そうな表情と声音で。


「……カヤノよぉ、あのチビ竜の事だが」

「ナーガが何か?」

「アイツどこで拾って来た?」

「ハイラル城下町の市場で売られていたんです。それ以前の事はちょっと……」

「ふむ……取り越し苦労ならいいんだが。大昔、ヴァルバジアっつー邪竜が居たんだゴロ」


ダルニアの話によると、かつてその邪竜に大勢のゴロン族が食われてしまったらしい。
しかし一人の勇敢なゴロン族がそれを倒し一族に平和を齎した。
ダルニアはその英雄ゴロンの子孫だそうだ。
その邪竜がどうかしたのだろうか。


「……似てる気がする」

「え……」

「その邪竜ヴァルバジアに、あのナーガが」


その言葉に、カヤノとナビィは顔を見合わせる。
似ていると言われても……ダルニアの先祖が倒したのではないだろうか。


「気のせい、だと思います。あの子はとても優しい子なんですから。牧場でお世話になっている時も動物に一切の手出しをしませんでした。ゴロン族を食べてしまうなんて、そんな事は……」

「だよなぁ。オレの先祖が倒した訳だし、そもそもあんなチビ竜じゃない筈だしな」


体格的にもナーガがゴロン族を食べてしまえる訳がない。
それは見れば誰にでも分かる事なのに、それでもダルニアはどうしても気になるそうだ。
ナビィがフォローを入れる。


「あの子、お腹にトライフォースの紋章があるんです。むしろハイラル王家に伝わる精霊とか、そんな存在だったりして」

「そうなのか? それならそうかもしれねぇな、邪竜なんて言っちゃバチが当たらぁ。……オレの思い過ごしか」


言いつつも、まだダルニアは心から納得はしていない様子。
そんな事を言われてはカヤノ達も気にせざるを得ないが、雰囲気が暗くなったのを厭ったらしいダルニアの方から話題を変えて来た。


「悪ィ悪ィ、不快にさせちまったか。許してくれや」

「いいえ……大丈夫です」

「まあ気が済むまで居てくれて構わん。ゴロン族はオメェ達ならいつでも大歓迎ゴロ!」


そう言ってくれる人が居るだけで、心細い状況のカヤノがどれだけ救われるか。
いいや、リンクが居ない分 心細いのは確かだが、ハイラル中を転々としていると様々な人が助けてくれる。
むしろ自分は頼もしい輪の中に居るのではないか、とカヤノは思った。

ダルニアの部屋を後にすると、ダルマーニと遊ぶナーガの姿。
あんな子がゴロン族を食べてしまう邪竜かもしれないなんて、やはり思えない。
重いけれど、カヤノが両手で抱え上げられる程の大きさしかないのに。


「……ねえナビィ、そう言えば思ったんだけど」

「なあに?」

「竜ってどのくらいで大人になるの?」


ナーガはカヤノ達が仲間に入れたあの頃から全く成長する様子が無い。
子竜である以上はいつか大人になると思うのだが、4年半くらいの時間では成長しないのだろうか。


「分からないわ。竜って噂に聞くだけで、ナーガ以外の実物って見た事ないもの」

「イメージとしては、長寿な分 成長が遅いって感じかな。たった4年じゃ何も変わらないのかもしれない」


ふと。
もしそうなら、自分達が生きている間はずっと子竜のままなのではないかと思った。
一人で取り残されるかもしれないナーガを想うと胸が締め付けられる。


「あ! かやの! かやの!」


ナーガがカヤノに気付き、満面の笑みで寄って来る。
後ろ足が無いので難儀すると思っていたが、意外にも器用に移動するものだ。
頭は大きなツノの生えた西洋竜のようだが、体は前足だけ生えた、鱗の生えた太い蛇のような東洋竜。
成長したら空を飛んだりするようになるのかもしれない。
ナーガがやって来ると遊んでいたダルマーニも一緒に来る。


「もーナーガ、途中でやめちゃだめゴロ!」

「ふふ、ごめんねダルマーニ君。でもナーガと遊んでくれてありがとう」

「ナーガはオイラの友達ゴロ、いっしょに遊ぶのは楽しいゴロ! カヤノとナビィもあそぼ! あそぼ!」


ダルマーニもナーガも屈託のない無邪気な笑顔を浮かべている。
毎日が明るく、そしてそれと同じ未来が約束されているような子供達。
彼らがずっと平和の中で笑顔を浮かべていられるよう願ってやまない。


デスマウンテンにはカヤノ達が食べられる物が極端に少ないので、時折 カカリコ村まで下りて食料などを買い込む。
そうしながら一ヶ月以上は滞在して、今はダルニア達に別れを告げ、本格的に山を下り始めた所。
山道のモンスターが以前より増えているが、カヤノも今までただ遊んでいた訳ではない。


「カヤノ、先の方にグエーとテクタイトが居るわ!」

「ええ。行くわよナーガ」

「きゅー!」


ずっと続けていた訓練のおかげで、魔法もだいぶマシになって来た。
ナーガの助けもあり、ちょっとした雑魚相手なら負ける事は無い。


「カヤノ、余裕があるなら大技出してみれば?」

「そうね、やってみる……。“我 望む力! 炎を纏いし女神の腕(かいな)よ、灼熱を以って我が敵を抱(いだ)き給え!”」


呪文を唱え終わったカヤノの両手から火柱が迸る。
飛んで行った二本の火柱はテクタイトを両側から抱き締めるように包み、敵は跡形も無く燃え尽きてしまった。

威力の低い魔法であれば無詠唱でも発動させられるが、高威力の物となればそうも行かない。
声と言葉に魔力を乗せて女神へ捧げ、見返りに授けられる強い力を使って放つ。
当然、集中しなければならないし消耗もなかなか大きい。
何かに遮られて貢物である魔力が女神へ届かなければ、そもそも放てない。
ナーガがグエーを倒したのを見届けたカヤノは、胸に手を当てて息を吐き出す。


「ふう……」

「すごいすごい! カヤノ、もうだいぶ立派な魔道士ね!」

「ありがとう。だけど消耗が大きいし、大技に頼っていては駄目ね。低威力でも素早く放てる基礎の魔法をもっと磨いて、そちらをメインにしないと……」

「カヤノ?」


突然聞こえた少年の声。
……いや、青年になりかけている低めの声だった。
上から聞こえたと思って顔を上げると、つづら折りになっている坂道の上に彼が居た。


「ダーク……!?」


実に4年半振りの再会となるリンクの影。
その姿は成長しており、リンクと同じとするなら今年で15歳のはず。
体はぐんと背が伸びており、もうカヤノなどとっくに追い越している。
まだ少年と言える風貌は抜けていないが、あと2年か3年もすれば、完全に青年と言っても差し支えない容姿になりそうだ。
ふと、リンクが封じられずに居たら、今はこれくらいだろうなと思った。


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