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「(出来た……私、魔法で敵を倒せた!)」
急激に自信が付いていく。
カヤノは多数のビリを相手していたナーガの所まで走ると、一緒にリンクの援護を始めた。
「ナーガ、一緒にリンクを助けるわよ!」
「きゅう!」
ナーガにとってもリンクは大事な友達だ。
付き合いはまだまだ短いけれど、それを感じさせない程に親しい間柄。
やがてリンクが巨大な触手に数発目のブーメランを叩き込んだ。
瞬間、触手は先端からぼたぼたと粘液を吐き出して消滅。
すると前方のツタに覆われた扉が開く。
「みんな、注意して。奥から変な気配を感じるわ」
「気配、っていうか、音がしない?」
ジリジリ、いや、ビリビリ?
そんな感じの少し耳障りな嫌な音。
リンクが先頭に立ち扉をくぐると、そこもまた広い部屋。
しかし中央には巨大な寄生クラゲの塊が、天井に触手を貼り付けてぶら下がっていた。
その塊はまるで内臓のよう。
先程の触手はきっとこいつに繋がっていたのだろう。
そして部屋の隅には、気を失っているのか倒れているルトの姿……。
それを確認した瞬間、リンクは寄生クラゲの塊に向かって走り出す。
「カヤノはルト姫を守って!」
「分かった、気を付けてねリンク!」
カヤノはすぐさまルトの元に駆け寄り、倒れている彼女を抱き起こす。
「ルト姫、しっかり! しっかりして下さい!」
「う〜ん……?」
頭を振り、ゆっくりと覚醒するルト。
瞬時に自分を抱き起こすカヤノに気付き、思い切り抱き付いた。
「わっ……」
「そ、そなたら、何をしておった! ちょっと怖かったゾラ……!」
「ごめんなさい、怖い思いをさせてしまって。もう大丈夫ですよ」
「ちょ、ちょっとだけじゃ! 怖いのはちょっとだけ……」
「ええ、分かっています。すぐリンクが敵を倒してくれますから」
「……」
二人で戦うリンク達を見る。
あれはバリネードというモンスター。
天井に繋がっている複数の触手をブーメランで切り落として奴を引き剥がすと、いくつかの大きな寄生クラゲが分裂して電気を放ちながらリンクを狙う。
それをさせまいとナーガが炎を吐いて次々と倒していた。
「サンキューナーガ、危なくなったらすぐ逃げろよ!」
「きゅう! きゅう!」
「ははっ、逃げたりしないってか! じゃあ一緒に倒しちまおう!」
「二人とも電撃が来るよ、離れて!」
連携する二人を、しっかりバリネードを観察しながらサポートするナビィ。
あの中に混ざれない事を少しだけ残念に思うカヤノだったが、今の自分の役目はルト姫を守る事なのだからと考えを改める。
「わらわが、これを失くしたりしなければ……」
「これ?」
「ゾーラのサファイア。水の精霊石じゃ」
「水の……!」
「まさかジャブジャブ様の中にモンスターがいるとは思わなかった。油断していたところを襲われ、その時に落としてしまったのじゃ」
ルトの方を見ると、その手に美しい青の宝石を抱えていた。
透き通る青色は引き込まれそうな程の威光を放っている、が。
リンク達に集中していたバリネードが、端の方に居たカヤノ達に気付いた。
そしてそこにある青い輝きを認識し、アンテナのような触手から電撃を放つ。
「ルト姫あぶないっ!!」
「え……」
咄嗟にカヤノがルトの前に出て彼女を庇った。
強烈な電撃がその体を貫き、激痛に悲鳴を上げる。
「きゃあああああっ!!」
「カヤノっ!」
名を呼んだのは言葉を発する事の出来る全員。
殆ど間を開けず伸ばされた触手に絡め取られたカヤノは、その身を吊り上げられる。
朦朧とする意識の中で、また吊られてしまった、と妙に呑気な考えが頭を過ぎった。
胴体に巻き付いた触手にぎりぎりと締め上げられ、吐きそうになりながら呻き声を上げるカヤノ。
あ、これ、死ぬかもしれない……と思った瞬間、目の前を何かが横切る。
それがブーメランだと分かった瞬間、カヤノの体は宙に投げ出された。
悲鳴を上げる間すら無い。
だがカヤノを襲ったのは墜落の衝撃ではなく、ぼふっと暖かい感触。
どうやら落下した所をリンクが抱き止めてくれたらしい。
「カヤノ、大丈夫!?」
「あ……ありがとう、何とか平気」
「よくもカヤノを……絶対許さないからな!」
怒りに満ちた視線をバリネードへ向けるリンク。
カヤノをそっと下ろすと、守るようにその前に立ちはだかった。
へたり込むように座るカヤノの前、見上げた所にリンクの背中。
バリネードが飛ばす電気の光で逆光になり、影の浮かび上がったその背中が妙に男を意識させた。
急激に照れ臭くなって視線を逸らすカヤノにリンクは気付かない。
「ナーガ、一緒に行くぞ!」
「きゅー!」
バリネードとの距離を一気に詰めるリンクとナーガ。
リンクは走りながらブーメランを投げ、それが命中すると同時にナーガが高熱の炎を吐き出す。
バリネードが怯み、その瞬間、リンクは高く飛び上がっていた。
「消えろぉぉーーーーーっ!!」
それまでのダメージで弱っていたバリネードが両断される。
ぐちゃぐちゃの肉塊となって辺りに飛び散り、そのまま消滅した。
少しの間 辺りを包む沈黙。
それもすぐ終わり、頭にナーガを乗せたリンクがカヤノの元へ駆け寄る。
ナビィも一緒だ。
「カヤノ、立てる?」
「ええ。ごめんなさい、役に立てなくて……」
「なに言ってるの、カヤノはルト姫を守ったじゃない!」
「あ、そうだ、ルト姫は……!」
「わらわはここじゃ」
どこか元気の無い様子で歩いて来るルト。
その手には水の精霊石を抱えている。
カヤノは改めて、会ったばかりの彼女の様子を訊ねてみた。
「ルト姫、どうしてジャブジャブ様の中に居たんですか?」
「……父上から逃げたのじゃ」
「え……」
「父上は昔から、余のかわいい姫、姫、とあーだーこーだ口出しするゾラ。あれをしてはダメ、これをするとよい、などとわらわの行動にいちいち……」
「……」
「ついには結婚まで勝手に決められてしまったが、自分の気持ちはちゃんとある。ま、まだ好いた者が居るわけではないが……わらわは、父上の人形じゃないゾラ!」