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やがて何とか一匹の魚を捕らえたリンク達は、改めてジャブジャブ様の元へ。
途中で王の間を通りかかるが、そこでキングゾーラが一つの武器を貸してくれた。
それは中央に赤い宝石の付いた立派なブーメラン。
必ず戻って来る魔法が掛けられたそれを受け取り、リンク達は先へ進む。
洞窟から外へ出たそこは、ハイリア湖にも劣らないような広大な湖だった。
浅瀬の中央、湖の深場へせり出すように広い祭壇があり、そのすぐ側に巨大な魚。
「うわあでっけえ……」
「これがジャブジャブ様ね。魚をお供えしましょ」
ナビィの言葉に、すぐさまリンクが持っていた魚を口の先に差し出した。
これ一匹で足りるのかな……? なんて思ったのも束の間、ジャブジャブ様はその巨大な口を大きく開き、凄まじい勢いで魚を吸引し始めた。
その勢いは魚のみならずリンク達にまで襲い掛かる。
「ちょ、ちょっと、わーーーーっ!!」
必死でもがいてみても効果は無く、全員があっと言う間に吸い込まれてしまった。
明らかに生物の体内と分かる赤い肉壁。
呼吸音か心音か、時折不気味な音がどこかから木霊する。
いつか行ってみたいと思っていた遊園地にあるお化け屋敷とはこんな感じかと、さすがにこれは体験したくなかったらしいカヤノは気まずそうな顔で思った。
「よし、ルト姫を探そう」
特に恐怖は感じていないらしいリンクの言葉に、少し間を開けて慌てて頷く有様。
足下は思ったよりしっかりしているが、少し柔らかくて肉だと分かる。
微妙に魚臭いように感じるが、血生臭く無いだけマシだと思う事にした。
何かの器官だろうか、時折現れる扉のようなぶにぶにした壁。
それを(リンクに任せて)開きながら奥へ進むと、前方に小さなゾーラ族の姿を見付ける。
リンク達と同じぐらいの大きさ。
未発達なのか、頭は他のゾーラ族のように長い魚の尾のようにはなっておらず、強気な印象を受ける大きな瞳がこちらの姿を捉えた。
「そのほうはナニモノじゃ? なぜこんなところにいる!」
「あ、えっと私達はハイラル王家の使者で……」
キングゾーラ達にしたように自己紹介。
話を聞くと彼女がルト姫で間違い無いようだ。
リンクが進み出て連れ帰ろうとする。
「オレ達、キングゾーラに頼まれてキミを助けに来たんだ。一緒に帰ろう」
「なに、父上が? ……そのような事、頼んだ覚えはない!」
「え? でもみんなすごく心配して……」
「と、とにかくわらわは父上のもとには帰らぬ!」
ビンに手紙を入れて助けを求めたというのに、何故か頑なに拒否するルト姫。
そう言えばあの手紙、父上にはナイショとか書かれていたような……とカヤノが考えた瞬間、手を引こうとしたリンクを振り払った姫が走り出した。
「そなたらこそ、さっさと帰るがよい!」
「あ、ちょっとそっちは……!」
止めようとしたのも束の間、足下に空いていた穴にルト姫が落下して行く。
リンクが頭にナーガを乗せたまま慌てて後を追い、カヤノとナビィが後に残された。
「あ、ちょっとリンク危ないわ!」
「ナーガも一緒に行っちゃったし……ちょっと見て来る、すぐ戻るから待ってて」
「気を付けてねナビィ……」
周囲には何の気配もしないが、こんな所に一人は心細い。
少しはらはらしながら待っていると、言った通り割とすぐにナビィが戻って来た。
彼女の案内で近くの壁に掴まれる部分があるのを知りそこから降りる。
降りた先にはリンクとナーガのみ、ルト姫の姿は無い。
「リンク、ルト姫はどうしたの?」
「また落っこちちゃってさ、しかも穴が閉じてビクともしないんだ!」
「ええっ!? じゃあ早く探しに行かないと、彼女に何かあったら……」
「向こうに扉……って言って良いのかしらあの壁。とにかく先に進めそうな所があるから行きましょ!」
確かにここでじっとしていても何も出来そうにない。
ナビィに言われ、示された扉? から先へ進むと、何かが沢山ふよふよと宙を漂っている。
見ればそれは透明なクラゲのような生き物。
「モンスターだな! カヤノ、下がってて!」
「あれは……待ってリンク、危ない!」
ナビィの忠告と、リンクが剣でモンスターを斬り付けたのは同時。
剣がモンスターに触れた瞬間、全身を痺れに襲われた。
「うわあぁぁっ!?」
「リンク!」
「こいつはビリ! 触るとシビレちゃうよ!」
「じゃあパチンコなら……!」
カヤノはパチンコを構えて玉を撃つが、威力が低いのか全くダメージにならない。
咄嗟にナーガが炎を吐いてくれたので何とか倒せたが、他のビリが集まって来た。
幸いにも動きは遅いのでリンク達は走り出し間を通り抜ける。
ルト姫を見付けて連れ帰れば良いのだから構っていられない。
ぶよぶよ蠢く壁を横目に走り続け、先方に見えた扉を開いて中に入ると、そこは今までとは違う広くて高い部屋。奥にはツタに覆われた扉がある。
ただ異質なのが、天井から太い筒状の物が垂れぶらぶら揺れている事。
周囲を複数のビリが守るようにふよふよ漂っている。
ナビィはそれをじっと観察し、すぐに答えを導き出した。
「あれ、ジャブジャブ様に寄生してる触手みたい……」
「寄生って、じゃあデクの樹サマみたいになるんじゃないの!?」
「可能性は高いと思う。魔物があちこちに居るし、どこかに親玉がいるのかも」
「カヤノ、予定変更だ。ルト姫と一緒にジャブジャブ様も助けよう」
「ええ。デクの樹サマの二の舞にはさせないわ」
「くびれた所が弱点よ、ブーメランを使ってみましょ!」
ナビィのアドバイスに部屋を進み、ブーメランを構えるリンク。
途端にビリ達が向かって来たので、ナーガが炎を吐いて倒して行く。
パチンコでは役に立たない……何も出来ないのかと悔しい思いのカヤノ。
が、瞬間、魔法が効くのではと思い至った。
カヤノは狙われないよう端に居たが、意を決してビリの群れに近付く。
リンクやナビィに何か言われる前に意識を集中した。
「(力の女神ディン様、どうか私に“力”を貸して下さい……!)」
熱を帯びて行く体内の魔力を手のひらに集め、燃え盛る炎をイメージするとそれを一番近い所に居たビリ目掛けて解き放つ。
途端にビリを包み込む紅蓮の炎。
やや小さめではあったが奴を倒すには十分だったらしい。