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「うふふ、リンクったらよっぽどカヤノが好きなのねっ」
「またナビィはそんな事。あなたって本当に恋の話が好きね」
「ワタシ自由に恋愛なんて出来なかったから。せめて話だけでもしたいの。恋が実る話はもっと聞きたい」
「妖精も恋ってするんだ」
「え? ……す、するよ? しちゃ変かな?」
「変というか、恋って物凄く短絡的に言えば、子孫を残す為にするものでしょ。妖精はデクの樹サマが妖精珠で生み出していたみたいだし、恋は必要無いのかと思った」
「……それは、極端すぎ、じゃない?」
「確かに、人には結婚だけして子供を持たない人も居るらしいけど、本能の面だけで言えば恋は子供を作る為のものでしょう? だから交配を必要としない種族は、恋愛感情そのものが無いんじゃないかと思って」
「そ、その考え方は、そうかもしれないけど。で、でも妖精も恋ぐらいするよ」
少々しどろもどろになっているナビィに、怒ったかな? と心配になるカヤノ。
どうやら怒っている訳ではなさそうだが……。
本人が恋をすると言っているのだからするのだろう。
そもそもカヤノは妖精の生態をよく知らないので、恋をしないと断言は出来ない。
ふとリンク達の方が騒がしくなる。
魚を釣り上げた時に予想外の方向の地面に飛んで行ってしまい、そのままビチビチ跳ねて湖へ戻ろうとしているらしい。
「あ、あーっ! ナーガそいつ捕まえて、早く! ……って食べちゃダメだってば!!」
「楽しそうね」
「ねー。……Heyリンク! 晩ご飯まだー? ってカヤノが!」
「えっ!?」
「もーちょっと待ってよカヤノ、まだ全員分釣れてない!」
「言ってない、言ってないよリンク! ゆっくり釣ってね!」
友人達とわいわいがやがや、騒がしく楽しい時間を過ごす。
カヤノが願ってやまなかった夢はこうして叶っている。
リンクと、ナビィと、ナーガと。
ここにゼルダやダークも加わって、皆でいつまでも楽しく過ごせたらいい。
こんな穏やかな時間を過ごしていると、いつか叶うのではと楽観的な希望が湧いた。
集めた薪にカヤノが魔法で火を着け、釣った魚を焼いた。
辺りはすっかり夜。
今日は昼間に会ったみずうみ博士の家に泊めて貰う事になっている。
リンクは胡座をかいた足の上にナーガを乗せ、焼いた魚を食べさせていた。
仲睦まじい様子に自然と笑みが零れるカヤノ。
「リンク、すっかりナーガと仲良くなったわね」
「こいつ面白いんだ。カヤノにだって懐いてるだろ?」
「リンクは友達って感じでしょ? 私にとっては友達でもあるけど、子供って感じがするの」
「へー、そうなんだ。……じゃあオレもナーガの親がいいなあ」
「どうして? 今の関係ならナーガとは友達が一番だと思うわ」
「……子供をいっしょに持つのって、夫婦なんだろ?」
「……」
“大人”もよく知らなかったリンクがそんな事を言うなんて。
まあ“親”という認識はデクの樹のお陰であるようだし、その延長で夫婦や恋というものも知っているのだろう。
「りんく、かやの、ふーふ?」
「……ナーガ、意味が分かってから発言してね」
意味など全く理解していないだろうナーガの無邪気な言葉に苦笑するカヤノ。
ナビィもリンクの後押しをしたいようだし、ある意味で味方の居ない状況に追いやられてしまった。
今の発言や過去の守る発言からして、リンクはカヤノに好意を持っているらしい。
ダークの存在があるので既知の事実ではあるのだが、こうして本人から面と向かって突き付けられると照れてしまう。
実際はだいぶ年下の少年な訳だが……今のカヤノはリンクとほぼ同い年。
果たして自分はリンクが好きなのかどうか思いを巡らせてみる。
友人としてなら間違いなく好きだが、異性としては?
「(今は子供だし。いつか大人になったらはっきりするかもしれない)」
何年も後の事だから気の長い話ではあるが。
きっとリンクはとても立派な青年に成長する。
彼が大人になる頃にはハイラルも平和になっているだろうから、それからゆっくり考えるのも悪くない。
あまりノンビリしていたら他の誰かに行ってしまうかもしれないが、今 焦って答えを出した所で、お互いに子供なのだから上手く行かない可能性が高い。
恋などした事が無いカヤノ。だからこそ慎重になりたかった。
振られたら振られたで良い経験になるかもしれない。
「(たとえ振られたって、恋が出来るだけでも幸せな事よね。私はずっと恋愛を禁止されていたから……)」
将来は親の決めた相手と強制的に結婚する事になっただろう。
自分の意思で自由に恋愛・結婚できる(当然しない自由もある)のは素晴らしい事だ。
まだ子供ではあるが、リンクは勇気と優しさに溢れたとても素敵な人。
そんな彼が初恋の人になれば、あわよくば実ってくれれば……。
「カヤノ、食べないの?」
「え。……あ、食べるよ。いただきます」
棒に刺して焼いた魚を持ったまま止まっていた。
ナビィに声を掛けられ慌てて口に運ぶ。
「……美味しい」
自然溢れる美しいハイラルから分け与えられた恵み。
それを噛み締めながら、己の血や肉に変えるカヤノだった。
+++
翌朝、リンク達は再びハイリア湖の探索を始めた。
みずうみ博士の話ではここにゾーラ族が住んでいる訳ではないが、時折見かけるという。
それならば手掛かりが全く無い現状、ここで出現を待つのが一番得策の筈だ。
雄大なハイリア湖の水は深い底まで透き通り、恐怖を覚える程に美しい。
湖の畔から伸びる長い吊り橋を渡って大木が生えた小島へ行ってみる事になった。
一本目の吊り橋は湖の端にある中継地点の小島へと繋がり、そこから更に中央の一番大きな小島へ吊り橋を伸ばしている。
その中継地点である小島に辿り着いた所で、カヤノがある事に気づいた。
「あら? ねえ、向こうに道があるわ」
「え? ……あ、ほんとだ」
湖の周囲は小高い丘に囲まれているが、その丘の一部にどこかへ繋がっていそうな道を発見した。
よく見ると、岸の方にそちらへ繋がっていた地形を壊したかのような跡が。
あの道の先に何かあったのだろうか?
「まさかあっちにゾーラ族が住んでるわけじゃないよな……」
「分からないけど、あまりにゾーラ族が見つからないようなら、あの道へ行く方法を考える必要が出て来るかも」
「でも待って二人とも、あっちハイラルから出ちゃわない?」
ナビィが言ったので地図を確認してみたが、確かにこのハイリア湖は国の南の果て。
あの道の向こうは国外へ出る事になってしまいそうだ。
ひとまずあちらは、いよいよ手掛かりが無くなった時に後回しする。
改めて湖で一番大きな小島に渡ると、ナーガが突然 岸辺へ向かって進み出した。
「ナーガ、どうしたの?」
「きゅー!」
鳴き声を上げて湖面をつつくナーガの鼻先をよく見ると、何かきらりと光る物が浮かんでいる。
近寄ってみればそれは中に何かが入った空き瓶だった。
拾い上げ栓を開けて取り出すと、一枚の短い手紙。
「えっと、なになに……」
“たすけてたもれ! わらわはジャブジャブさまのお腹の中で待っておる。ルト
追伸:父上にはナイショゾラ!”
「……なにこれ」
「ジャブジャブさまのお腹……? ルトって名前かな?」
これではこの手紙を流した主がどこに居るかも分からない。
困っているのなら助けに行きたいが、場所が知れないのでは構っている余裕は無い。
助けて、なんて穏やかではない文面が気になってしょうがないのに……。
どうするべきか、水の精霊石を後回しにしてでも手紙の主を探すか、やはりここは使命を優先して水の精霊石探しに専念するか。
カヤノ達が悩んでいると、上空に一つ大きな影が掛かった。
見上げてみるとケポラ・ゲボラが舞い降りて来る。
「こんな所に居たのかお前達」
「ケポラ・ゲボラ! ここでゾーラ族を見たって話を聞いたから来たんだよ」
「そう言えば時折やって来るようじゃな。……ところでその紙は?」
「これは誰かが流した手紙みたいです」
カヤノが読み上げると、ケポラ・ゲボラの顔色がみるみる変わる。