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その頃、リンク達。
脱出の際に厄介になると判断し、弓矢を持っていた見張りを優先的に気絶させ、砦の中にあった縄で縛り上げて行く。
「けっこう探索したけどカヤノが見つからないよ……。ねえナボール、ひょっとしてここにはいないのかな?」
「落ち着くんだよ。アタイの記憶が正しければ、あと一つ牢獄がある。そこは行き止まりで危険だから後回しにしてたんだが、こうなっちゃ行ってみるしかない」
「そこだけ行き止まりなの? 他の牢屋は道がいくつかあったけど」
「そのカヤノってお嬢ちゃんはヤツらにとって、それほど逃がしたくない獲物なんだろうさ」
背の低いリンクやダーク、ナーガの存在は、ナボールには有り難かった。
小ささを活かして物陰に隠れ、不意打ちで気絶させる戦法が成功している。
ナビィによる偵察も安全を確保するのに一役買っていた。
隠れ、隙を伺い、どんどん砦の奥へ向かって行く彼ら。
やがて薄暗い通路の奥、殺風景な広い部屋に辿り着く。
何も無い部屋だが奥には牢屋があって……中に誰かが居た。
「……カヤノ? カヤノだよね?」
返事は無い。
しかしきっとカヤノだと確信し、近寄るリンク達。
何故か突っ立ているように見え、それは見間違いだろうと思ったのだが……。
そこには立ったまま、牢屋の壁に大の字で磔にされているカヤノの姿。
カヤノ自身はぐったりと力を失っているが、大きく開いた状態で強制的に体を支えさせられている足だけが、小刻みに震えている。
「っ、カヤノ!」
「ねえちょっと大丈夫!? しっかりして!」
慌てて鉄格子に縋り付くリンクとナビィ。
ダークはナーガを抱え上げると鉄格子の扉に近寄る。
「ナーガ、炎を吐いて鍵を壊せ」
カヤノが受けた仕打ちを見て憤慨したナーガは、気合いを入れて一気に高熱の炎を吐いた。
鍵が壊れ、開いた扉から中へ入り込む。
手足の枷を外してやるとそのまま倒れて来て、ナボールが慌てて抱き止めた。
「カヤノ、しっかりしてカヤノ! ナボール、カヤノは……!」
「……大丈夫。休ませれば回復するよ。しかしこれは……」
カヤノを抱えて牢から出たナボールは部屋を見上げ、拘束用の鎖が天井から垂れている事に気付く。
壁際には使用されたであろう鞭や縄が放置されており、カヤノが何をされたのか分かったナボールは吐き捨てるように口を開いた。
「こんな子供にまで……ふざけるんじゃないよ!」
ナビィとナーガはカヤノに寄り添って離れようとしない。
リンクは歯を食い縛りながら俯いている。
ダークは何を考えているか分からない無表情のままだったが、ちゃんとカヤノの心配はしているらしい。
「リンク。早く戻ってカヤノをきちんと休ませるぞ」
「分かってるよ……。ナボール、あと少し協力して」
「当たり前さ! やっぱり許せないヤツらだよ。攫ったって事はヤツらにとってカヤノが必要って事だろ? 取り返してやれば一泡ふかせてやれるしね」
見つからないうちに部屋を後にし、砦の屋根の上を進む。
ナボールは馬小屋へ行きカヤノと一緒に脱出してくれるらしい。
エポナは……マロンに教わったあの歌を吹けば来てくれるだろう。
「ここが正念場だ、最後まで気を抜くんじゃないよ」
「了解」
ここを抜ければ、カヤノを連れて帰れる。
ナボールと一緒に下まで降り、彼女が馬に乗って来るのを待ってエポナの唄を吹いた。
ゲルド族達が何事かと辺りを見回す広場をエポナが走って来て、追っ手が来る前に急いで飛び乗る。
ちなみにダークは来る時と同じ、リンクの影の中だ。
「リンク、何も考えず全速力で付いて来な!」
「うん!」
ナボールに先導され、エポナを全力で走らせる。
広場を抜けている途中、追って来るゲルド族達が慌てているのが見えた。
弓矢で侵入者を射貫こうとしたらしいが、残念ながら射手は全員リンク達が気絶させ縛っているので不可能だ。
砦を脱出し、ハイラルへ戻る途中の川に掛かる橋をナボールが切り落とした。
他にも道はあるだろうがだいぶ遠回りになるという。
これで暫くは追って来られないだろう。
馬を走らせ続け、ロンロン牧場に戻って来た所でようやく一息つく。
リンク達を見付けたマロンが駆け寄って来た。
「妖精クン! カヤノもいっしょね、よかったぁ!」
「ただいまマロン、エポナを貸してくれてありがとう」
エポナから降り、マロンの所へ行かせる。
自分から手伝いに来てくれたらしいエポナだが、さすがに帰り着いた今はホッとした様子だ。
リンクは次にナボールの所へ行き、改めて礼を言う。
「ありがとう、ナボールが居なかったらカヤノを取り戻せなかったかもしれない」
「ああ。アタイもガノンドロフの一味に一泡ふかせてやれて、スッキリしたよ。取り敢えず今は早くカヤノを休ませて……」
「……う……?」
ナボールの言葉の途中、同じ馬に乗っているカヤノが目を覚ます。
そしてすぐ傍に居るゲルド族に気付いて慌てるが、リンクとナビィが事情を説明してくれた。
「そうだったんですか……ナボールさん、助けて下さって有り難うございます」
「礼ならボーヤ達にしてやんな。それより早く休んだ方がいい」
「そうします。今はとにかく、ゆっくり寝たいです……」
マロンにお願いし、再び客間を借りる。
ベッドに入って一つ息を吐くと、安心からか泣きたくなる。
ナビィが仰向けに寝ているカヤノの傍に寄り添った。