どうやらタロンは本当に昼寝しているようで、石造りの立派な家の方へ訪ねてみると、コッコに埋もれるようにして寝ている彼の姿が。


「とーさん起きて、お客さんよ!」

「んあ……?」

「お、お邪魔してます……」

「おー、リンクにカヤノ。遊びに来ただーか? ゆっくりして行くだーよ……」

「ちょっと! 妖精クン達がグエーを退治してくれるって……!」


喋っている最中にもうとうとし始め、すぐに寝てしまうタロン。
このノンビリ具合には、リンクとカヤノも顔を見合わせて苦笑するしかない。


「いいよマロン、無理に起こさなくて。それよりもっと案内してくれよ。オレさっき馬がたくさん居た所にもっかい行ってみたい!」

「ごめんね。じゃあ放牧場に行きましょ」


もう一度、放牧場へと向かうリンク達。
カヤノとしても地形を確認する為に戻りたかった。
どうやら照明の類いは無いようなので、夜になれば月明かりだけが頼り。
地形を覚えているのといないのとでは大違いだろう。

柵に囲まれた放牧場へ行くと、リンクは興味津々で馬に近づいて行く。
ひょっとして気に入ったのだろうか。


「なあマロン、触ってもいい?」

「いいけど正面や後ろから近づいちゃダメよ。喉やお腹も触らないでね」

「頭とおでこも撫でちゃいけないのよね?」

「そうそう。カヤノひょっとして馬でも飼ってるの?」

「……前に」

「へー、もしかしてカヤノの家も牧場?」

「ううん。家の仕事で乗ってただけ」


神事で流鏑馬などをする事もあり、信頼関係を築く為に馬と触れ合う事は多かった。
それにしても……家族を殺してから時間が経つにつれ、巫女として生活していた頃を思い出す事が増えたような気がする。
コキリの森で暮らしていた時はそうでもなかったのに、旅に出てからはちょくちょく思い出して苦しい思いをする。

これも、罰の一環なのだろうか。


「ねえマロン、一頭だけすぐ逃げちゃうんだけどー!」


カヤノの思案はリンクの大声で中断された。
見れば一頭の子馬が居て、歩きながら近寄るリンクから逃げていた。
そちらへ歩み寄るとすぐ子馬はマロンの方へやって来る。


「この子はエポナ。ちょっと人見知りなの。……そうだ、昨日 妖精クンと一緒に演奏した歌を聞かせてみない?」

「昨日の曲? やってみる!」


マロンの歌に合わせ、オカリナで演奏を開始するリンク。
穏やかな旋律が優しく牧場に響き、他の馬達も寄って来る。
カヤノとナビィ、ついでに子竜も聞き入っていたが、ふと気付くとエポナという名らしい子馬がリンクへ近寄っていた。
すぐ側に寄って体を擦り付け、嬉しそうに足踏みしている。


「エポナったら妖精クン気に入ったみたい!」

「ははっ、よしよし」


満面の笑みでエポナの背を撫でてあげるリンク。
それを微笑ましく見ていたカヤノは、小さな音を聞いて背後を振り返った。
そこには例の子竜が、寂しそうな眼差しでカヤノを見ている。
くるるる……と喉を鳴らすような鳴き声に、自分を呼ばれているような気がした。

カヤノは子竜に近寄ると、その体を抱き上げる。
大きな瞳で見上げて来る子竜を見ていると、どうにも愛おしさが込み上げて来た。


「……名前つけてあげようか」


経緯はどうあれ、カヤノはこの子の所有権を得ている訳だ。
逃がしたけれどこの子の意思で付いて来た……なら相手ぐらいしてあげないと。
どんな名前が良いか、リンクがはしゃいでエポナに乗せて貰っている間も考えて、ふと思い付いた名前で子竜を呼んでみる。


「ナーガ、なんてどうかな?」


言うと、子竜は嬉しそうな笑みで鳴いた。
一昨日ダークにも名前つけてあげたな、なんて思い出して、少し微笑ましい気分になったり。

やがて日が暮れ、夕食をご馳走になった後に放牧場へやって来たリンク達。
マロン達は危ないので家の中に居て貰っている。
月明かりがそこそこあるので思ったよりは暗くなく、これなら照明が無くても何とかなりそうだ。


「……いるいる。あれがグエーね」


ナビィが空を見ながら呟くように言った。
見た目は頭の大きなカラスといった風。
実際のカラスより体は大きめだが。


「あいつは敵を見付けたら突っ込んで来るけど、動きは遅いわ。引き付けると攻撃を当てやすいよ!」

「オッケー。カヤノはパチンコで援護して」

「分かった」


飛び回るグエーの下に近付いて行くと、気付いた奴から突っ込んで来る。
しかしナビィの言う通り、動きがノロノロとしてだいぶ遅い。
リンクが先行する事で狙いが彼に定まり、そちら目掛けて攻撃を仕掛けようとするグエーを、カヤノは少々遠い位置からパチンコで撃ち落とす。
リンクはリンクで、複数まとめて近付いて来るグエーを充分引き付けてから、剣を振り上げて次々と倒して行った。


「リンク、カヤノ、新しい群れが来たわ!」


ナビィの声に彼女の見ている方へ視線をやると、複数のグエーがこちらへ向かって来る。
更に反対側からも数羽が群れを成して飛んで来ていた。


「弱いけど多すぎるよコイツら!」

「どうにかして纏めて倒せないかな……」


忙しなく剣を振ったりパチンコを撃ったりしていると、余裕が減り攻撃が外れるようになって来る。
そのうち周囲を取り囲まれる程の数になり、このままでは隙を突かれてやられてしまいかねない。


「リ、リンク! 一旦引いて体勢を立て直さない!?」

「そう、だね、ちょっとキツイ……」


二人で協力して固まった群れの敵を倒し、攻撃に隙が出来た瞬間に走り出す。
……いや、走り出そうとしたその時、目の前に意外な者が居て思わず立ち止まってしまった。

そこに居たのは竜の子。


「ナーガ!? どうして来たの、危ないわ!」

「え、ナーガって、カヤノいつの間に名前を……」

「それ所じゃないよ二人とも、逃げるの!」


ナビィが声を上げたその時、ナーガが飛び上がり、口から火を吐いた。
攻撃を仕掛けようと向かって来ていた複数のグエーが焼かれ、残ったグエーは尻込みして距離を取る。


「すごいなお前、火を吹けるんだ!」

「数が減った……怯んでるし今なら行ける、一気に倒そう!」


勇気が湧いてもう一度グエーの群れに立ち向かう。
ナーガの協力もあって次々と倒し、順調に数を減らして行った。

そろそろ全滅させられるか……と誰もが思った時、今までのものとは違う大きな羽ばたきの音が響く。
思わずそちらを見たリンク達の目に飛び込んだのは、他の個体の数倍はあろうかという巨大なグエー。


「で、でっかぁっ!?」

「来るよ、構えて!」


動く速度は他のグエーと変わらないが、大きさでついつい身構えてしまう。
ナーガが再び火を吹いてくれたがあまり遠くまでは届かない。
だがその炎の明かりに目が眩んだらしい大グエーにカヤノがすかさずパチンコを撃ち込むと、バランスを崩して地面へ落ちて来る。


「リンク、今よ!」

「たあぁーっ!!」


剣を振り上げつつ跳び上がり、渾身の力を込めて振り下ろした。
大グエーが邪気の塊となって消失すると、もうグエーの増援は現れない。
どうやら奴がグエー達のボスだったようだ。


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