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炎の精霊石・ゴロンのルビーを入手したリンクとカヤノは、ゴロン達に別れを告げてゴロンシティを後にした。
土と岩だらけの山道を下っていると、再び見つけたテクタイト。
「また居るじゃん! カヤノ、オレがちゃっちゃと倒して来るから待ってて」
「私も行くわ」
「……また洞窟の時みたいな無茶しない?」
「しない。それにテクタイトに対してはリンクが無茶したでしょう」
「だからあれはアイツが弱いからで……」
「そんな弱い敵からも守って貰っていたら本格的に足手纏いになる」
「頑固だなー……。分かった。でもオレが前に出るからね?」
頑固なのはリンクも少し当てはまる気がすると思ったカヤノだったが、これ以上 問答する時間も勿体ないので何も言い返さなかった。
言われた通りにリンクに前に出て貰い、彼の背後からパチンコで攻撃する。
リンクは勇敢に立ち向かい次々とテクタイトを斬り伏せて行った。
数体のテクタイトを倒して一息ついたら、下り坂の先にもう一体。
「あと一匹か。あれくらいなら一人で大丈夫だからねカヤノ、付いて来なくていいよ!」
「あ……」
返事をする間も無く向かって行くリンク。
確かに周囲には他に魔物の姿が見えないので過保護に引き止める気は無いが、どうにも頼られていないのが情けない。
一緒に残ったナビィに少し沈んだ口調で声を掛けてみる。
「やっぱり私、リンクの役には立てないみたいね」
「んもーカヤノってば自虐が過ぎるよ! さっき宴会の時あんな熱烈に告白されたじゃない。もう忘れちゃったの?」
「こ、告白って……守るって宣言されただけだから……」
「ほぼ告白じゃないの。リンクはアナタにイイトコ見せたいだけ! 信じられないなら試しに『リンクとは一緒に居られない』とか言ってごらんなさいよ、絶対に引き止められるから」
「そうかな……」
テクタイトをあっさり倒したリンクに手招きされ、坂道を下る。
ナビィの言っていた事が本当かどうか気になったので、彼女の言っていた通りの事を試してみた。
「ねえリンク」
「なに?」
「私、もうあなたとは一緒に居られない」
「えっ……」
リンクの目が驚きに見開かれる。
気まずい沈黙の後、彼は物凄い勢いで詰め寄って来た。
「な、なんで!? オレ何かカヤノの気に入らない事しちゃった!?」
「え、いえ、別に……」
「じゃあ何でそんなこと言うんだよ! 危険な旅が嫌になったなら やめてもいいけどオレと一緒に居る事がダメだって言いたいんだよね!? ひょっとしてまだ自分が足手纏いだとか思ってんの!? オレはそんなこと全く思ってないから!! 旅をすること自体が嫌になったワケじゃないなら、オレから離れないでよっ!! カヤノが居なくなるなんて、そんなの……やだ……」
一気に捲し立てられ、呆然と反応が出来ないカヤノ。
カヤノに掴み掛かっていたリンクの語尾が急速に弱々しくなり、体はずるずると沈んで行き……、そのままガックリ膝をついたかと思うと倒れてしまった。
「リンク……!?」
「ちょ、ちょっとどうしたの!?」
カヤノが慌ててリンクを仰向けに抱き起こし、ナビィも彼の周りをぐるぐる飛び回る。
しかしリンクは息を荒げて苦しそうにしており、反応を見せない。
「どうして急に……」
「とにかくカカリコ村へ運びましょう!」
カカリコ村まではまだまだ山道を下らねばならないが、迷っている暇があるなら一刻も早く出発した方が良い。
カヤノはリンクを背中に担ぐようにして歩き出すが、バッグを背負っている上に身長が殆ど変わらないので引き摺るような形になってしまう。
「ああ、カヤノ、リンク……! ワタシこんな時に何も出来ないの……!?」
「ナビィ。先にカカリコ村へ行って、誰か大人を呼んで来て欲しい」
「! 分かったわ、すぐに……」
言いかけた瞬間、カヤノ達の頭上に掛かる影。
思わず見上げると太陽の下、大きな鳥が飛来していた。
大人程もある大きなフクロウ……ケポラ・ゲボラだ。
彼はこちらの様子に気付いたようで、慌てた様子で舞い降りて来た。
「リンク!? これは一体どうしたのだ!」
「急に倒れてしまったんです。ひとまずカカリコ村へ運ぼうと……」
「それならワシに掴まるといい。早く休ませねば……!」
幸いとばかりにケポラ・ゲボラに頼るカヤノ。
彼がリンクを掴み、カヤノは彼の足に乗るような形で掴まる。
安全装置の無い空中遊泳は正直に言うと怖かったが、リンクの容態を考えると態度にも口にも出す訳にいかなかった。
カカリコ村のインパの家へ降ろして貰い、前日泊めてくれたコッコ姉さんに事情を説明して再び家を借りたカヤノ。
リンクをベッドに寝かせ、汗を拭ってあげても反応は無い。
カヤノは額に手を当てて熱を測ってみた。
「熱はあるようだけど、そんなに高くないみたい」
「疲れが出たのかしら? 今まで平和に暮らしてたのに、急に戦う事になってずっと気を張り詰めてたのかも……」
「そうかもしれない。さっきより息も落ち着いたし、今晩もここで休ませて貰いましょう」
一晩は様子を見て、治らなければ明日にでも城下町へ戻り医者に診て貰う。
リンクが戦えなくなってしまえばハイラルを守るのは難しい。
カヤノもゼルダもナビィも、まともに戦う術を持たないのだから。
それからカヤノはずっとリンクに付きっきりで看病を続けていた。
夜も更けた頃、コッコ姉さんが交代を申し出てくれて休憩がてらリンクを任せる。
リンクの様子も随分と落ち着き熱も下がったようなので、きっと明日には元気を取り戻してくれるだろう。
何となく風に当たりたくなって、インパの家から外に出る。
するとすぐにケポラ・ゲボラが舞い降りて来た。
「リンクの容態はどうじゃ?」
「だいぶ落ち着いて熱も下がりました。きっともう大丈夫です」
「そうか……リンクに何かあったらハイラルの未来は失われるじゃろう。カヤノよ、これからもあの子を気にかけてやっておくれ」
「勿論そのつもりですが、私、あまり彼の役に立てなくて」
「気にしておるのか」
「はい。せめてもう少しまともに戦えたら……」
「戦いか……そう言えばお前は神から、運命の子の側に居るよう命じられたそうじゃな」
「……そうなるみたいですね」
「そんなお前なら、ひょっとすれば力を得られるかもしれぬ」
「力を……?」
「どうじゃ、ひとっ飛びワシと出かけぬか。案内したい場所がある」
何の力かは分からないがリンクの役に立てるかもしれない。
迷わず頷いたカヤノは直後、ひとっ飛びという言葉を脳内で反芻する。
「……あの。飛んで行くんですか?」
「当然じゃ。お前の足では時間が掛かってしまうぞ」
「……」
「心配せんでも落としたりせぬ。しっかり掴まっておれ」
今更断る事は出来ないし、力を得られる機会なら逃したくない。
大袈裟かもしれないが覚悟を決めたカヤノは、ケポラ・ゲボラの足に乗るような形で掴まる。
ふわりと重力を振り切る感覚と、自分の意思に関係なく揺れそうになる体。
思わずぎゅっとしがみ付いたカヤノにケポラ・ゲボラが不思議そうに声を掛ける。