何度かモンスターと戦いながら洞窟を奥へ進むカヤノ達。
もうそろそろ最奥かな、とカヤノが思っていたら、突然 洞窟内を揺るがす地響きが鳴り始めた。


「な、何……!?」

「リンク、カヤノ! 何かがこっちへ来るよ!」


ナビィの言葉通り、地響きは段々と近付いて来ている。
ズシン……ズシン……と、巨大なものが歩を進めるような。
恐る恐る振り返った二人の目に入ったのは、見上げるほど巨大なドドンゴ。


「でけぇっ……! なんだよあれ!」

「古代竜キングドドンゴ! あいつが親玉みたいね」

「じゃあヤツを倒せばいいんだな。ナビィ、あいつの弱点は?」

「……えーっと」

「すぐ分かるワケじゃないのーっ!?」


まさかのまさか、こんな大事な時に考え始めたナビィに叫ぶリンク。
巨大な上に堅い鱗に覆われており、剣やパチンコでは倒せそうにない。
何とかナビィが弱点を探るまで時間稼ぎをしなければ……。

と、そこで嫌な予感がしたリンク。
ナビィに向けていた視線を隣へ動かせば、居たはずのカヤノが居ない。
案の定、カヤノはキングドドンゴへ向かっていた。


「うわーっ!! 何やってんだよカヤノーっ!!」

「私が時間稼ぎをするから、ナビィは奴の弱点を探って!」

「だからそういう無茶しないでってばぁ!!」


リンクの制止も聞かずキングドドンゴの近くまで来たカヤノは、パチンコで攻撃。
堅い鱗は全くダメージを受けていないが注目だけは集められる。
幸いにも動きはのろいので、軽く走るだけで逃げられそうだ……。

なんてカヤノが思ったのも束の間、突然キングドドンゴが丸まり、カヤノへ向かって転がり始めた。
巨体で勢いが凄い上に、歩くのとは比べものにならないスピード。


「え、う、うそっ!」

「カヤノ!」


泡を食って逃げ出すカヤノをリンクとナビィが追い掛ける。
追われたカヤノが逃げ込んだのは洞窟の最奥らしい巨大な空洞。
バクダン花があちこちに咲いていて、ひょっとしたらゴロン達がよく来ていたのかもしれない。
完全に行き止まりな上、端には溶岩。これ以上逃げるのは不可能そうだ。


「(なんとか方向転換して、追い詰められないようにしないと……)」


ほぼ全力で走っていたからか、カヤノの息がだいぶ上がっている。
そしてそれが祟り、足下がぐらりとふらついた。


「あっ……!」


派手に転んでしまうカヤノ。
背後からは巨体で転がって来るキングドドンゴが……。


「カヤノーーーーっ!!」


背後から追い掛けていたリンクとナビィが絶叫する。
今度は本当に駄目だと誰もが思った。

しかしキングドドンゴは、覚悟して伏せたカヤノの側をあっさり通過。
そして奥の壁へ派手に激突してしまう。


「え、あれ……?」

「あいつ図体が大きなだけであんまり利口じゃないのよ! リンク、あれならバクダン花を使えば……!」

「バクダン花……」


ようやく出て来たナビィのアドバイスにリンクも思い至り、空洞のあちこちに生えているバクダン花を確認。
キングドドンゴが立ち直ったのを確認してそこまで走ると、バクダン花を引っこ抜いて奴 目掛けブン投げた。


「これでも……食ってろっ!!」


何の抵抗も無くバクダン花を飲み込むキングドドンゴ。
バクダン花は腹の中で派手に爆発し、苦しみながら再び転がり始めたキングドドンゴは空洞の端にあった溶岩へ突っ込んで沈んでしまった。

今までの騒動が嘘のように静まり返る空洞内。
三人とも呆然としていたが、一番にリンクが我に返り
座り込んでいるカヤノに駆け寄る。


「カヤノ! またあんな無茶を……!」

「でも時間稼ぎの役に立ったでしょう? 私だって何かしないと、一緒に居る意味が無いじゃない」

「いいんだよ! カヤノはオレの傍に居てくれるだけでいいんだよ!」

「……」


何だか告白めいた事を言われ、少々気恥ずかしくなってしまうカヤノ。
リンクはどうやら、そんな内容を言った事に気付いていないようだ。


「こんなに心配してくれるなんて……」

「心配ぐらいするよ、ここまで危なっかしい子だとは思わなかった!」

「ごめんなさい。だけど私、リンクの役に立ちたかったの」

「オレだってカヤノを守りたいよっ!」

「……」


気恥ずかしい台詞2回目。
何だか雰囲気的にナビィが楽しそうだが、話題を振るのはやめておく。
どうせまた注意を忘れて からかって来るだろうから。



リンク達はドドンゴの洞窟を後にし、ゴロンシティへ戻った。
モンスターの親玉を倒した二人をゴロン達は大歓迎。
その中心に居たダルニアが、満面の笑みで二人へ駆け寄って来た。


「よくやったゴロ! まさか本当に一族を救われちまうとは!」

「へへっ、ただのガキンちょじゃないだろオレ達!」

「ああ、あの言葉は撤回する。今日からオメエ達とオレはキョーダイだぁ〜っ!」


暑苦しくバシバシ叩かれて咳き込むリンク。
それに巻き込まれないよう少し離れていたカヤノは、一通り収まってからダルニアに訊ねてみた。


「それにしても、どうしてあんなモンスターが……」

「ああ、実は前にガノンドロフって奴がここへ訪れたんだ」

「ガノンドロフ……!?」


まさかの、しかし心のどこかで予想していた名前が出て来て、リンクとカヤノは表情を引き締める。
ダルニアの話によると、ガノンドロフは突然この町を訪れ、配下に加えてやるから精霊石を寄越せだなどと言ったらしい。
それを断ったら洞窟のモンスターを凶暴化させ、更にキングドドンゴのような化け物まで生み出してしまった。


「それに比べて、オメエ達は危険を顧みずオレ達の為に……。オレからの感謝と友情の証だ、精霊石を渡すゴロ!」

「ありがとう、ダルニア!」


リンクはダルニアから精霊石を受け取る。
ゴロンのルビー……これで二つ目、残る精霊石はあと一つ。


「よっし! 真っ昼間だが構うもんか、宴会するゴロ! お前達も参加して行け!」

「うん!」

「私、またオカリナで演奏しますよ」


ようやくまともな岩を食べられるようになったゴロン達は、すぐさま洞窟へ行き山ほど採って来る。
それに特製の度のキツい酒(岩とかでなく普通に酒だった)を並べ、お祭り騒ぎの大宴会が開かれた。
カヤノは森の祭りでやったようにオカリナで曲を演奏し、ダルニアを筆頭に飲み食いと踊りが満面の笑顔の中で繰り広げられる。

暫くして ちょっと休憩をしようと、騒ぎの中心から離れていたリンクの隣に座ったカヤノ。
そんな彼女に、リンクがこっそり話し掛ける。


「カヤノ。オレさ、今回の事で本当にお前を守らなきゃって思ったよ」

「え……」

「前から思ってたんだ。でも洞窟で、あんな死にそうな目に遭って。あの時 本当に怖かった。カヤノを失うかもって思うと耐えられなかった」

「でも、守られてばっかりじゃ足手纏いでしょう」

「カヤノがそれを気にするなら止めはしないけど、あんな死にそうな無茶だけはさせない。オレは絶対に、カヤノを失わないから」


まだ11歳の少年だというのに、その眼差しは少し大人のそれを感じさせる。
どうにも照れ臭くなってしまったカヤノは顔を逸らし、やっぱりまた演奏して来る、とゴロン達の輪の中に行ってしまった。
ナビィがその背中を見送りながら楽しそうに。


「リンク、カッコイイじゃないのっ」

「格好いいとか悪いとか関係ないよ。オレはただカヤノを守りたいだけ」

「あなたの気持ちがどうあれ、カヤノを大事に思ってくれるのは嬉しいわ。……これからもカヤノと仲良くしてね」

「え? う、うん。もちろん……」


ナビィの言葉に違和感を覚えてしまい、返事にどもるリンク。
もちろん仲良くするつもりだが、何だか今のナビィの言葉は……。


「(……何だろう?)」


心に芽生えた違和感の正体が分からないまま、リンクはそれを振り切るように立ち上がり、カヤノやゴロン達の中に交ざって行った。




−続く−


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