「リンク……機嫌直して」

「なんだよ、カヤノは悔しくないの!? あんなに笑われて……!」

「私は信じてる。この国を救うのはきっと あなただって」


躊躇い無く真っ直ぐに告げたカヤノに、リンクは目を見開いた。
短い付き合いの中で彼の勇気や優しさの一端を知ったカヤノ。
そんなものを心に持っている上、ゼルダが見た夢に出て来たのならば間違いない。
きっとリンクがハイラルを救うのだと疑う余地は無かった。
リンクは笑われた後でのフォローが効いたらしく、頬を薄く染め照れくさそうに小さく笑う。

……その時、彼らに小さな異変が起こる。
昼過ぎの太陽に照らされた彼らに伸びる影。
リンクがカヤノの言葉に照れた瞬間、彼の影が本体の動きに関係なくゆらりと動いた。
リンクもナビィも、そして昨晩 異変に気付いたカヤノも気付かない。
影は昨晩よりも少し長く勝手に動き、再び元に戻った。


さて、カカリコ村には中途半端な時間に着いてしまった。
村にあった時計の時刻は午後3時手前を指し、今から山に登っても日が暮れてしまいそう。
朝 早起きをしなかった上に、色々と準備しているうち
城下町を出発するのが遅れてしまいこうなったようだ。
今日はもう村で休もうか……と思っていたカヤノは、少し前を歩いていたリンクに相談しようとした。
その瞬間、突然リンクが転んでしまう。


「うわっ!」

「リンク!」


慌てて駆け寄ると、彼の足下には地面に埋まった大きめの石。
恐らく半分ほど埋まっているのだろう、彼はこれに躓いたようだ。
ナビィがリンクの顔の側で心配そうに声を掛ける。


「大丈夫? 怪我してない?」

「してないよ、大丈夫。でもあっぶないなあ……掘り起こしとこうか」


石を掴み力を込めて引っ張る。
地面が少しずつ盛り上がり、やがて抜ける石。
持っておく意味も無いのでリンクはそれを道の端に放り投げた。

その瞬間、投げた石が何かに当たるような音と、悲鳴のような甲高い音が聞こえた。
一応人の居ない方に投げたと思っていたリンク達がそちらを見ると。
そこには、一羽のニワトリ……。


「あ、えと、ゴメン……」


残念ながらニワトリに人の言葉は通じない。
なんだか異様な雰囲気を放っているようなニワトリは、気のせいかもしれないがリンク達に向かって凄みを利かせている。
次の瞬間、高らかに上げられた鳴き声。
するとどこからともなく、複数のニワトリが羽ばたき襲い掛かって来た。


「えええええ!?」


いくらニワトリといえど襲い掛かられたら恐ろしい。
しかもモンスターではないのでうかつに反撃も出来ない。
つつかれそうになりながら慌てて村の中を逃げ回るリンク達。


「リ、リンク、あなた何か恨みを買うような事でもしたの……?」

「してないよ! 石はぶつけちゃったけどそれだけで!」

「じゃあ怒りの沸点が低いニワトリだったのね。しかもここらのボス」

「冷静に分析しないでよっ!」


淡々と言うカヤノに叫び声を上げるリンクだが、その間もニワトリ達は羽ばたいて浮きながら追って来る。
ちらりと振り返ったカヤノが数えたところ、数は7羽。
村で飼われているものだろうし傷付ける事は出来ない。


「カヤノ、二手に分かれよう! 石をぶつけたのはオレだし、きっとあいつらオレの方を追って来るハズ!」

「リンクはどうするの?」

「オレは逃げ回ってるからカヤノは飼い主を探して! 多分、何とかしてくれるだろうから!」


それが一番良い方法だろう。
先の道、井戸のある地点が左右に分かれているようなので、カヤノは右、リンクは左へ曲がる。

……が、何故かニワトリ達は全てカヤノを追い掛けて行く。


「うそ……! 来ないで!」

「カヤノっ!」


数拍 遅れて気付いたリンクが追い掛けるが、ニワトリは今にもカヤノに追い付きそう。
無我夢中で逃げていたカヤノは疲れで頭が上手く働かなくなり、思わず先方にあった柵を乗り越えて勢いのまま地面に滑り込んだ。
7羽のニワトリ達も全てがカヤノの方へ飛びかかり、このままでは大惨事……と、冷や汗をかいたカヤノだったが。


「あら〜、コッコ捕まえてくれたの? ありがとう!」

「……えっ」


突然、のんびりした声が上から降って来る。
見れば柵の外、赤茶色のボブヘアーの女性が一人。
彼女はニコニコしながら柵の中のカヤノに話し掛けて来る。


「わたし、コッコに触ると鳥肌 立っちゃうの。どっかへパタパタ飛んで行っちゃった時はどうしようかと思ったわ」

「は、はあ……」


ニワトリ達は家に戻って安心したのか、先程までの興奮した様子はどこへやら、すっかり落ち着いて地面をつついている。
呆然としていたリンクが歩いて来てカヤノと顔を見合わせるが、女性は何も気にする事なくご機嫌だ。


「何かお礼しなきゃ。……そうだ、アナタ達この村の子じゃないでしょ? よかったら今晩うちでゴハン食べてかない?」

「……頂きます」


リンクの話を聞かずに決めてしまったが、この際構わないだろう。
デスマウンテンはまだ行った事の無い山。
精霊石入手に時間が掛かって夜になっては厄介だし、今日は村で休む事にした方が良い。

日が暮れて招かれたのは村の中で一番大きな家。
そこは元々インパが住んでいた家だそうで、コッコのお姉さんは家が荒れないよう管理をしながら住んでいるらしい。
夕食を食べながら村の話を聞いてみた。


「あなた達この村は初めてなのね? ここはシーカー族の村だったのを、インパ様がわたしたち貧しい者の為に開放して下さった村よ」

「シーカー族?」

「王家に影から仕える一族らしいんだけど、詳しい事は分からないわ。でもインパ様はそのシーカー族なんだって」

「へー……」


一族という事は、そこに生まれればハイラル王家に仕える定めが待っているのだろう。
ここでも運命か……と少々気分が沈んでしまうカヤノ。
シーカー族達は、王家に仕えるという道しかない事を受け入れていたのだろうか。
インパも運命に従ってハイラル王家に仕えているのだろうが、それをあっさり受け入れたのだろうか。
いつか機会があったら話を聞いてみたいと思うカヤノだった。




−続く−


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