ゼルダに会い、ガノンドロフの手からハイラルを守る決意をしたカヤノ達。
兵士に見つかると面倒なのでインパの手引きにより城下町へ戻った。
その日はもう日が暮れていた為、城下町に宿を取って休む事に。
同じ部屋の中 休む準備をしていたカヤノに、ベッドの縁に座ったリンクが質問する。


「なあカヤノ。どうしてゼルダと知り合いだったこと黙ってたんだ?」

「知り合いだった訳ではなくて……私もよく分からないの。どうしてだかずっと彼女に会いたかった気がして」

「ゼルダもそう言ってたっけ、不思議だな……。じゃああと一つ。カヤノってひょっとして森の外から来た?」

「え?」

「なんか外に慣れてるように見える」


別にこの世界に慣れている訳ではないが、確かに森で閉鎖的な生活をしていたリンクよりは世間に詳しいだろう。
言ってもいいものか迷った。
そもそも別の世界の事を話しても理解して貰えるか怪しい。
だが説明するのにそんな事を言う必要は無いと思い至ったカヤノは、異世界関連の事は話さず本当の事を話す事に決める。


「リンクの想像通り森の外から来たわ。私、コキリ族じゃないの」

「そっか。何となくそんな気はしてた。別に構いやしないけど」

「罪を償う為にこうしているんだけどね……」

「え? カヤノ、何か悪い事したのか?」

「家族を殺した」


驚いたリンクの息が詰まるのをカヤノは確認した。
軽蔑されて一緒に居るのを拒否されるかもしれないが、彼と行動するうち何となく親しみのようなものを感じ始めていたカヤノは、
黙っておくのが憚られてつい言ってしまった。
リンクからは予想した罵倒や糾弾は無く、話の続きを促して来る。


「なんでそんな事したんだ? 何か理由があったんだろ?」

「どうしてそう思うの」

「カヤノは理由も無くそんな事をするヤツじゃないと思うから」


確かに理由はある。
“殺す”理由であって“殺しても許される”理由ではないが。
事実、許されなかったから今こうしてこの世界に居る。

罵倒や糾弾が無かった事が無意識に嬉しかったのだろうか、カヤノは異世界から来た事は黙ったまま、一部始終を話してしまう。
幼い頃から抑圧されていた事、それが我慢できなくなった事。
話が終わって真っ先に反応したのはナビィだ。


「ひっどーい、自分の子供をそんなに押さえつけるなんて!」

「……だけど。私は家族を殺してしまった」

「うん、確かに、殺すのは……良くないと思う。けどカヤノをそうさせたのはカヤノの家族でしょ!? 酷い抑圧なんかしなければカヤノだってそんな事しなかったハズよ! それって家族のせいで罪を背負うハメになったようなものでしょ……」


まるで自分の事のように怒ってくれるナビィ。
そんな彼女を見ていたカヤノに湧き上がったのは、気まずさ。
家族を殺した時は恨みが湧き上がっていて後悔などしなかったけれど、自分以外の誰かがこうして自分の家族に怒っているのを見ると、何となく批判の言葉を否定したくなってしまった。

これは……後悔なのだろうか。
まだはっきりとは分からないが、この気持ちが育てばいずれ後悔になる気がする。
あんな事をしてしまった以上 後悔などしてはいけない……。
いや、後悔し反省する事こそ必要なのだろうか。
きっとそうだろう。でなければ罰の意味も減ってしまう。


「神様は、私に反省や後悔をさせたいんでしょうね」

「カヤノはやっちゃいけない事をやってしまったかもしれないけど。それでもワタシはカヤノの味方だからね。罪を償わなくちゃいけないならワタシも手伝うわ!」

「ナビィ……」

「そっか、カヤノももう、家族とは一緒に居られないんだ」


リンクの寂しそうな声が聞こえた。
殺害にまで至ったカヤノとは比べられないが、リンクも親であるデクの樹と死に別れ、コキリ族の仲間とも別れている。
こうなった以上コキリの森に帰れるという保証も無い。


「オレと一緒だね」

「……違う。リンクの寂しさは、私の比なんかじゃない」

「寂しさ?」

「違うの?」


勇気があるとは言ってもまだ11歳。
こんな事になって寂しさを覚えない訳はないだろう。
リンクはカヤノに指摘されてから少し考え込んでいたが、やがて声を震わせ始めてしまった。


「……デクの樹サマ」

「リンク……」

「オレ、もう帰れないのかな。コキリの森に。ゼルダを手伝ってハイラルを守るのはいいけど……やっぱり……。……ちょっと、寂しい……な……」


羨ましい。
カヤノが今のリンクを見て抱いた感想。
親であるデクの樹が死んで悲しむような、そんな関係を築けている彼が羨ましい。
そして自分には無いその気持ちを大事にして欲しいと思った。
カヤノはリンクに近寄ると、ベッドの縁に座ったままの彼を抱き締める。


「わ、っ、カヤノ!?」

「泣きたいなら……泣いても良いのよリンク。私はあなたが羨ましい。親を想って悲しめるあなたが、とても」


カヤノの腕に包まれたリンクの瞳に涙が溢れる。
抱き締めたままリンクの頭を撫でるカヤノだったが、暫く黙ってじっとしていたリンクが やがてカヤノを押して離し、
目元の涙を乱暴に拭って笑顔を浮かべた。


「ありがとカヤノ、元気出た!」

「泣かなくてもいいの?」

「いい。オレはハイラルを救うって決めたから、泣いてなんかいられないよ」


そんなリンクに、男の子ねぇとしみじみ言うナビィ。
そうか、一応 異性の前で強がりたいんだ……と納得したカヤノは、ついつい微笑ましくなってクスリと笑ってしまった。

そんなカヤノの笑顔を見たリンクが呆然とする。
いつか自分の事でカヤノを笑顔にしてあげたいと思っていたが、意外とすぐに叶い呆気に取られた。
そして彼女の整った顔立ちに浮かぶ笑顔は華やかで。
今まで知らなかった胸の高鳴りを覚えて恥ずかしさが沸き上がったリンクは、少々 頬を赤く染めてそっぽを向いてしまった。

……その瞬間、カヤノは見た。
ランプの明かりで影が出来た部屋の中、リンクの影がゆらりと、彼の動きとは無関係に動いたのを。


「……!?」

「カヤノ?」


驚いて瞬時に一歩後退ったカヤノへ、ナビィが不思議そうに声を掛ける。
リンクも何事かとこちらを見て来るが、影は主の動きに合わさっており、それからいくら眺めても彼の動きと無関係に動く事は無い。
まさか影が動く筈なんて無い、気のせいだと自己完結したカヤノは、何でもないと一言だけ言って終わらせた。


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