20-4



電気……サンダー系の魔道書か。
エメラルダが驚いたように目を見開き、ボディガード達は見るからに動揺してる。
この世界っていうかポリスかな、このポリスには魔法が存在しないんだろうか。
電車の中なんて閉じられた空間では、魔法は銃より圧倒的優勢に立てる武器だ。
ってかそう言えばホントだ、武器没収されてないじゃんエメラルダのバーカバーカ!
例え没収してても魔法を知らないんじゃ、見た目はただの立派な本である魔道書までは取られなかった可能性もあるよね。

サムスとシュルクも武器を構えて臨戦態勢に入り、カービィは私の頭の上に乗った。
あ、シュルクの武器が何か妙にモナドに似てる。
あれ前に亜空軍の襲撃があった時、リンクが使ってたビームソードの亜種みたいな物かな。
私も光線銃を構えて……って、ん? そう言えば……。
周囲に敵が居なくなった今なら撃てる!


「ちょっとお眠りしてて下さいなお嬢様っ!」

「!?」


残ったエメラルダ達に向かって光線銃を撃ちまくる。
ホテルの部屋の入り口に向かって撃ち続けた時と同じ状況だ、私ぐらいの腕前でも、目標が狭い場所、しかも近くに密集してるから難なく当てられる!
エメラルダ達を眠らせた後、ルフレのサンダーで気を失った奴らにも睡眠銃を撃ち込んでおく。
その間にサムスとシュルクがドアの辺りを何やら探っていた。


「おかしいな、どこかに緊急停止用のボタンがある筈なんだけど」

「人の居ないホームにあった車両だからな、もしかすると規定外で造られた車両なのかもしれない」


ああ、地下鉄を止めようとしてたのか。
エメラルダの言葉から考えるに、この車両はきっとノースエリアに向かってる。
レジスタンス達は恐らく政府中枢の土地に居るだろうから。

近辺にロープのような物が無いからエメラルダ達を拘束できない。
普通の線路じゃないのか、さっきから外の景色を見ていても駅の一つも通り過ぎないんだよね。
時折ちょっと広い空間に出る以外はずっと壁だ。
私達は仕方なく、車両が止まるまで無為に時間を過ごす事になってしまう。

途中でエメラルダ達が起きそうになったので再び睡眠銃を撃ち込んだ以外は、何もしないままついに地下鉄が止まった。
念のため三度 睡眠銃を撃ち込んで眠りを深くさせておく。
……まさかと思うけどこれ、睡眠薬みたいに撃ち込まれ過ぎると死んじゃったりとか、無いよね?
さ、殺傷能力は無いってアイク言ってたよね、短時間に何度も撃つとマズイなら言うよね!?
エメラルダにはムカついたけど、さすがに殺したい訳じゃないからなあ。

周囲を警戒しながら降りると、やはり人気も駅名表示も無いホーム。
近くに職員の詰め所みたいな部屋を見付け、中にロープがあったのでエメラルダ達を縛っておく。
そこにマップもあったので頼りにしながら地上へ出ると、やっぱりノースエリアのよう。
だけど地上にも人気が全く無い。
情報が無いかと市民証のディスプレイを見ると、どうやら外出禁止などの戒厳令が出ているようだった。
ルフレも情報を調べているのか、市民証のディスプレイから目を離さないまま口を開く。


「何を置いても、早い所ノースエリアから出てしまいたい所だけど……難しそうだ」

「え、何か問題が?」

「ノースエリアに戒厳令が敷かれてから、各エリアを隔てる壁が完全に封鎖されたようなんだ。地下鉄も動いてないし、高速道路も他のエリアへの道は封鎖だって」

「じゃあ事が終わるまでノースエリアで逃げ隠れしなくちゃいけないんですね……」

「地下鉄の線路を歩くって方法も考えたけど、そこも封鎖されてしまったみたいだ」


八方塞がりって訳ですか、ああもう……!
取り敢えず、いつエメラルダ達が追って来るか分からないから移動しよう。
ここはノースエリアのやや東寄り。更に東を目指して進む事になった。
人気が全く無い大通りを東へ向かって走ると、前方、川に掛かった橋が急にせり上がり始めた。
真ん中から二つに分かれて……船が通る時のような。


「コノハねえちゃん、あれ……!」

「な、何で急に橋が!?」

「逃げ場を無くしてるのか!? 完全に上げられたらまずい!」


シュルクの焦りようからしてだいぶヤバそう。
そう言えばいつか見たグランドホープの地図で、ノースエリアは川で縦3つに分断されてたような。
橋を全部上げてるんだとしたら……!


「走れ!」


サムスの檄に尻を叩かれるまでもなく全力疾走。
大きな橋だから時間が掛かってるけど、猶予もそんなに無さそう。
ゆっくりと傾斜がきつくなって行く橋を上り、先端まで辿り着くとサムスに抱えられるようにしながら向こう側に飛び移る。

……上っている途中で何かエンジン音のようなものが聞こえていた。
気にする余裕も無くて無視してたけど、せり上がった橋の中央から向こう側に飛び移る瞬間、一台のジープがエンジンを唸らせて、私達とは逆に向こうから飛び移って来た。
ちょうど宙に浮いている時に擦れ違う形になったけれど、その瞬間、まるで世界がスローモーションになったかのような錯覚に陥る。

思わずジープに向けた視線の先。
助手席の窓からこちらに視線を向けていた、ピカチュウとルカリオ。
後部座席にはマリオ達も乗っていて……。
確かに彼らは私の方を見た。

ピカチュウとルカリオには1ヶ月ぐらい振りに会った。
マリオ達に至っては4ヶ月ぐらい振り。
だけど今の私は再会を喜べない。喜んではいけない。

向こう岸に飛び移った後は靴で滑るように斜面を降りる。
そうしながらも私の頭はピカチュウ達の事でいっぱいで。


「今の人達が私の“友達”です! 彼らに会っちゃ駄目なんです……!」

「分かっている、アンドロイドの件だろう。心配せずともお前の事は必ず守るからな、コノハ」


手を握ったまま力強く告げてくれたサムスの言葉に、心が落ち着いて行く。
私にハヤさんを重ねているのだとしても嬉しいものは嬉しい。

……そう言えば、ふと思った。
“ハヤ”って名前、この世界では珍しい気がする。
“ヨリ”って名前のお婆ちゃんと似た感じがするし……。
もしかしたらハヤさんも、古のリグァン王国の関係者なのかもしれない。

思い付いても今それを話し合っている場合じゃない。
親友たちと再会を喜び合えない寂しさ、悲しさを無理やり胸に仕舞い込んで、私は今の仲間と共にノースエリアを東へ駆けて行く。


「(……ピカチュウ)」


一番に想いを馳せるのは、この世界に来てからずっと私の拠り所だったピカチュウ。
本当はちゃんと会いたいのに、会って話したいのに。
今の私では不可能だし、この先も二度と話せないかもしれない。
橋は完全に上がってしまい、もう行き来は出来なかった。




−続く−


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