20-3



しかしこれ、苦しませるのが目的ってまた拷問フラグなんじゃないの?
身近に仲間が居るから強がれるけど、正直心の奥で恐怖が疼き始めてる。
だけどエメラルダは別方向から攻めて来た。


「あなた、ジェネラルインストール様と一緒に居ないのですね」

「……何でそこでアイクが」


あ、名前言っちゃった。まあ良いか?
名前を言った瞬間にまたエメラルダの笑顔が崩れた気がするけど、今度は気がするレベルですぐに話が続けられる。


「あなたが彼と親しくしているのは調査済みですわ」

「いやその、親しいって言われる程に長く接した訳でも……」

「彼があなたに親しみを感じて接していたのは知っています。そしてあなたも満更ではない。違いまして?」

「……」

「無言は肯定と受け取りますわ。そんな彼が今この状況で、あなたを守っていない筈が無いのです。実に忌々しい事実ですけれど」

「それが、何なんですか」

「こんな時に側に居ない……側に居られない事情があるのでしょう。それも、あなたの方に」


思わず声を上げそうになったのを何とか耐えた。
アイクが私を守るどうのこうのは置いといて、私の事情は合っている。
セレナーデの情報によるとアイク達は私が死んでいる事も、私に似せて造られたアンドロイドがある事も知っている。


「アイク様の方にあなたを探す様子が無い。そんな筈は無いのです。そこであなたがグランドタワーに囚われていた事を思い出しましたわ」

「よくご存知ですね」


政府側の人間だから知っているのかもしれないけど。かなり地位の高い人みたいだしさ。
エメラルダは私の返答など聞こえていないように言葉を続ける。
ガノンドロフといいこの人といい、本当に話聞けよ。


「あなたの痕跡が無いか調べてみたら、まあ。醜い死に様でしたこと」

「よくもそんな事を……!」


記録映像で私の死に様を見たシュルクが激昂する。
ルフレ達も何か言いたげにしていたけど、ボディガードの一人がシュルクを床に押さえ付けて止められる。
エメラルダは片手で口元を覆い、実に醜いものを見るように私に侮蔑の視線を向けた。


「あなたのような女は、死に様さえ美しくあれないものなのですわね。実に哀れな方」

「……そんな事を言いたいんじゃないでしょう」

「いいえ、言いたいですわ。あなたにはうんと言いたい。本題などその後で充分」

「はっきり言って下さいよ、私がアンドロイドだと知ってるんでしょう!」


言った後で、今のは愚か過ぎる言葉だったと後悔する。
これが単なるカマかけだったら私あまりにも馬鹿だよ。
本題に不必要な悪口を言われて、ついついムカツキを抑えられなかった。
幸いにもエメラルダは本当に私がアンドロイドだと知っていたらしく、私が自分でネタバレした事に関しては何も反応しない。


「どういう訳か政府の思い通りには動いていないようですけれど。少なくとも今のアイク様達にとって敵だと認識されている事は間違い無い」

「……あ」

「もし今アイク様達に会ったらどうなる事やら。まあ破壊されるのが関の山でしょうね」

「……」

「あなたが一緒に居たピカチュウ達もアイク様と行動を共にしている。親しい者達に敵扱いされ破壊される……あなたに相応しい最期ですわね」


この、人。
私をレジスタンスの所に連れて行くつもりなんだ。
政府側の人だと思うんだけど、アイクを慕っているようだから革命の邪魔はしないかもしれない。
でも私に向ける悪意も本物で。


「本当なら出来る限りのお持て成しで体も心も痛め付けて差し上げたかったのですけれど、この先、どのくらいの時間で革命が成されるのかが分かりません。政府が倒されてからもあなたが動いているようでは本物だとばれる可能性が高まりますわ。あなたが大事なお友達やアイク様に壊される、それが重要なのですから」

「……なん、で」

「あなたが憎いから、ですわ。せっかく邪魔者が居ない世界に生まれたのに、まさかこんな伏兵が存在するなんて……どこまでも忌々しい女ですこと」


だからどうして憎いのか訊きたいんだよこっちは……!
最初に会った時、私を地下鉄に乗せたのもきっと悪意あっての事に違いない。
それだと事故を予め知っていた事になるんだけど、今私が知りたいのはそれじゃない。
初めて会った時から私に悪意があった理由を知りたいんだよ。

言葉の端々から察するにこの人アイクの事が好きなんだろうね。
だからアイクが親しみを感じている私の事が憎いと。
でも最初にこの人に会った時、私アイクと会った事なんて一度も無かった。
一体どこからどういう理由で憎まれたのか全く分からない。
それとも最初のアレは本当に親切心だったとでも言うのだろうか。
だけど私がエメラルダの口添えで地下鉄に乗れた事を知ったアイクが、めちゃくちゃ忌々しそうにしてたよね。やっぱ悪意?

……なんて考え事をしていたら、「コノハ!」と誰かの声が聞こえた。
意識を明後日の方にやってたから誰の声か分からなかったけど、味方の誰かの声だ。
次の瞬間、エメラルダのボディガード達に引き倒され、腹を踏まれる。


「あぐぁっ!!」

「コノハねえちゃん!」


皆は私を助けようとしてくれたけど阻まれて叶わない。
その間に私は殴られるわ蹴られるわで……。


「顔など外から見える所を傷付けぬようお気を付けなさい。同情できる要素があるのはいけませんわ」

「こ、この……!」

「何ですのその態度は、この程度で済む事を幸運に思いなさい。本来なら殺してくれと懇願したくなる程の目に遭わせる予定だったのですから」


ほ、本格的に腹が立って来た……!
負ける、もんか! 一度は死んだんだ、このくらい、耐えて、みせる……!

尚も私を助けようとするサムス達を手で制する。
大丈夫、エメラルダは私をアイク達に殺させたいんだから、今は命までは奪われない。
これ以上逆らって皆まで暴力を振るわれたら……。


「……ちょっとコノハさんに気を取られ過ぎじゃないかな」


え? あ、あれ、今の声、男のルフレ……?

何とかそちらに顔を向けた瞬間、辺りに閃光が迸った。
思わず目を閉じたら次々と悲鳴が聞こえて、気付けば私を殴る蹴るしていたボディガード達と皆を阻んでいたボディガード達が倒れている。
いつの間にか男になっていたルフレの手には、ハードカバーの立派な装丁をした本……魔道書。
へっ、魔道書?

私はサムスに支えられつつ立ち上がり、皆の元へ。
全員がしっかり立ち上がってエメラルダと残りのボディガードに対峙した。
あれっ、一気に形勢逆転のムード?
ルフレ(♂)はやれやれと言いたげに呆れたような微笑を浮かべている。


「まさか武器没収もしないなんて、よっぽど急いで相手をして貰いたかったんだね。ボディガード達が全員コノハさんに注目してくれたお陰で攻撃できたよ」

「い、今の電気は……!」


  


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