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「……サムスさん、私の銃、殺傷能力が無いんです。眠らせるか痺れさせるだけ」

「そういうタイプの光線銃か? 随分と珍しい物を持っているな」

「扉が開いたら連射しますから、一気に部屋の外に出ましょう。そう何十人で来ている訳でもない筈です」

「確か非常階段が近かったな。分かった、敵の処理はコノハに任せる」


段々と暗闇に目が慣れてぼんやりと壁や扉が確認できるようになった。
扉を叩く音は少し経つと止んだけれど、静かになった後、ピッと電子キーを外す音が聞こえる。


「コノハ!」

「はい!」


返事の次の瞬間に扉が勢い良く開き、私は侵入者目掛けて光線銃を撃ちまくった。
次々と呻き声がしてドサドサ人が倒れるような音。
サムスが早めに声を上げてくれたお陰で助かった、事前に心構えが出来たから、扉が開いた瞬間から撃てた。


「コノハねえちゃん、みんなねむったよ!」

「お、おお、もう大丈夫!? 追加オーダー来ない!?」

「もう廊下に人の気配は無い。援軍が来ないうちに行くぞ!」


ショルダーバッグを肩にかけ、倒れた人達を遠慮なく踏み付けながら部屋を出て非常階段へ走る。
幸いにも非常出口の案内板は停電の影響を受けていない。
頭に乗ったカービィに市民証を渡してメッセージを送って貰うと、地上へ辿り着いた時にはシュルクとルフレが待ってくれていた。


「皆さんご無事ですか!?」

「な、なんとか……侵入しようとした人達の正体は確認できませんでしたけど」

「まさかシェリフじゃないよな……取り敢えず遠くへ離れよう」


街は少しずつパニックが収まって来ているみたいだけど、相変わらず停電は継続中で予備電力も回復していない。
何か明かりが無いかと辺りを見回し、ふと空を見上げるとゾッとする程真っ暗だった。

あれ? 今日 曇ってたっけ?
普通に快晴だった気がするんだけど、何で星も月も見えないんだろう。今日は新月じゃなかったのに。
星だってグランドホープの明かりが消えた今、見える筈だよね。
何か良くない事が起きる前触れだろうか……ってネガティブ思考治ってないな。
すぐこうやって悪い事に結び付ける癖は何とかしないと。

はぐれないようサムスが手を繋いで走ってくれている。
人混みを縫って出来る限り混乱の少なそうな方へ向かっていた、ら。
突然カービィがハッとしたように体を震わせた。


「コノハねえちゃん!」

「え」


そこは通りかかった地下鉄の入り口。
横から誰かに引っ張られ、バランスを崩して思わずサムスの手を離してしまう。
カービィが頭から落ち、私は私を引っ張った誰かに抱えられるようにして地下へ連れて行かれる。


「コノハ!」

「ちょ、何ですか、放してっ!」


叫んで暴れても私を運ぶ誰かは無反応。
声がそんなに遠ざからないのでサムス達は追ってくれているらしいけど、私どこに連れて行かれてんの……!?
そのうち背後から「うわっ」とか「離せ!」とか皆の声で聞こえて来る。
わ、私を追ってたせいで捕まっちゃったとか!? っていうかそうだよね!?

地下は所々に明かりが点いてる。
政府管理下の発電システムとは別に電気を作ってるんだろうか。
私達は人気も駅名表示も無いホームに停まっていた地下鉄の車両に入れられた。
発車して少し経った所で車内の明かりが一気に点き、私達を連れ去った者の正体が分かる。


「ごきげんよう、皆さん」


ボディガードらしき10人近くの男の人に挟まれ、にこにこと笑んでいる女性。
緑色の長髪をした……あれ、この人、確か……一ヶ月半くらい前かな。
地下鉄事故の時、私を地下鉄に乗せてくれた社長令嬢。
なんかアイクが憎々しげな表情を浮かべてたりピカチュウが関わるなって言ったりしてて……。
ああ、この人ひょっとして敵なんですかね、政府側の人なんですかね……。


「わたくしの事をご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、改めて自己紹介させて頂きます。地下鉄経営会社社長の一人娘、エメラルダと申しますわ」

「で、その社長令嬢が私達に何の用だ」

「本当に用があるのはそちらの方です」


そう言って私を見るエメラルダさん。
何なんだ、もしかして事故の時に私を地下鉄に乗せたのも悪意あっての事か!?
だとしたらムカツクー! 美人なのがまた悔しいー!


「……あなた、しぶといんですのね」

「えっ?」

「誰からも見限られて独りぼっちになると思っていたのに、まだそんなに味方が居るなんて」


笑顔は崩れてない。なのに妙に怖い。
ていうか何を言ってるんだこの人は。


「何故あなたのような容姿も中身も取るに足りない女が、あの方の心を奪っているのか……」

「と、取るに、足りない……」

「好き勝手言わないで下さい。あなたはコノハさんの事を知らないんです」


ルフレが珍しく語気を強めて抗議してくれた。
ふおおお味方有り難い嬉しいやっほう!
なんて私が心の中で喜んでいるのが伝わった訳ではないだろうけれど、エメラルダさんが笑顔を消して私を睨み付けた。
ヒイイ怖ァ!

そんな事など無かったかのように笑顔に戻ったエメラルダさんは、不機嫌さを微塵も感じさせない声音で言葉を続ける。


「兎にも角にも、あなたに対するわたくしの計画は今の所 失敗と言わざるを得ません」

「……政府は何を企んでるんですか」

「政府? まあ、あなた自分が政府から何かの計画の相手にされるほど大した存在だとお思いなの? とんだ自意識過剰ね、お笑いですわ」


ち、ちくしょうムカツク!
今時 少女漫画や乙女ゲームにも、こんなあからさまな悪女なんて居ないだろ!

私これでも古に滅んだ王国の王妹殿下の血を引いてるんですー!
レジスタンスの情報を引き出す為に捕まってたりしたんですー!
ってかそもそも私は異世界人でトリップして来たんですー!
あんたは知らないだろうけどねムッキー!


「じゃあ計画って何ですか!」

「もう一つの本命は実に順調だというのに、やはり“ついで”じゃ駄目ですのね」

「聞けよ話!」

「お黙りなさい。少しはご自分の立場を顧みてご覧なさいな。今わたくしがあなた方の命を握っている事、お忘れではなくって?」

「……望みは何だ」


サムスが静かに言う。
こんな奴の言う事聞かなくちゃいけないなんて悔しい、けど、他に手が無い。
エメラルダさん……さん付けするの嫌だ、心の中だけでも呼び捨てにしてやる。
エメラルダは相変わらず笑みを崩さないまま、実にご機嫌で言い放ってくれた。


「コノハとかいう、そこの女が苦しむ事」

「命を奪う事が目的ではない訳だな」

「今は、ですわね。出来る限り苦しんだ後は死んで頂きます」


あー、苦しんだ苦しんだ、もう苦しんだよ。
てか苦しんだ挙げ句に死んだよ一足遅かったね残念でしたー!
なんて言える訳ないけど心の中で強がっておく。
相変わらず私は心の中じゃないと強がれないらしい。


  


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