20-1



「コノハ、俺と結婚してくれ」


何の夢だよ。
いや夢なんだけどそういう意味の夢じゃないっていうかドリームノベル的な意味っていうか。

目の前には私の記憶にある姿より大人になったケンジが居て、指輪を差し出しながらテレビや創作物でしか聞いた事の無い台詞を言った。
その対象が自分だと理解するまでに少し時間が掛かる。


「……おいコノハ」

「……は、えっ」

「嬉し過ぎて声も出ないか?」

「嬉しい<衝撃」

「この野郎」


プロポーズだってのにこの雰囲気ってどうなの。
久し振りに見た故郷の夢はだいぶ時間が飛んだような気がする。
私達は今どれくらいの年齢なんだろう。
自分が結婚なんて想像できなかったけど、どうせするなら30前にはしたい。
ケンジの外見からして20代後半だと見ておこう。


「えっと、私と結婚したいのケンジ?」

「お前プロポーズの意味知ってるか」

「知ってるよ。正気の沙汰じゃないなあって思って」

「馬鹿かお前」


あ、出ましたケンジの口癖的な“馬鹿かお前”。
このお人はプロポーズまでした私の事を馬鹿だと思っているらしい。
その通りだから否定はしないけど。


「告白の返事みたいに待たないからな。今この場で拒否か承諾かしろ」


意識してみればここはイルミネーション輝くどこかの海辺。
臨海の複合商業施設って所かな。
木で組まれたデッキの床下から小さく波の音が聞こえるロケーション、悪くないね。
夜だけど明かりが多いからケンジの顔もちゃんと見える。

グランドホープに来てから何度か見ている故郷の夢だけど、何か意味があるんだろうか。
私の望郷の念が見させているのだとしても、こんな未来の事までは望んでない。
そもそもケンジと付き合ってプロポーズまでされる仲になるっていうのがね……。
少なくとも今の私にそういう望みは無い。

どうせ夢なんだし流されてみようかな。
いつか見た夢みたいに都合の良い所で目が覚めるかもしれないし。


「……うん。私、ケンジと結婚する。よろしくお願いします」


目は覚めなかった。
だけど次の瞬間急に場面が変わって、恐らく自分の家だろう見慣れないアパートの一室、
目の前にケンジは居なくてマナが居る。


「おっめでとーコノハ、ついに結婚だとか羨ましいぞこのこのぉ!」

「マナ……自分でも信じられないんだけどね」


信じるも信じないも夢だしつい今の事だからフワフワしっぱなし。
ダイジェスト形式なんですかこの夢。確かに今までもそんな感じだったね。
マナは心から私とケンジの結婚を喜んでくれている。
思いっ切り抱き締められて、次にマナが何を言ってくれるのか期待した。

……そうしたら。
予想だにしなかった言葉が返って来た。


「コノハは幸せになったんだ。もう思い残す事は無いよ」

「え」

「あたしの役目はおしまい。あんたの事はケンジに任せた。さよならコノハ、今まで本当に楽しかったよ。ずっと元気でね」

「ちょっ」


慌ててマナを引き離し、言葉の意味を訊ねようとした所で目が覚める。
そこはレジスタンスの行動開始まで引き籠もっている事に決めたサウスエリアのホテルの一室。
夢が鮮明に思い出されて心臓が高鳴り、息が荒くなってるのに血の気が引いていた。

何でマナはあんなこと言ったの? マナの役目って何?
幼馴染みの大親友なのに思い当たる節が全く無い。私の夢なのにさ。
記憶を必死で手繰り寄せても答えどころかヒントすら見当たらない。


「……マナ?」


サムス達を起こさないよう呟き、もう一度夢の中の彼女を思い返してみる。
引き離した時、最後に見た筈の表情がどんなものだったか思い出せなかった。



レジスタンスが行動を起こす筈の今日。
特に何事も無く平和に引き籠もり生活が終わり日が暮れた。
シュルク&ルフレとはまだ事が起きてないから合流できないんだけど、本当に今日なんだろうか。セレナーデの言葉だけだから確証って無いよね。
もう夜なんですけど……。
同じ疑問をずっと持っていたらしいサムスが訊ねて来る。


「コノハ、今日の事は本当に信用して良いのか?」

「……少なくとも、私の“友人達”に関する唯一の情報です」

「まともな情報が聞こえない今、信じざるを得ないという訳か」


日はとっぷり暮れたけれど、不夜城グランドホープは夜でも明かりに困らない。
何の気なしに窓際へ近寄り外の夜景きらめく街並みを眺めた……次の瞬間。
一瞬で辺りが暗闇に包まれた。


「な、なに!」

「停電……!?」


停電だ。直前までの明るさが嘘のように真っ暗。
見えないけどカービィが私の頭に乗っかったのが分かる。
市民証のライトを頼りにサムスも私の側まで来て、腕を引っ張られ窓際から離れた。
慌てて近くに置いていた光線銃を手探りで探し出し、私も微力ながら警戒する。


「コノハねえちゃん、サムスねえちゃん、くらいよー」

「う、うん、そうだね暗いね」

「予備電力はどうした、なぜ作動しない……」


サムスの言によると、停電でも予備電力が働いて真っ暗にはならないらしい。
それが今は真っ暗闇。
身近には懐中電灯並の市民証のディスプレイの明かりだけ。

外からは混乱と恐怖の悲鳴が聞こえて来る。パニックになっているらしい。
真っ暗闇なんて自分の意思でしか経験が無いだろうし仕方ないか。
サムスは私を片手で抱き寄せて辺りを警戒しているみたい。


「コノハ、もしかするとこの停電はお前の“友人”の……」

「え、じゃあ今まさにどこかで……?」


ジェネラルインストールであるアイクが一緒ならこの停電も可能なのかもしれない。
彼を慕うシェリフも仲間になってる可能性もあるし。
暗闇に乗じてガノンドロフを暗殺でもするんだろうか。

その時、私の市民証にメッセージ。シュルクからだった。


“今、君達が泊まっているホテルのある通りに居る。混乱が酷いから早めに合流しよう”


「シュルク達か?」

「はい。混乱が酷いから早く合流しようって。今ホテルがある通りに居るそうです」

「では取り敢えず部屋まで来て貰って……」


サムスがそう言い掛けた瞬間に誰かが部屋の扉をノックした。
全員の動きがぴたりと止まり、暗闇に少し慣れて来た目で入り口の方を見る。

……え、誰?
シュルク達は今通りに居るってメッセージ入ったし、他に私達を訪ねて来そうな人なんて思い当たらない。
そもそも居場所を知っている人自体がそんなに……。

カービィが飛んだのか頭から感触と少しの重さが無くなった。
暗がりに本当にうっすら見える動きを確認すると、ドアスコープを覗きに行ったらしい。
だけどカービィが様子を伝える前に、扉を力任せに叩くような音が響き始める。
これ、明らかに友好的な人じゃないよ!


「カービィこっち、戻って!」

「う、うん」

「二人とも私から離れるなよ」


サムスのお言葉に甘えそうになるけど、サムスが持つ銃は普通の殺傷能力があるもの。
ここでもし人を殺して騒ぎになっちゃったらマズイ。


×  


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