19-2



ん? そう言えばシュルク達は私の事をアンドロイドだと思ってるんだよね?
もし彼らが原作通りの人物なら、私がコノハだと伝えられれば味方になってくれるかもしれない。
簡単に政府を敵に回せないからそう簡単にはいかないだろうけど、ひょっとしたら同情して見逃してくれる、ぐらいの事はあるかもしれない。

……賭けてみようか。
何にしろ、このままだと対峙は避けられない。
今からサムスとカービィを私から離すのは遅すぎるか……判断できなかったなあ。
まあ彼女達の様子からして私から離れる事はしなさそうだけど。


「サムスさん、人目につかない所へ行きましょう」

「それでは追っている奴らに攻撃されないか? 政府の人間なんだろう?」

「一つ考えがあるんです……けど、これは完全に賭けになります。あまりサムスさんやカービィを巻き込みたくないんですが……」

「私はお前を見捨てたりしないぞ」

「ボクも、コノハねえちゃんといっしょにいたいよ」

「……ありがとう」


自分勝手かもしれないけど、本音を言うと側に居て欲しかったから安堵した。
このグランドホープで人目につかない場所というのも難しいように思えるけど、ちょっと建物の間を奥に入った所とか狭い路地を抜けた先とかは、案外静かで人も居ない。

狭い道を進むと徐々に人が居なくなり、やがてちょっとした広場になっている場所で立ち止まり振り返る。
他に道が延びているから行き止まりにはなっていない。
そして振り返った視線の先にはやっぱり、シュルクとルフレが居た。
あまり間を置かずにシュルクがサムスに向かって口を開く。


「すみませんお姉さん、その子とお知り合いですか?」

「ああ。私の友人だ」

「実は僕達、その子に大事な用があるんです。連れて行っても構いませんか?」

「嫌です」


サムスの代わりに私が応える。
案の定、私を政府のアンドロイドだとしか思っていない二人は面食らった顔。


「シュルクさん、これは一体どういう……?」

「わ、分からない。彼女はどうしてあんな事を」


狼狽えるルフレとシュルク。
これはもうサムスに、私が死んだ事やアンドロイド関連の話を聞かれるのを覚悟しないといけない。
アンドロイドだけど政府に従う気は無い……信じて貰えるかな。
だけどここからシュルク達と話を進めるには、私の死やアンドロイドの話は必要な事だと思うから……。


「シュルクさん、ルフレさん、ちょっとお久し振りですね」

「え? あ、ああ……」

「突然ですが私はコノハです。あなた達が思うような政府のアンドロイドではありません」

「……!?」

「よって、あなた方の言う事を聞く気はありませんので」


益々驚いた顔になる二人に、構わず話を続ける。


「私は死にました。そして私に似せたアンドロイドは作られた。けれど何のカラクリか……私、コノハのままなんですよね」

「コノハ……!?」


シュルク達よりサムスの方が先に驚いて反応した。
私が死んだ事もアンドロイドの事も知らなかったのだから当然だ。
肝心のシュルク達の方は驚いた様子から何かを考える様子になっている。
やがてルフレが口を開いた。


「コノハさん。私達はあなたがどうやって死んだか、知っています」

「え……」

「ちょっとした仕事で監視カメラの確認に行ったんですが、そこで見ました。あなたが友人を庇って市長に殺されるのを……」

「……」

「……あまりに、惨かった。なんて酷い事をするんだろうって、思って……」


ルフレの顔が少しだけ泣きそうに歪む。
シュルクの方を見ても同じような顔をしていて、何故か申し訳なくなってしまった。
って何で私が申し訳なく思わなきゃいけないのか分からないけど、とにかくそう思ったんだよ。
声を震わせていたルフレが俯いて黙ってしまったので、代わりにシュルクが続ける。


「おかしいと思ったんだ。居場所の追跡が全く出来ないし、緊急時の遠隔操作も出来ない。その上で君のその言動……信じるだけの材料は揃ってるね」

「! じゃあ……」

「僕は政府の補佐官だ。命令通りに君を連れ帰らないといけない。だけど……今、見逃す事なら出来るよ」


おおおお、賭けに勝っちゃったみたい!
あー緊張した、出来るだけ平静を装ってたけどだいぶ緊張した。

……けど、そこでふとある考えが浮かぶ。
シュルク達はきっと市長から私を連れ帰るよう命令されてるんだ。
それを叶えられないとなったら酷い目に遭わされないだろうか。
それに今ここで逃れても、きっと他の追っ手がやって来る。
そうしたらその時こそ駄目かもしれない……。
私の惨状を見ているとは限らないし、シュルク達のように良い人とも限らない。

まだ味方が要る。
そしてそれを達成するのに良い人物が目の前に二人居る。


「あの、シュルクさん、ルフレさん。あなた達は市長に疑問を持った事はありませんか?」

「え……」

「アンドロイドの事は聞かされているんでしょう? 民間に紛れ込ませ、反政府思想を持つ者を取り締まる機械……。そんな物が必要という自体、市長は、この街はおかしいと思います」

「それは……」

「ここはディストピアですよね。平和で便利な街だけど、市長に逆らえば容赦なく殺される。アンドロイドが本格的に行動すれば完全な監視社会になる」

「……」


市長を批判する私の言動を止めようとも咎めようともしない。
確定だ。二人は政府に、市長に、この街に疑問を持っている。


「私と共に来て下さいませんか」

「……コノハ、本気かい?」

「本気です。本音を言うと味方が欲しい。政府から追っ手が来ても、明後日まで逃げ切れば大丈夫です」

「それはどういう……」


その質問には答えず、市民証に文章を打ち込んで見せる。

『明後日、この街で革命が起きます。どの程度の事になるかは分からないけれど少なくとも政府は混乱する。内乱状態になるかもしれない。そうなれば政府はあなた達に構っていられなくなる。どうしても私に協力するのが躊躇われるなら、今のうちにグランドホープを出る事をお勧めします』

セレナーデの情報によればレジスタンスが動くのは明後日。
それまで逃げ切れればシュルク達に追っ手が来る可能性は激減するだろう。
私の味方になってくれなくても、グランドホープからは脱出させた方が良いよね。

シュルクとルフレは文章を読んで考えていた。
……けれど、ちょっと驚いてしまうほど早く私を見て答える。


「分かった。僕はキミと行動を共にする。ルフレもそれで良いよね」

「ええ。元々私は学校で成績が良かったのを引き抜かれ、強制的に政府入りさせられたんです。シュルクさんの方も同じ境遇ですし、政府に思い入れはありません」

「市長の行動にも疑問があるし、反対したい事も多かった。でもそれをする勇気が無かったんだ。今こそ、これまで後回しにしていた行動をする時なのかもしれない」


  


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