19-1



私が死んで更に復活してから一週間が経過した。
この7日間、心密かにビクビクしながらも穏やかな生活が出来ている。
まあそれは良いんだけど一つ問題があってね。


「サムスさん、なんで報酬を受け取って下さらないんですか」

「生活費は全額お前に出して貰っているだろう?」

「それでも一日一万も無いですよ! ホテルに泊まらない日は5000も掛かってません! 一日五万+経費って話だったじゃないですか!」

「じゃあ あそこのカフェでアイスココアを奢ってくれ、それで手を打とう」

「アイスココアが五万もしてたまるか……!」

「コノハねえちゃん、ボクもココアのみたい」

「あ、あーうん、買ってあげるよカービィ」


何だか振り回されている気がするけど、二人とも頼もしいから文句は無い。
ほんと一人きりだったらどうしようも無かったぞ私。
近くのカフェに入ると窓際を避けつつも、そう遠くない席が空いていた。
おお、これはなかなか運が良い。

今居るのはサウスエリア。
心情的に政府の中枢であるノースエリアから離れたくて、ウエストエリアからここまで来た。
買い物天国だから飽きないしね。
ピカチュウ達がきっと政府を倒す為に頑張っているだろうに呑気だけれど、会えないし政府にも捕まっちゃ駄目だから手伝いは何も出来ない。

サムス達にばれないよう小さく溜め息を吐いた。
私が再びこの世界の重要な位置に立つ事はもう無いのかもしれない。
自分が主人公やヒロインなんて立場になれないのは分かっていたにしても、せっかく異世界トリップしたんだから“メインキャラの一人”になりたい気持ちはあった。

思い返すと、私は死ぬまでずっと重要な位置に居たという事が今なら分かる。
遙か昔に滅んだリグァン王国と、それを復活させようとしているレジスタンス。
過去の王国に関係するピカチュウやリンク達とずっと一緒に居た。
この都市国家の市長に誘拐されて重要参考人のような扱いを受けた。
そしてなんと、古の王国を生きた王妹殿下の孫だって判明した。
生きていたらきっと私も、“メインキャラの一人”になれていた筈。

だけどもうその機会を失ってしまった……これからは凡百の一般人の一人だ。
まあ、トリップする前に戻っただけなんだけど。
もう一生こういう特殊な件に関わるメインキャラになれる機会なんて無いんだろうなと思うと、惜しくて悔しくて未練たらたらになってしまう。
夢小説の主人公みたいに特別な重要人物になってみたかったなあ……。


「あー、いかんいかん。皆を守れただけで満足しないと」

「お前は本当に友達を大事にするんだな」


心の中だけで呟いたつもりが声に出てしまったらしい。
思わずサムスを見ると、彼女は寂しそうに微笑んでいた。


「私もお前が友人にしたように、ハヤの為に行動できていたら……」

「何を言ってるんですかサムスさん。あなたはハヤさんを大事にしていなかった訳じゃないでしょ? あれはストーカー野郎が悪いのであってサムスさんのせいじゃないです」

「コノハにそう言って貰うと、ハヤに許されているようで心が軽くなるよ」

「許すも何も、ハヤさんは怒ってないと思いますけど」

「しかし疲れているからとハヤとの約束を後回しにしたのは事実だ。ハヤが私を責めるというのなら甘んじて受け入れるさ」


何を言っても結果論になってしまうしやり直しも出来ないから、完全にサムスを慰める事は出来ない。
後は彼女が自分で吹っ切れるしかないよなあ……。
私が使えるなら存分に使ってくれればいい。

何気なく市民証を見ているとバイブが掛かり、突然画面に何か表示される。
デフォルメされた気の抜ける(>▽<)顔のセレナーデの顔アイコンが表示され、タップしてみるとメッセージが表示された。


『ピカチュウ君やアイク君たちがレジスタンスと一緒に動こうとしてるよ! 決行は明後日みたい! この情報がキミの役に立てばいいな!』


……ついに革命が始まるんだ。
もしアイクがシェリフごと動くっていうのならクーデターかな?
2日後、この平和な街が戦場になってしまう可能性もある。

緊張して考えながら、少し気を紛らわせようと何気なくやや離れた位置にある窓に目をやる。
瞬時に目に飛び込む金髪の男性と白髪の女性の二人組。
人混みの中だというのに一瞬で見付けられたのは、画面越しでも現実でも見知った相手だったからだ。

私は思わず席を立つ。
疑問符を浮かべるカービィと、私の表情を見て何かマズい物を目にしたと瞬時に理解するサムス。
カフェテリア方式だったのでカップ等を返却してすぐさま店を出た。


「コノハ、マズい顔見知りでも居たのか?」

「はい。すぐにここを離れましょう」


あれは間違い無くシュルクとルフレ。ルフレは女性になってた。
彼らが歩いて行ったのとは反対方向に早歩きで進む。
あまり意識した行動を取れば目立っちゃうから焦らないようにしないと。
ああ、ゲームではプレイヤー側に居る人と敵対するのってやっぱ辛いなあ……。

私はショルダーバッグの中に手を突っ込むとセレナーデに貰った銃を掴み、片手でロックを外す。
そして銃を掴んだ手をバッグの中に入れたまま歩み続けた。
こうなっては彼らと戦う覚悟を決めなければならないかもしれない。
政府に連れ戻される訳にはいかないんだ……!

そうして決意を固めていると、私の頭に乗ったカービィから声が降って来る。


「ねえ、コノハねえちゃん」

「なにカービィ?」

「だれかついてくるよ」

「え……」

「ふたり、かなあ?」

「……!」


触れている感じからして、彼は後ろを振り向きもしていないように思える。
カービィにそんな能力備わってたのか、なんて驚く事も出来ない。
心臓がばくばく高鳴り始めて、私は自分を落ち着けようと深呼吸する。
もし捕まったらガノンドロフに引き渡されて、また死ぬ時のような目に遭わされるかもしれない……!
声どころか息さえ震えていて今すぐここで膝をつきたかったけど、その恐怖心はサムスに手を握られてゆっくり収まって行く。


「落ち着けコノハ。必ず守る」

「……はい」


仲間が居るって凄く良い。勇気が湧いて来る。
私の銃は痺れさせたり眠らせるだけで殺傷能力は無いし、いざとなったら撃たないと。
せっかく現世に戻ったんだから私は戦う。
この銃は凡人なりに努力して手に入れた私の能力。
それってただトリップ特典なんかでポイッと与えられる特殊能力より凄い物じゃんか……!
私くらいの腕前なんてどこにでも居るだろうけど、誰にも馬鹿にさせない!

シュルク達が仕掛けて来ないのは、人前で戦うのを避けてるからだよね。
政府の人間と戦っていると周りに知れたら私は犯罪者扱いを受ける。
そうなったら民間に紛れて反政府思想を持つ人を取り締まるのに使えなくなるし。


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