16-2



「……貴様が働いていたのは、自然食物生産工場だそうだな」

「……!」

「工場の監視をしていたシェリフが働いている貴様を見たと言っていた。防犯カメラにもしっかり映っていたから間違いは無いだろう。貴様は昔の王国の事を知っている上に小鼠どもを従えている。そんな貴様を保護した者が、自然食物生産工場と繋がっている……。これはもう無実を信じる方が難しいな」


私が、この世界に来たからだ。
私さえこの世界に来なければピーチ姫達がピカチュウと関わる事なんて無かったし、こうして捕まって情報を引き出される事も無かった。
私が来た事で、彼女達に疑いの目を向けさせてしまった。
もし情報を吐いてしまえば、いずれピーチ姫達だけでなく、ピカチュウの事を知っていたピット達にまで辿り着かれるかもしれない。


「もう一度訊く。洗いざらい全てを話せ。……もしや俺が約束を反故にして、話を聞いた後に貴様を殺すと思っているのか? 貴様如き何の能力も無い小娘が一匹生きていた所で、俺には何の支障も無い。さっさと話してこの塔から出て行くがいい。そして二度と関わるな」

「何も知りません」


やっぱり私は、先の事を考えられない性分みたいだ。
拷問なんかされたら絶対に吐くだろうなと思っていたのに、今はそんな気が全くしない。
話さない。私は絶対に話さない。拷問されようが絶対に吐くもんか!

ここまで断ればもう拷問が始まるだろう。
怖い、ひたすら怖い。

……怖いけど、自分だけが助かる為に友達を売るような真似は、絶対にしない!
そう誓い、虚勢を張りながら必死にガノンドロフを睨み付けた。


「……愚かな小娘だ。喋れば助かったものを」

「……」

「貴様のような何の力も無い小娘が、そんな生意気な目をするとは虫唾が走るな。その顔を今から絶望に染めてやろう……見るがいい」


ガノンドロフは私から離れると、前方にある壁際のスイッチを押す。
すると壁がスライドして開き……そこにあったものに、驚いた私は軽く悲鳴を上げてしまった。

それは私と同じように椅子に座らされ拘束されていた。
頭を覆うように妙な機械が取り付けられているのも同じだけれど、眠っているのか目を閉じてぴくりとも動かない。

そしてその顔は、背格好は。
私と全く同じで……。


「え、な、これ、私……!?」

「あれから貴様を4日眠らせていたのだが。これはその間に作らせた人造人間……アンドロイド」

「4日で……ここはそこまで文明が高い街なの……!?」

「何も基盤から4日で作った訳ではない。十年前から、民間人に紛れ込ませ反政府活動を取り締まるアンドロイドを研究していたが、ほぼ完成したのでな、実用実験ついでだ」


実用実験……それでどうして私そっくりに作る必要が……?
まさかあれに私の振りをさせて、ピーチ姫たちを油断させようと……!


「このアンドロイドに足りないものは情報。……脳の情報だ。そこで貴様の脳から情報を吸い出し、あれに移そうという訳だ」

「え……」


私の脳から、情報を吸い出す……?
コピーとかじゃなくて、情報を“吸い出す”?
吸い出して、あれに移す……って、ちょっと待ってよ。
そうしたら この私の体はどうなるの。

……どう、なるの?


「いちいち容疑者を捕らえて尋問していてはキリが無いし、すぐ喋るとも限らん。あまり時間を掛けては対策を練られる恐れがあるしな。貴様のアンドロイドを餌に情報を集めて、レジスタンスの愚か者共を全滅させてやる」

「あ……あ……」

「……知りたいか? 脳の情報を吸い出された後、貴様がどうなるか」


いやだ。
いやだ、知りたくない。


「脳から完全に情報が失われれば死ぬのみ。抜け殻となったその肉体にも、貴様の存在自体にも、もう用は無い」


何も喋れなかった。あまりの恐怖で。
目を見開き、恐怖にガタガタ震える私を見て、ガノンドロフは再び勝ち誇った笑みを浮かべた。


「さて、これが本当に最後のチャンスだ。……貴様が知る情報を全て話せ。何もかもだ。そうすれば助けてやる。アンドロイドに脳の情報を移すとは言っても、その情報を他者が直接 覗ける訳では無いのでな。民間人に紛れ込ませる以上、他の市民と違和感が出ないよう基本的な言動は本体に任せるしかない。まだ一体だけしか居ないあれに任せるより、貴様から情報を得た方が圧倒的に早い筈だ」


死にたくない。
でも、友達を売りたくない。
私の力では、その両方を取る事なんて出来ない。

これは市長室で尋問されていた時とは違う、はっきりとしたDead or Alive。
ここで友達を売らなければ、私は死ぬ。
でもピーチ姫達を売ってしまえば、彼女達は……。

ピカチュウはどう思うだろう。
私が自分可愛さにピーチ姫達を売っても、きっと彼は甘やかしてくれるだろう。
コノハが無事ならそれで良いよと言うだろう。
いずれピット達まで害が及んでも許してくれるだろう。
本当はどれだけ辛くても、苦しくても、それを隠して。

スッと、頭が冷えた。
ここで助かりたいと思うのも、生き物として当然。
生きたいという欲求は生物としておかしい事じゃない。

……それでも、私は。


「早く話せ、小者が粋がるのも そろそろ終わりにしろ。どうせ最後は話すに決まって……」


「知らないって言ってるだろうがッ!!」


自分でも驚くくらい、腹の底から大声が出た。

とにかく腹が立った。
友人であり大好きな任天堂キャラである彼女達を売るよう強要される事や、私を見くびられている事に対して。

ガノンドロフは一瞬だけ真顔になったものの、直後その額に青筋を浮かべる。
そして近くにあったコンソールの元へ歩いて行った。


「調子に乗ったな小娘。……苦しみ、恐怖し、後悔しながら死ぬがいい!」


奴がコンソールに何かを入力した瞬間、私の全身を襲う痛みと苦しさ。

特に頭が……頭が割れそうに痛い!


「イヤァァァァッ!! 痛い、痛い痛いいたいいだいぃぃぃいぃッ!!」


拘束された手足が千切れそうなほど力を込めて暴れても、枷はびくともしない。
そのうち激しい乗り物酔いのように脳が揺さぶられる感覚がして、私は嘔吐してしまう。


「ゔお゙え゙ぇぇぇ……ッ」

「フン、こうなると哀れだな。吐瀉物に塗れて汚らしく死んで行くとは」


そう遠くない場所に居る筈のガノンドロフの声が、遠い。

……ガノンドロフ?
何だっけ、それ……。

あれ、何で私、いま、こンな、くる しぃ おもい  し  テる    の


「だずげでお゙がァ゙ざん゙!! だずげで!! あ゙ぁあ゙ぁあ゙あ゙ぁぁぁぁぁあ゙ぁぁぁっ!!!」


  


RETURN


- ナノ -