16-1



残念な事に私は英雄でなければ救世主でもない。
女神とか巫女とか姫とか、そういう よくある夢主みたいな立場でもないし、
時代や世界に必要とされている訳でもない。
当然、役に立ちそうな特殊能力なんて全く持ってない。
そんな私がここまで来られただけで、よくやったと思うんだ。

よくやった、自分。
コノハ、お前は頑張ったよ。
いつかのアイクじゃないけど、彼みたいに私の事を自分で褒めてみる。

凄いね、思いっ切り頑張ると自分で自分を素直に褒められるんだ。
うんうん、最後は格好良かったぞ私。
最後の最後は見苦しかったけど、その前はね。
お父さんとかお母さんとか、マナとかケンジとか、
それにピカチュウ達が見たら、あまりの格好良さに驚いただろうな。

見せたかったな。

どうだ、凄いだろ! 私はここまで頑張れるんだぞ! って。
ドヤ顔で自慢してやりたかったな。
きっとみんな私の事を見直してくれるだろうな。


ねえ、泣かないで。
でも私の為に泣いてくれてありがとう。


夢小説みたいに突拍子も無いけれど、
限りなく現実に近かった“私”の異世界トリップの日々は、これでおしまい。


+++++++


「……う?」


目が覚めた時、真っ先に感じたのは体の不自由だった。
その上、視界がぼやけて周囲を上手く確認できないし、何だか体中が怠くて二度寝してしまいたかった。
けれど段々と視界がはっきりして来て、視界に映るものが何だか分かった瞬間、私の意識は急速に覚醒してしまう。


「あ……!?」

「目が覚めたようだな」


ガノンドロフ。
あれ、私、彼に殺されたんじゃなかったっけ。
生きてるみたいだ……けど何で体が上手く動かないんだろう?

ガノンドロフを視界に映して脳が覚醒したお陰で、その疑問はすぐに解決した。
私は今、機械のような椅子に座らされてる。
けど手は肘置きに枷でがっちり固定されてるし、腰も背もたれに、足は下の方でこれまた固定されてる。
そして頭を覆うように妙な機械が取り付けられて、そこから延びたコードがどこかに繋がっていた。


「な、え……」

「コノハとか言ったか。これから貴様には色々と訊かねばならない訳だ。貴様があの小鼠どもを連れている以上、既に関わりがあるのだろう。昔の王国の関係者を洗いざらい吐け。そうすれば助けてやる」


ああー……。
もしかしてこれってアレですか。私これから拷問されるんですか。
今のうちにマリオ達レジスタンスの事や、関わっているっぽいピット達の事を話せば助けて貰えるんですか。

なんて軽く思う事で自分を落ち着けようと試みるけれど、難しい。
無理だよ、痛いのも苦しいのも嫌だ。
体が震えるのを抑えようとしても不可能で、私の歯がカチカチ鳴るほど震えてしまった。
それを見たガノンドロフは、楽しげに笑みを浮かべている。


「恐ろしいだろう、これから何をされるかすら分からんのは。全て喋れば助けてやるが……このままで居るのも時間の無駄だ、さっさと吐け」

「……」


ガノンドロフは尊大で自信に満ちた態度をしていて、私が喋る事を確信しているみたい。
どうせ自分可愛さに仲間を売るだろう、このコノハという小娘はその程度の存在だろう。
そう考えているのが手に取るように分かる。

……あれ、なんかムカ付いて来た。
そもそも私 今、喋る気あったかな?
怖くて震えてしまったけど、喋るという選択肢は一瞬も浮かばなかった。

ああ、よかった。
私は自分だけを守る為に友達を売るようなゴミクズじゃないんだ。


「……私が昔の王国について知っている事は、既にお話ししたあれが全てです」

「黙っているのは身の為にならんぞ」

「そんな事を言われても……本当に知らないんです。ずっと昔の事なんでしょう? 私まだ17歳ですよ」


というか、ガノンドロフだって確信が無かったじゃないか!
ピカチュウの事は知ってたけど、それ以外のレジスタンスとの繋がりだって、ぜんっぜん知ってる素振りも無かったよね確か!
これで納得してよお願いだから、痛いの嫌だぁぁ……絶対 我慢できない……。

ガノンドロフは私が何も喋らなかった事に驚いたのか、少し目を見開いて黙った。
……けどそれもほんの数秒で、すぐに くつくつ笑い出す。


「フフ……思ったより根性があるようだ」

「……」

「調べたのだ、貴様が初めてシェリフに保護された当日の事を」

「保護?」


それって、最初にこの世界に来た日の事だよね。
あれ保護じゃなかったじゃん、射殺されかけたじゃん……。
その日に何かあったかなァ? と少し呑気に考えて……やがて血の気が引いた。

あの日、ピーチ姫が私を引き取ってくれたんだ……!


「身寄りが無い貴様を親切にも引き取った女が居たな? さて……何故、初対面の貴様を引き取ったのだろうな」

「一緒に暮らしていて分かりましたが、彼女はとても優しい人でしたから」

「その優しい女の元を、なぜ貴様は離れたのか」

「……それは、何の繋がりも無い人なのに いつまでもお世話になるのは悪いでしょう。仕事を斡旋して貰い、給料を得て生活基盤が整ったので彼女の家を出たんです」

「そこで俺は考えた。あの女は小鼠を見て貴様を引き取ったのではないか、貴様があの女の元を離れたのは、反政府活動にでも巻き込まれそうになったからではないか」


ちょ、ちょっと、完全に当たりなんですけど……!
っていうかヒトの話聞けよこの魔王!

まずい、この話し方、完全に確信してる話し方だ!
じゃあ拷問なんてしなくていいじゃん、もう分かってるじゃん!


「昔の王国の関係者でなくともいい。反政府活動をしているような愚か者の情報を知っていたら話せ。そうすれば貴様は無事に帰してやる」

「本当に知りません。あんな穏やかで優しい彼女が、反政府活動だなんて恐ろしい事をするとも思えませんし」


心臓が高鳴ってうるさい。汗が流れそう。
もういい加減に諦めてよ、私は何も話せない……!


×  


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