15-2



「……ピット達とかリンク達は元気かな」


ピカチュウとルカリオはアイクが保障してくれてるけど、孤児院に送られたピット達の事は全然分かってない。
そして音信不通になってから10日ぐらい経っているリンク達。
私の事を心配してくれてるだろうか。何か行動しているだろうか。

でも探すとなると政府が相手になる訳で……。
お願いだから無理な深追いはしないで欲しい。
政府を敵に回したらこの街で生きるのが困難になっちゃうよ……。
連絡が取れたら、今すぐにでも私は大丈夫だと伝えるのに。

私のせいで彼らが死ぬような事になったら、耐えられるだろうか。
友人であり、大好きなキャラクターでもある彼らが自分のせいで。


「っあー……。駄目だ、どうしても考え過ぎる」


アイクに感情を吐き出して心を一新させたとはいえ、こういう臆病な所はなかなか治らない。
うだうだ考えなくて済むように早く銃の訓練したいなー、なんて考え、
午後までの時間を悶々とした気持ちで過ごしてしまった。


++++++


その日、グランドタワーの中層。
ルキナがコノハの事を訊ねる為に友人の元を訪れていた。


「ゼルダ、こんにちは」

「ルキナ。お仕事の書類でしたら送って下されば良かったのに」

「最近あまり会えないので、会いに来たんです」

「まあ」


ルキナの“政府のもっと高い地位に居る友人”とはゼルダの事だった。
和やかに笑顔で話し合う二人の雰囲気はまさに花だ。
テーブルを挟んだソファーに向かい合って座り、仕事の書類をゼルダに渡すルキナ。
それとなくコノハの事を訊く為に話題を振る。


「急に多数の孤児の受け入れがあって大慌てでしたよ。職員も急遽増やして……」

「確か10日ほど前でしたわね。お疲れ様です」

「こちらも急な事で大変だったんじゃないですか? 孤児はあれで全員だったんでしょうか」

「わたしの聞いた話によると、あと一人連れて来たそうですが……。どうやら孤児ではなく市長の客人だったようです。孤児院ではなく塔の来賓室にご案内したようですわ」

「来賓室に……」


きっとそれがコノハだろう。
しかし来賓室とは……かなり上層にある上、警備が非常に厳しいと聞く。
ルキナもまさかそんな厄介な所に囚われているとは思わなかった。

いや、ピット達に聞いた昔の王国の話。
あれを信じるなら王妹の血を引くコノハを放っておかないか。

取り敢えずコノハが囚われている場所が分かっただけでも収穫だ。
ゼルダと仕事の話や たわいない世間話をしたルキナは、頃合いを見て立ち去ろうとする……が。
その時 誰かが執務室の扉をノックした。
ゼルダが応対しに行き、やがて中に入って来た人物にルキナは驚く。


「ジェネラル、インストール……!」

「ん?」


ジェネラルインストール……アイク。
ピカチュウに聞いたらしいピット達の話の中に出ていた人物で、こんな所で出会えるとは思っていなかった。
昔の王国の象徴だったピカチュウと通じているのに、政府の一大組織であるシェリフを纏め上げる地位に就いている者。
味方になって行動してくれれば非常に心強い。

アイクはルキナがコノハの事を調べに来たと知らないらしく、疑問符を浮かべるだけで何も言わなかった。
代わりにゼルダがクスリと笑って。


「ルキナ、緊張しなくても大丈夫ですわ。意外と気さくな方です」

「あ、はい……すみませんでした」

「ああ、そういう事か。気にしなくていい」


どうやらルキナがジェネラルインストールに緊張しているのだと思ったらしい。
アイクはゼルダと仕事の話を始めてしまい、ルキナはその間に考えてみる。
ピット達がピカチュウに聞いた話だと、彼はコノハの事を最優先に考えているらしく、
リグァン王国の復活に関してはあまり協力する気が無いらしい。
故にレジスタンスには ほぼノータッチと言っても過言ではなく、彼らを守ってくれるかどうかは分からない。
万一コノハに危害が及ぶようならレジスタンスさえ潰しかねないそうだ。

コノハの事を助けて欲しいと頼むのは構わないだろうけれど、レジスタンスに協力してリグァン王国を復活させようとしているピット達の事まで知られたら危険かもしれない。
いつかレジスタンスが原因でコノハに危害が及ぶような事態になった時、彼が“潰す”対象にピット達まで含まれてしまったら……。

孤児院の子供達はルキナにとって全員が大事な家族だ。
従弟のマルスが大切に思う友人であるコノハの事は心配だが、まだ会った事すら無い手前ルキナはピット達の方が大事だった。これは仕方ない事だろう。
考えた末、ルキナはジェネラルインストールに事情を話すのを断念する。

そもそもジェネラルインストールがコノハの事を最優先に考えているのなら、高い地位を利用して守ってくれているかもしれない。
希望的観測だが有り得ない話ではない……というよりその可能性が高いだろう。
少なくとも自分やマルス達、ピット達よりはコノハの事を守り易い筈だ。


「(すみませんコノハさん……せめてあなたの居場所はマルス達に必ず伝えます)」


コノハは客人扱いを受けてグランドタワーの来賓室に居る。
それだけでも伝えようと、ルキナはゼルダ達に挨拶して部屋を後にした。

ルキナを見送ったアイクはゼルダに訊ねる。


「ゼルダ、今の女は……」

「ルキナですか? ローウェル家 分家のご息女ですわ」

「ローウェル……何の話をしていたんだ」

「普通に仕事の話です。10日ほど前、急に多くの孤児がやって来て、だいぶ忙しくて大変だったようですの。でも他に孤児は居なかったのかと心配までなさっていましたわ」

「……」


確かローウェルとはマルスの家だったな、と考えるアイク。
リグァン王国の関係者として昔の人物は大体 把握している。
それでなくてもコノハの関係者はそこそこ調べ上げた。
マルスだけでなく、ロイとリンクもコノハの側に居た筈だ。

……ひょっとして彼女はコノハの事を調べに来たのではないかと。
何となく直感でそう思うアイクだった。


+++++++


「はあ……」


私が捕まってからもう2週間。
やっぱりピカチュウ達には会えず帰して貰える様子も無い。
何事も無く過ごせているからか危機感が段々と薄れて来て、そろそろ脱走の一つでも試みてやろうかという気分になる。
いや、出来るとは思わないけどさ。

……そんな時に部屋に響く、呼び鈴の音。
ルフレかアイクかなと思ってモニターをつけると知らない人だった。
着ている服を見るにシェリフ……な、何の用だろう。


「はい……」

『市長がお呼びです。ご同行願います』


ドキッとした。
え、市長ってガノンドロフ……。
え、え、ええええええ……!?

返事すら出来ない私の動揺などお構いなしに扉は開かれ、二人で来たシェリフの一人に手を引っ張られてようやく我に返る。
強制連行だ、拒否権無いよコレ……!


「え、し、市長が私に何のご用なんですか?」

「我々には分かりません」


素っ気ねぇ〜……。
まあ私がどうなろうが知った事っちゃないからだろうけど。
というか、名も知らないシェリフの事を気にしてる場合じゃない。

私を捕らえたのに2週間も放置していたガノンドロフに呼び出されたという事は、これは区切りだ。
この状態を区切って進展させようとしているんだ。
進展の先にあるのが、塔からの解放かこの世からのサヨナラかは、全く分からない。

厳重に警備されているゲートを幾つか通り、鍵のついた大きなエレベーターに乗り込む。
着いた階、エレベーターの扉が開いた先には広い空間、奥には両開きの大きな扉、見張りの兵。
あれはシェリフの制服じゃないから市長の私兵なのかもしれない。
そこまで連れて行かれ、挨拶もそこそこに客人をお連れしましたと言ったシェリフ。
兵士に通され入った部屋はドラマなんかで見る社長室のようだった。

真っ先に目に入るのは部屋の奥。
一面ガラス張りで高所恐怖症なら近寄る事すら無理だろう。
その前には豪奢なデスク、壁際にはシックな棚、その更に前にはいかにも高級そうなソファーが高級そうなテーブルを挟んで向かい合っていた。
そしてそのソファーに座っていた人物に、私は本格的に息を飲む。


  


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