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「5000年前の王国……リグァン王国の王妹殿下・ヨリ姫様。彼女の孫がコノハなんだ」

「王の妹?」

「そう。リグァン王国はフェガロという男によって滅ぼされた。国が崩壊する中、ヨリ姫様はお供と一緒に逃げたそうなんだ。けどお供とは離ればなれ、ヨリ姫様は帰る方法も分からず、逃亡先で生涯を終えた」


生涯を終えた、の言葉に、リンク・ロイ・マルスの肩がビクリと跳ねる。
ルキナは神妙に聞いていたが、マルス達のような反応はしていない。

……コノハの祖母が、5000年前の王国に居た王妹。
これもマルス達は知る由も無いが、彼女は異世界まで逃げた事になる。
そうでもしなければ地の果てまでも追われそうだったのだろうか。

少々スレたような雰囲気のあるピット達が そんなおとぎ話のような事を信じているのは気になったが、リンク達の誰もその内容を疑う事が出来なかった。
それに関してはネスが説明してくれる。


「ヨリ姫様には彼女を守る守護戦士が何人か居たらしくてね。彼女に仕える人達の中でも特に勇敢で強くて、ヨリ姫様に信頼されてた人達。……親にその人達の絵を見せて貰ったんだけど、あんた達と同じ顔した人が居たんだよ。名前はさっき、ピットが言ってたのを聞いたよね」

「それって、つまりオレ達も5000年前に眠ったって事か?」

「違うと思うよー。5000年前に国の復興を託されて眠った人は皆、年齢を子供まで戻されて目覚めた後は孤児として育ったらしいんだけど……。あんた達はちゃんとこの時代で生まれただろうから違うよね? それに守護戦士のリンク・ロイ・マルスは……」


ヨリ姫様を守って死んだんだから。


だから生まれ変わりのようなものではないかと、ネスは事も無げに言った。
先程から何故か疑う事なく話を飲み込んでいたリンク達の息が一瞬詰まる。
もしかして生まれ変わりだから、こんな突拍子の無い話を信じられるのだろうか。
魂は覚えていて、それに反応しているというか……。

ルイージに関しては、彼は5000年前に眠った人の一人だとピットが言う。
そしてそれまで黙っていたリュカが、怖ず怖ずと口を開いた。


「ルイージさんには、双子のお兄さんがいるらしいんだけど……会った事ない?」

「し、知らないなあ……確かに僕は孤児だけど、だから家族なんて居なかったし。まさかそれが、5000年前に年齢を戻されて眠ったからだなんて」

「ルイージさんの事もお父さんやお母さんから聞いたんだ。ひょっとしたら5000年の間に記憶を失ってしまったのかも……」

「……そうか、じゃあ僕、兄さんが居るんだ」


血縁に関しては独りぼっちだと思っていたルイージに、思いがけず訪れた吉報。
こんな時に不謹慎だと思いながらも つい笑みが浮かんでしまう。

親が一員だったのでピット達もレジスタンスと繋がっていて、親の遺志を継ぎ王国復活の為の協力をするつもりだそうだ。
本当ならまだ特にやる事は無かった筈なのだが、王妹の血を引くコノハと王国の象徴だったピカチュウが政府の手に渡ってしまったので、何とかしてそれをレジスタンスに伝えるつもりだと。


「市民証は与えられたけど、孤児院関係者以外とは連絡が出来ないようにされてるんだ。ネットにすら接続できないし……ねえルキナ先生、何とかしてよ」

「その前に、その話……私にしても良かったのですか? 私は一応 政府直営孤児院の職員ですよ?」

「んー、こんな話を聞いちゃったらルキナ先生、密告なんて出来ないでしょ? 先生がそんな性格してない事は大体分かるから」


ネスがにこにこと言う通り、ルキナはこの事を政府に話す気は微塵も無かった。
信じる信じないは別として、心根はきっと良い子であろうピット達を危険に晒したくないし、従弟のマルスが関係しているとなれば尚更だ。
しかしルキナもそこそこ上の地位とはいえ一職員なので、政府に意見する権限は無い。
コノハは政府中枢の塔に囚われているらしいが……。


「って、この話は本当に政府には聞かれてないんだよね? 反政府活動をするレジスタンスの事とか話しちゃってるけど……」

「マルスちょっとビビリすぎ。僕達は何年も政府の目を逃れて来たんだ。見つかったのだって視覚の問題で、電波や聴覚は関係ないみたいだったし。目をつけてたコノハを電波か何かでストーカーして、途中で消えちゃったから直接体で追っかけて、ついでに僕達を見つけたんだろうね」


ピットは気楽に言うが、ここは政府中枢の塔の足下なので、心配になるマルスも致し方なしといった所だろう。
そもそもここは政府直営の孤児院なのだし。

その後ルキナに地下鉄事故の話を聞いてみたマルス達。
やはり聞けば聞くだけ普通の事故だったとは思えない。
乗車できなかった後部の2車両が爆発したそうだが、テロの可能性を事前に察知して客を乗せなかったのか……。
しかしそれなら、地下鉄自体を走らせなければいいのに。
幸いにも死者は出なかったものの、怪我人は出た。

そして、何故そこに政府警察シェリフの最高権力者である、ジェネラルインストールが居たのか。
聞けば聞くだけ政府が怪しく思えて来てしまう。
するとロイが、もう一つの可能性を示唆した。


「あのさ、地下鉄を経営してるのは政府じゃないだろ? 確かコノハ、その経営会社の令嬢に会って地下に入れて貰ったとか言ってなかったっけ」

「言ってたな……地下鉄を走らせてるのはその経営会社だし、となるとまさかその会社、政府と癒着してるんだろうか」

「それは不自然な気もします。経営会社にとってはテロより事故の方が信頼が落ちるじゃないですか。なのにテロだったのを隠して事故だと公表する理由が無いような……」


ロイ・リンク・マルスの会話に、ピット達は何かを考えているようだった。
その地下鉄経営会社が政府に脅されていた可能性もあるが、結局 今の情報量では推測の域を出ない。
地下鉄事故の話は後に回して、何とかコノハ達を助ける方法を考えなければ。
そんなマルス達へ、ルキナが心配そうに言う。


「ですがそのコノハさんを助ける事に成功したとしても、政府から追われる事になるんじゃないでしょうか」

「そうだね……政府に管理されてるグランドホープじゃ、逃げるとしても限度があるし」

「いくらか時間を貰えませんか。政府のもっと高い地位に私の友人が居るんです。何か知らないか訊ねてみますから」


ここはルキナの提案に乗った方が良さそうだ。
ロイやマルスは家が金持ちで権力もそこそこあるが、政府には入り込めない。
政府に勤めていて、ある程度の実績と信頼のあるルキナが一番動き易いだろう。
ピットが幾らかテンションを下げてルキナに問う。


「ルキナ先生、見も知らない人の為に危険な事するの?」

「マルスの友人ですからね。ピット君達だって、親から聞いただけの王国の為に動こうとしているんでしょう?」

「まあ、そうだけどさあ……」

「それに、女の子相手に必死になるマルスを見るのは初めてなんです」


クスリと笑い嬉しそうに言うルキナに、マルスが慌てて立ち上がる。


「ち、違うからねルキナ! コノハは大切な友人だけど、そういう関係じゃ……!」

「切っ掛けにはなり得ますよ。女の子の友人なんて小学校以来でしょう? それに守りたい、助けたいと思う相手は何かの拍子に、大事な相手に変わる事もあります」


それは男性が持ちがちな感覚。
頼られると嬉しくて、守りたい……延いては自分が居なければ駄目だと思える相手を好みがち。
守ったり頼られたりしている間に、その相手に好意を持つというのは意外と良くある。
ルキナは、からかうつもりで言ったのではないらしく、それ以上は話を続けない。
何にせよ今は彼女に頼り、報告が来るのを待つしかない。
コノハもピカチュウもルカリオも無事だと信じて。


  


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