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「す、すみません。ありがとうございます。そういえば女性のルフレさんが居ませんね。双子で入れ替わってるんですか……」

「普段は妹が表に出てるんだ。だけど身の危険や誰かの危機を強く感じた時は、僕が表に出て来る。キミの事は妹を通じて知っているよ。結構な頑張り屋さんだよね」


頑張り屋さんなんて言われては更に照れざるを得ない。うっひゃあ恥ずかし。
でもルフレが説明してくれた入れ替わりのシステムは不便そうだ。

つまり、自由には入れ替われないって事だよね。
大まかに言うと危機を感じないと入れ替われず、感じたら感じたで問答無用で男ルフレに交代?
ルフレが言うには、それで合ってるらしい。
危機を感じたら問答無用で男ルフレに交代、でも女ルフレに戻るのは任意。

なんかゲームみたいだ。
何がって、戻るか戻らないかの駆け引きとか、似たようなシステムのゲームってありそうじゃない?
女ルフレは特殊な事が出来て、男ルフレはそれが出来ない代わりに戦闘力が高いとか、
あるとしたらそんな感じのシステムだろうな。

どうやら男ルフレは久し振りに出られたらしくって、暫くこのままで居るつもりみたい。
銃の訓練はこれまで通りして貰えるようで、私としても一安心だ。
一安心というか、イケメン男性にマンツーマンでレッスンとか邪な気持ちになるよね。
いかんいかん、理性を失わないようにしておかないと。
リンク達みたいなイケメンと普通に友情を築けてたから大丈夫だと思うけどね。

ルフレに部屋まで送って貰い挨拶してから別れる。
今のところ特に問題は無いけど、あんまり呑気に構えててもマズイかなあ。
ガノンドロフの考えが全く分からないから、どう対処すればいいかも分からない。
対処する手段も全然持ってないしさ……。

結局、私は誰かに頼らなければ危機を脱せないみたいだ。
それなら気持ちを新たにした時に考えた通り、人との繋がりを大事にしないと。
私に夢主人公みたいな戦闘能力や特殊能力が無いのなら もう仕方ない。
凡人は凡人なりのやり方で戦ってやる。


「……っよし、頑張るぞ」

「おーうやる気だね!」

「!?」


一人きりの部屋の中、突然知らない声に話し掛けられ度肝を抜かれた。
振り向くとそこには、流れるような銀色の長髪に美しい金色の瞳、そして黒いスーツを着た物凄い美形が立っていた。
ただ、美形だけど容姿や声が中性的で、性別の判断がつかない。

誰だよ! こんなん知らねー! どちらさんですか!
私の知らない任天堂キャラかな!


「誰だよ! って言いたげな顔してるね」

「まあそれは、そうですね」

「僕の名前はセレナーデ。セレナって呼んでね!」

「……オカリナの曲? それともツンデレツインテール?」

「あはは! 初めての反応されたよ、やっぱりキミは今までの子とは、ひと味もふた味も違うね!」


今までの子……? 何それ、何が言いたいんだろう。
目の前の人物が何をしたいのか分からなくて警戒してしまう。
しまった、銃は今 手元に無いよ。離れた所に保管してある。
私の警戒ぐらい感じ取っているのだろうけど、……セレナーデ? はニコニコ笑んでて真意が分からない。
何をしに来たのか、そして任天堂キャラじゃないっぽい彼(?)は何者なのか。


「ねえコノハちゃん、キミはこれからどうしたいの?」

「どう、って……何をすれば良いかも分からないから答えられませんよ。“ピカチュウ達と一緒にここから出て帰りたい”とかなら、主張できますけど」

「そうだよね、キミには特に用なんて無いんだから、キミ自身も目標なんて作れないよね」


ズキ、と心臓が痛む。
ひょっとしてこの人、私がトリップして来た事とか知ってる?
今の言葉は、私がこの世界に必要とされてる訳じゃないと、示しているよう。

でも私がこの世界に必要とされなくても、仲の良い友人なら居る。
きっと彼らは私が居なくなれば泣いてくれる。
なら、私のやりたい事なんて決まってるじゃないか。


「いえ、目標ならあります。この世界で知り合った友人達と、これからも良い関係を築く事です!」

「……へえ。キミ、ちょっと変わった?」


セレナーデは私の主張に、少し驚いたような顔をした。
私がこんな前向きに目標を作れるとは思わなかったんだろうか。
私はこの人とは初対面だけど、この人は私を知っているのかもしれない。
もし、アイクに自分の気持ちを吐き出す前の私を知っているのだったら、今の私の主張に驚くのも無理は無いかもね。

私は、変われたんだ。
ほんの少しの情けない変化かもしれないけど、それでも間違いなく一歩なんだ。
その前進を馬鹿にされる謂われなんて無い。


「これは、ひょっとしたらひょっとするかもね」

「……あなたは何を知ってるんですか」

「キミが異世界トリップした事ぐらいなら知ってるよ」

「もっと知ってるでしょ? そんな気がする」

「じゃあ一つだけ。僕は“設定”と“きっかけ”を作るだけなんだ。それからどうなるかは、キミやこの世界と、そこに住む人々に懸かってる」


何となく、この人は“全て”を知ってるんじゃないかと思える。
でもこの様子だと話す気は一切無いんだろうね。
もしかして、この人がこの世界の創造主で、ラスボスだったりするのかな。
神vs人ってありがちだけど燃えるよねー。
まあ戦うのは私じゃないとは思うけど、もし任天堂キャラ達がこの人と戦う事になった場合、協力できる事があるならしたい。

……うわ、今 自分でびっくりした。
あれだけ君子危うきに近寄らず、危ない事は他人がやれって思ってたのに。


「じゃ、お邪魔したね。まあ精々頑張って。また機会があったら会おうねー」


言って、まるで魔法のようにその場から消えてしまったセレナーデ。
出来るならもう会わない方がいい類いの人だろうな、今の。

とにかく、私の心とやるべき事は決まった。
私には夢主人公のような戦闘能力も特殊能力も、一目で誰かを虜に出来るような容姿も無い。
それならそれで、凡人なりの戦い方をするだけだ。
日々を過ごして仕事をし、人間関係を築くのだって立派な戦い。

そして打算的な考え方かもしれないけど、もしもの時に周りの人達が私を守り助けてくれるような、そんな人間関係を維持して行かなければならない。
そうしなければきっと、私はこの世界に掻き消されてしまう。


「私の敵は……世界か」


私の異世界トリップは多分、悪意に満ちたものだった。
よくある夢小説みたいに世界を救えとか、誰かの助けになれとか、誰かや何かに必要とされてトリップした訳じゃない。
その悪意を具体的に表現する事は出来ないけど、間違いなく感じてる。
被害妄想なんかじゃない。この世界は、私に悪意を向けている。


「やってやろうじゃん……!」


覚悟は決まった。




−続く−


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