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「……俺はお前が相手の“夢小説”があっても興味は無いな。それは誰か他人が勝手に作った、“そいつの作品”だろ? 俺はそんなのは嫌だ。例えお前が“夢小説”の中で、美人で聖女のような性格になっていたとしても関係ない。俺が好きなのは単なる他人の作品なんかじゃなく、本物のお前だからな」

「それは相手が現実に会って交流できる人物だからそう思うんですよ。会う事が叶わない二次元のキャラクターや交流が難しい芸能人が相手なら、例え誰かの作品でも良いから交流したい、って、……あれ?」


ちょっと待ってね。
思考回路Now Loading......

今アイクさんめっちゃ爆弾発言したよね。

あらぁー。最近の夢小説は凄いのねー。
目の前にリアルな立体映像のキャラクターが現れて甘いセリフを言ってくれるのねー。
しかもこの立体映像は質量があって触れるのねーってんなわきゃねぇだろぉぉぉぉぉ!!

待って おかしい。明らかにおかしい。私とアイクは会ってそんなに経ってない。
むしろピーチ姫やマリオ達レジスタンスの方が付き合いが長いくらいだ。
それなのに、なに?
聖女のような性格をした美女より私の方が好きだって?
それこそ都合の良い夢小説みたいな展開になってる。

ただ単に、“作品”より現実の人間の方が良いって話かもしれない。
オタク趣味が無い人なら、実在しない二次元の存在に夢中になる気持ちが理解できなかったりするだろうし。
“好き”の意味も友情かもしれないしね。
……でも友情を育む時間すら無かったんだけど。

なんかなー、引っ掛かるな今の言葉。
テーマパークで亜空軍に襲われた時もアイクは私に、いつでも傍に居て守ってやりたいと言ってくれた。
そういうのを鑑みると、どうも今の言葉には他意が含まれているようにしか思えない。

一体どういうつもりで、会って間もない女に好きだなんて言ったんだろう。
呆然としてしまった私に、アイクは意味深な笑顔を送るだけだった。


++++++


「撃った時の反動で銃身が跳ねて狙いがずれますから、出来るだけグリップの一番上で握って下さい。光線銃ならそういう反動は少ないでしょうが、無いに越した事はありません」

「はい!」

「片手より両手で握った方が狙いは安定しますよ。どうしても片手が離せない時以外は両手で撃って下さいね」


あれから毎日、射撃場でルフレに銃の撃ち方を教えて貰っている。
私としては部屋から出られる事もプラスだ。
いくら快適で広い部屋でも、ずっと居るとさすがに気が滅入る。
この射撃場は身分が高い人の遊戯用なのか、一般のシェリフ等は居ない。
むしろずっと私とルフレしか居なくて、静けさがちょっと不気味。


「立って撃つ時はやや前傾姿勢で重心を前気味に、片足は半歩後ろで少し開いて。肘と膝は少し曲げて……。そうです! 結構慣れて来ましたね」

「姿勢はバッチリなんですけどねー……狙いが、どうもねー……」


銃の持ち方、撃つ時の立った姿勢やしゃがんだ姿勢はもう慣れたんだけど、簡単な的で命中率は8割と言った所。
難易度の低い的なんだから10割 当てたいんだけどな……。

ルフレに良い訓練があると薦められたので、小さなメダルを銃の上に乗せて、落とさずにトリガーを引く練習をしてみる。

……小さなメダルって言ってもドラクエのアレじゃない。
要はコインなんだけど、グランドホープは通貨無いし……。
それならメダルって言うべきだよね。ってかルフレがメダルって言ってた。
へー、銃のトリガーって指の腹で引くのが正しいんだ。関節じゃ駄目なんだね。
関節で引いたら銃口が傾いて狙いがズレちゃったよ。

私には何の特殊能力も無いけど、何故かガノンドロフが部下に命令して私を連れ去った。
何か勘違いをされている可能性も考えて、身を守る術は持っておきたい。
亜空軍の襲撃も定期的にあるなら危ないし。


「諦めないで。筋が悪い訳ではありません、練習していけばもっと上手くなれますよ」

「はい、頑張ります! ……でもルフレさん、お仕事もあるでしょうに、時間を割いて貰っちゃってごめんなさい」

「気にしないで下さい、今の私の仕事はこれですから。上からあなたの練習を見るよう言われています」


何でもない笑顔で言うルフレに、内心邪魔なんじゃないかと思っていた私はホッとした。
ちゃんとこの監督に対するお給料は出るんだよね、うん。

その日の練習を終えて、部屋に戻ろうと射撃場を後にする。
この階には、私の部屋がある階に通じるエレベーターが無いので、階段で2階上がって更にそのフロアの反対まで移動し、そこのエレベーターに乗らなきゃいけない。
やっぱり私が居るのは特別なVIPの階と部屋なんだろうな。
常に警備のシェリフが居るゲートを2つも通らなきゃ、そのエレベーターまで行けないんだよ。
そもそもあの射撃場のある階自体、一般人は来られないと思う。2000mは越えてますよきっと。
VIPと言えば聞こえは良いけど要は監禁なんだよねー……いや軟禁か。

ルフレはいつも部屋まで送ってくれるので、戻るまで一緒だ。
特に意味は無いけど何だか上るのが億劫になってしまい、先に階段を駆け上がってみた。
……ら、踊り場に足を掛けた瞬間、ぐらりと体が傾ぐ。


「あっ……!」

「コノハさん!!」


すぐに視界がぐわんと動き天井を捉えた。
その視界のまま背中の方から、意思に反して思い切り重力に引っ張られる。
あ、駄目だ。階段 長めだったから死ぬかもしれない。
実感が沸かないのか妙に冷静に考えた時には、もう体は宙に浮いていた。

……その間、足音が耳に届いていたような気がする。
そしてそれは気のせいでも何でもなかった。

落下しそうになった私を、ぼふん、と思ったより柔らかい感触が包み込む。
あれ? と思って瞑っていた目を開けてみるとそこには、私を見下ろす白髪(はくはつ)の青年。
どうやら仰向けのまま彼に抱き止められたらしいけど……あれ、この人って。


「大丈夫?」

「……」

「あ、そうか、この姿で会うのは初めてか。僕はルフレだよ」

「……」

「……説明しないと分からないよね。えっと、そうだな。キミが会った女性のルフレは僕の双子の妹でね。僕とは体を共有してるんだ。まあ共有してると言っても体が同じな訳じゃなくて、何と言えばいいか……。二人同時には存在できないから、入れ替わりながら存在する……っていうのが正しいかな?」


驚いちゃってあんまり頭が働かない。最近こういうこと多い気がする。
……えぇっと、男ルフレさん、だね……。
この世界では女ルフレと双子の兄妹なんて事になってるのか。
ってか双子なら名前変えようよ。ちょっとややこしいよ。
二人同時に存在できないなら何の問題も無いのかもしれないけどさ。

と、そこで今 自分がルフレに思い切り密着している事に気付いて、慌てて起こして貰い彼から離れた。
照れを誤魔化すようにやや早口でお礼を言いながら、身なりを整える。


  


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