13-2



更に、行動したからマルスとも仲直り出来た。
もし私が意地を張って、または怖がって謝らないままだったら、仲直りなんて絶対に無理だっただろう。
というか、ロイ達と仲良くなれなかったら旅行にも誘われなくて、結果としてマルスとも仲直り出来なかったよ。
この広いグランドホープじゃ再会は難しそうだ。

モテれば受け身のままで居ても周りの方から積極的に来てくれる。
でも私は違うから、自分から積極的に行かなければならなかった。


「お前はハンデを自らの行動と決断、態度で乗り越えて来た。よく頑張ってるなコノハ。本当に、よく頑張ってる」


頑張ってる、という言葉を繰り返して強調するアイク。
ひょっとして私は今まで、割と無理していたのだろうか。急激に泣けて来た。
我慢しようと思っても出来なくて、とうとう涙を零し始めてしまう。


「う……ぅ……」

「泣いてもいいぞ。甘えられない事も多かったろう。存分に甘えろ」

「……ちょっと、だけ。泣かせてください」

「ああ」


頷いたアイクに思いっ切り抱き締められた。
瞬間、涙がぶわっと溢れて来て、私は恥も外面も忘れてアイクにしがみ付く。
そして みっともなく泣いてしゃくり上げながら、思いの丈を吐き出した。


「この世界っ……! 私、と、同じ感覚の人なんて……ピカチュウしか……!」

「そうだな。心細かったな」

「なんで、私かも、分かんないし……これからどうなるかもっ……! 怖い、私が必要とされないこの世界が怖いっ!」


元の世界だって、私が居なくても問題なく回るし、私が必要とされてる訳じゃないだろう。
だけど私が生を受け、生まれた頃から一緒の家族や仲の良い友人達が居る。
17年間過ごした軌跡がそこにはある。

一方この世界にはポッと出で現れたに過ぎない。
私は17年 生きているのに、この世界では3ヶ月半程度しか生きていない。
体の時間に比べて圧倒的に生きた時間の足りない、地に足の着かない不安定な存在。
この世界が私を否定したり拒否したりすれば、一瞬で掻き消されてしまいそうな。
それなのに私がトリップして来た理由が分からないし、私が必要な場面も特に無い。
不必要である以上、この世界に根付いていない私は何の切っ掛けで消えるか分からない。

別に自分が主要人物じゃないのは分かってる、脇役なのは分かってる、なんて自分で思っていたけど。
私、本当は主要人物になって必要とされたかったのかな。

愛される夢主じゃないなら、世界に必要とされる主人公じゃないなら、余計に繋がりを大事にしないといけない。
私が死ねば恐らく泣いてくれるだろう友人なら何人か居る。
世界に必要とされなくても彼らに必要として貰えるように、感謝の心と思いやる心を持って、それを忘れてはいけない。

……これって異世界トリップなんかしなくても、元の世界でも同じ事だよね。
いつかピカチュウの言った通り、非日常も結局は日常になるんだ。


「アイクさん、私……ここまで来られたのはやっぱり、周りの人達のお陰です。特にピカチュウが居なかったら、耐えられたかどうか……。ピカチュウとルカリオ、無事なんでしょうか。どうか助けてくれませんか」

「安心しろ。あいつらなら生きてるし、五体満足で無事だ。ジェネラルインストールの名にかけて、決して手出しはさせない」


その言葉を聞いて、心の底から安心する。
アイクならきっと約束を違えないでくれるだろう。
このアイクが私の知るゲームのアイクと同じかは分からないけど、どうしてだか、彼の事はとても信用できた。

ピカチュウとルカリオに再会したらマルスに謝った時のように、疑ってしまった事を告白して謝ろう。
きっと彼らなら、真摯に伝えれば許してくれるはず。

本当の感情を吐き出せた上に自分の心も整理できて、何だか気分がすっきりした。
生まれ変わったような気さえして笑顔で離れた私に、アイクが真剣な様子である提案を示す。


「コノハ、俺は今すぐにお前を助けてやる事は出来ない。そこで今後の為に一つ提案があるんだが」

「え……?」

「万一の時の為に、少しは抵抗の手段を持ってみないか?」


言ってアイクが手渡して来たのは、一丁の銃。
だけど普通の拳銃と少し違う。何だか光線銃みたいな……。


「……レイガン?」

「少し違うな。使用感覚は普通の銃に近いが、出て来るのは弾じゃない。撃った相手を痺れさせたり眠らせたりする効果がある光線だ。グリップの少し上辺りにダイヤルがあるだろう」

「ダイヤル……あ、あります」

「それを回すと効果が変わる」


言われて回してみると、カチ、と手応えのある場所が数ヶ所あった。
そこに合わせれば出て来る光線の効果を変えられるみたい。
で、アイクが言うには、これを練習してみないかという事らしい。

……やるしかないよね。
特殊能力が無いんなら、こういう地道な努力がものを言う。
この銃に殺傷能力は無いみたいだけどそれでいいや。
さすがに人を殺すとなると怖すぎる。


「やります。やらせて下さい!」

「いい返事だ。俺よりもルフレの方が上手いからあいつに教えさせよう」


ルフレ!? 銃の扱い上手いの!?
確か彼女は剣と魔法を使えたよね……魔法なんて無いから、その代わりに銃とか?
魔法が存在しないかどうかは分からないけど、可能性はある。
まあ教えて貰えるなら誰だって良い。贅沢を言うなら任天堂キャラがいい。
つまりルフレは私にとって願ったり叶ったりな先生だ。
やる気を見せる私に、アイクが笑顔で。


「銃を所持して扱うには免許が必要だが、俺が偽造しておこう」

「えっ」

「ああ違う、シェリフの最高権力者が発行するんだから本物だな。偽物なんてとんでもない。一級武器の免許と銃の所持免状と……」


一級武器……ん、あれ?
確か前に亜空軍に襲われた時リンクが、ようやく二級武器の免許が取れたとか言って、ビームソードを使ってたような気がするけど……私 飛び越しちゃった!? 試験も受けずに!
あわわわ何かすみませんゴメンナサイィィ!


「はあ……魔法とか使えたらいいのになあ……」

「それも“夢小説”の主人公の特殊能力か。しかし、そういうの読んで楽しいものなのか?」

「楽しいですよ! いいじゃないですか夢なんだから! 美少女になって好きなキャラクター達に愛されるって夢なんですよっ!」


そうだよ、“夢”なんだよ! 夢だから良いんだよ!
妄想の中でぐらい絶世の美女とか魔法使いとかお姫様になったって良いじゃないか!
好きなキャラ達にちやほや愛されたって良いじゃないか!
現実じゃ異世界トリップした所で今の私みたいな状況になるんだから、せめて二次元では夢を見させてー!


  


RETURN


- ナノ -