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この世界に来てから3ヶ月以上。
連れ去られて来たここは、やっぱりノースエリアにある政府中枢のビルみたい。
あの5000mあるっていう……山は無いし他に対抗できるほど高い建物も無いから、飛び抜けて高いように見える。他の建造物は高くても1000mぐらいしかなさそう。

高級マンションのようなこの部屋に閉じ込められてから3日。
割と快適に過ごしちゃってる自分がアホみたいだ。
だって部屋は綺麗だしゲームとか退屈を凌ぐ物なら貰えるし、出て来るゴハンはなかなか美味しいし……いかんいかん。

ピカチュウとルカリオの状況は相変わらず知らされない。
殺されてはいないと信じたいけど、シュルクもルフレも権限そんなに無いって言ってたからなぁ。
ガノンドロフが本気で殺そうとしたら止めようが無いかもしれない。

ピット達は孤児院に送られたのかな。
ステップストアの人達に何の連絡もしてないけど無断欠勤扱いかなあ……。
アパートはどうなってるだろ、勝手に引き払われてたら困る。
連絡しようにも市民証の通信機能が停止されててどこにも出来ない。

する事が無いので心配事をぐるぐる考えてしまっていた私の耳に、以前ルフレが訊ねて来た時のような呼び鈴の音が。
教えて貰ったのでインターホンを操作してマイクとモニターを点ける。
……と、その画面に映った人物に思わず声を上げてしまった。


「っうえぇ!?」

『元気そうで何よりだ』


アアアアイクさん来ちゃった!
そう言えば彼、政府警察シェリフの最高権力者だっけ。
そりゃ政府中枢のビルに出入り出来てもおかしくないよね!

入ってもいいか、と問われ逆らうのが怖かったので素直に肯定する。
外側からガチャリと鍵が開いて、入って来た彼は確かにアイク。
でも名前……まだ聞いてなかったよね、ジェネラルインストールさんだったよね。
ここはそれで通そう。ボロ出しませんように。その前に名乗ってくれますように。

……この世界でも彼の名前が“アイク”かは知らないけど。


「え、っと、ジェネラル・インストールさん……?」

「それは役職名だな。俺の名前はアイク。名乗ってなかったか」

「あ、はい、アイクさんですね。私はコノハです」

「知ってる」


そうですね知ってましたね。地下鉄事故の時もテーマパークの時も。
それでなくてもシェリフの最高権力者なら調べ放題ですよね。
取り敢えずソファーにでも座って貰おうかと思ったけど、どうぞ、と示しても彼は動かない。
どうしたんだろうと思っていたら、ふと頭に手を置かれ、ぽんぽんと優しく叩かれた。


「え……」

「お前は頑張ってるな。勝手に異世界から送られて来たってのに」

「……!?」


えっ!?
いくらアイクさんがシェリフの最高権力者だからって、そういう事まで分かっちゃったりするの!?
っていうか分かるの!? 異世界とかの認識ってあるの!?


「どうして、って顔だな。お前がこことは違う世界から来ている事ぐらい分かる。そして俺以外には特に知ってる奴も居ないだろうから安心しろ」


なんだ、ピカチュウと彼に話を聞いたルカリオを除いたらアイクしか知らないんだ。

……逆に何でアイクだけ知ってるんだろう。
“分かる”って事は、何か違う雰囲気があるとか、そういうのかな。
いや、ピカチュウと知り合いみたいな会話してたし彼に聞いたのかな。
前に地下鉄事故に巻き込まれた後とかに。

アイクは優しげな顔で私の頭を撫でてくれる。
そしてその顔通りの声音のまま、爆弾を投下してくれた。


「ピカチュウと俺が知り合いなのはもう知ってるよな。ピカチュウに聞いたんだが、確か……“夢小説”だったか。お前が置かれている状況はその主人公っぽいんだろ?」

「はいっ!?」


ちょ、アイクさんの口から夢小説とかやめて!
アイク夢を読んだ事がある身としては居たたまれない! なんか全身が痒い!
ピカチュウ君、キミはなんて事を教えてくれたんだ恨むぞ!

いくら夢小説の事を知ったからって、まさかアイクさんも自分が知らない女と勝手にラブラブさせられてる作品があるなんて思ってないでしょ!
知られたら軽蔑されたり気持ち悪がられるかもしれない!

心臓がバクバク鳴り出した。やばい知られたくない、そうなったら社会的に死にたい。
ていうかピカチュウも夢小説知ってるのかい。
ゲーム知ってるしまさかとは思ってたけど……ピカチュウ夢は見たこと無いけどあるよね。
彼もそういう物を読んだ事があるんだろうか?

そうして、心の中で大修羅場を繰り広げつつも表面上は頑張って平静を装っていると、アイクは相変わらずの優しい顔と声音のまま。


「お前は随分とハンデが大きいな。特別な能力は何も無いし、容姿も普通だ。ああ、別に容姿をどうこう言うつもりは無いぞ。俺から見てお前の容姿は何の問題も無いと思うし。ただピカチュウに聞いた話だと“夢小説”の主人公は特別に美人が多いんだろ?」

「そうなんですよ……せめて私も美人だったらなって、思うんですよ……」

「でもお前は、そんなハンデにめげず この世界での生活を送って来た。危険な目に遭ったりしても、特殊能力に頼らず生き残って来ただろう」

「それは周りの人に助けられてばっかりだったから。私の力ではないですよ」

「そうしてお前を助けてくれたり、面倒を見てくれたりする奴とそういう関係を築けたのは、お前の行動の賜だ。容姿で惚れられたり、問答無用で好意を向けられたりはしてないだろ」


そうだろうか?
ピーチ姫とかピカチュウとか、リンク達とか、すっごくいい人達だったよね。
最初から凄く友好的で、だから私も彼ら彼女らを頼る事が出来た。
そう思ってそれを告げてもアイクは首を横に振って、一緒に過ごす間の私の行動で、そんな人間関係を築けたのだと言った。

……そうなのかな。
ピーチ姫は一緒に過ごす二週間のうちで、私と関係を築いた。
助けてくれたのは私に女王様の面影を感じたからだとしても、別れ際のあの寂しそうな顔は、私との生活で私自身を惜しんでくれるようになったからだろうか。

リンクやロイも同じ?
出会ったばかりの頃は親切に甘えたけれど、その後でリンク達と仲良くなれたのは、私が行動したから?
だよね。もし私が美人で夢小説みたいに惚れられたのなら、受け身のままで居ても、彼らの方から積極的に親密になろうとしてくれるだろうけど……。
実際はそんな事なかった。初めは遊びに誘われても断ってて、それでリンク達も私と親密になるのを諦めて、ロクな交流が無かったもんね。
ピカチュウに諭されて一緒に遊び始めて、旅行に誘われるまでになった。


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