11-1
「コノハ!」
懐かしい声がする。
それがマナの声だと分かった瞬間、ああ、夢を見てるんだなと思った。
小心者な私は傷付くのが怖くて、まだ2回目なのにもう故郷に関する事は全部夢だと思う事にした。
夢じゃないと判断するのは、故郷の世界で何日も何ヶ月も過ごせてからだ。
気付けば広い敷地があると思わせる場所、木陰のベンチに座っていて近くには立派な建物。
あれ、なんかどっかで見た事ある場所のような。
少し考えて、オープンキャンパスに参加した事がある大学だと思い出す。
1年生の頃に行ったっけ……少々早い気もしたけど、マナが行くって言うから付いてった。
なんだなんだ、ひょっとして私ここの学生になっちゃってんの? なかなか気が利く素敵な夢じゃん。
それが叶えばもっと素敵なんだけどな。
そうやって良い気分に浸っていたら、少々拗ね気味なマナの声がすぐ隣から。
「ちょっとコノハ、聞いてんの?」
「あ、ごめん。ボーッとしてたわ」
「最近ちょい浮かれてんじゃないのかー? 親友を置いてかないでちょうだいよ」
「ないない。私がマナを置いてく訳ないじゃん」
実際は置いて行ってるんだけど、夢の中でくらい理想を言わせてください。
あーマナに会いたい、夢なら覚めないで欲しいなんて乙女チックな事まで言いたくなる。
だけど前の夢ほど郷愁を感じさせないのは、“まだ知らない”感じだからかな。
前の夢は通い慣れた高校だったけど、今度は1回オープンキャンパスに行っただけの大学。
そこまで寂しい気分にならず、目標が叶った気分さえ味わわせてくれる。
本当に気の利く良く出来た夢だ。出来過ぎててちょっぴり怖いくらい。
空をじっと見上げていると、故郷に帰って来たんだなって実感できる。
木陰だよ木陰、今 私が居るのってグランドホープには無い場所なんだよ。
暑いし夏かなあ、ほんと空が信じられないくらい真っ青だしめちゃくちゃ高い。
で、何の話だったっけとマナに訊ねたら、彼女はその手に3DSを持っている。
ゲームしてたんかと思っていたら、その3DSから聞き慣れた音声が。
……んん? なんかスマブラみたいな音がする。
そうして疑問に思っている私をよそに、マナは楽しげな顔でゲームしながら。
「だからー、シュルクが可愛すぎて持ちキャラ乗り換えそうって話。最近乱闘する時いっつもシュルク使ってるよ」
「……シュルク?」
シュルクってWiiのゼノブレイドの主人公だよね?
あれ? スマブラXに参戦してたっけ? いやしてる訳ない。
発売時まだゼノブレイド無かったし、DXのロイみたいに発売前参戦とかも無いし。
っていうか、え? マナ、3DSでスマブラしてる……?
「……それ、スマブラ?」
「さっき言ったじゃん、スマブラfor買ったって! ルフレとかルキナも使いたいし、新キャラ良いの増えすぎ!」
ちょ、なにそれ。なにそのスマブラforって。知らない。
携帯機でスマブラ出来る時代が来るんですかヒャッハー!
しかもFE覚醒のルフレとかルキナも参戦してるんですかヒャッハー!
これ予知夢だったら凄いよ!
「ちょ、見せて見せて! ……うわいろいろ増えてる! すっごーい!」
「コノハも早く買いなよ。ていうかケンジに買ってもらっちゃえば良いのに」
「ケンジが買ってくれる訳ないって。むしろ私に買えって言いそう」
「まあ確かにそうだけど、今は違うんじゃない?」
違う? さすがにケンジも大学生になったら丸くなったかな。
にしたって友達にゲーム奢る事態にはならないと思うけど。
しかし、これは何が何でも元の世界に帰らなきゃいけないね。予知夢かどうか確かめたいし!
とは言えどうすれば帰れるのか分からない。
どうせこれも夢でしょー、素晴らしく都合が良いけどそのうち覚めるし。
うわーうわーとテンションUPではしゃいでいたら、更にマナが。
「んもー、ルビサファリメイクもうすぐだわVC増えるわで最近楽しすぎない!?」
「え、ルビサファリメイク!?」
「なーに“今知った”みたいな顔してんの、絶対買おうってハシャぎ合ってたじゃん」
あれは夢だったけど前に、マナとケンジの3人で話してたっけ。
ルビサファリメイクして欲しいだのVC欲しいだの何だの。
ヤバイ本格的に帰りたくなって来た。それは前からだけど気持ちが激増した。
ところで今って何年なんだろう? ボケた振りしてマナに訊いてみよう。
「ねえねえマナ、今って何年何月何日だっけ?」
「おー、ボケちゃいましたかコノハちゃーん。2014年9月16日でしょー」
「……あー、そうだったそうだった。ありがとマナ、意識を失ってたもんで」
「ちょ、年月日も分からなくなる程とかいつからだよ」
書き込みなら“www”とか付きそうな調子でマナが言う。
2014年か。大学に居るから最低でも2年くらいは経ってると思ってたけど、今……というか、私がグランドホープに来る前の地球は2012年6月だったから、2年以上も後なんだ。
その間にスマブラ新作発売とかルビサファリメイク発表とか……そういうの知りたかったよ!
まあこれは夢だし本当かどうか分からないから、期待はちょっと薄めだ。
何が何でも地球に帰って、これから正夢になるかどうか確かめないと。
ところで大学って8月9月が夏休みじゃなかったっけ? 少なくともこの大学はそうだ。
9月に何しに来てんだろ。何か特別な講義とかあったんだろうか。
単位足りなくて……とかだったりして。やだ怖い。そんな目に遭いたくない。
そうだとしたら、忘れないうちに地球へ帰って自分を戒めとかないとね。
家族・友人と、ゲーム以外にも帰りたい理由が出来ましたよ。
そうやって心密かに地球へ帰る決心を固め、ふと隣を見て、マナが私を見ながらニヤニヤしている事に気付く。
え、なに……と小さく言うと、マナはそのニヤニヤ笑いを浮かべたまま。
「最近ボーッとし過ぎじゃん。ま、あんな事があったら仕方ないか」
「あんなこと? スマブラ新作? リメイク発表?」
「それもあるけどさー、ケンジだよケンジ!」
「ケンジがどうかした?」
「なーにが『どうかした?』だよ。13日発売のスマブラ買い忘れる程の衝撃受けてたくせに。あんたその日ケンジに告られて、返事を待って貰ってる身でしょ」
「ほあぁぁぁぁぁ!?」
「うわビビったっ!!」
「コノハ様 如何なさいました!?」
めっちゃ飛び起きた。焦った。うわーなんか汗かいてる。
私の大声にピカチュウとルカリオも飛び起きて、驚愕の目で私を見てる。
ごめん何でもないと謝ってからもう一度寝転んだ。
それで私が何も言わなくなったからか、ピカチュウとルカリオも二度寝。
っていうか、何だあの夢。
ケンジが私に告ったって? それで私はまだ返事をしてないって。
へーそうですか。ひどい夢だよ。私にそんな願望があるみたいじゃん。
やっぱりケンジは男友達だからなあ、付き合うとか想像できないや。
そりゃ女子から人気ある人だしカッコイイとは思うから、何かキッカケがあったら意識し始めるかもしれないけど。
……そんな事があったんだったりして。
少なくとも2年は後だし、その間に何かキッカケになるような出来事が……。
いや、違う。あれは夢なんだから。夢 夢。
あくまで友人として彼の事が恋し過ぎたから、変な方向に突っ切った夢を見ちゃったんだろう。
そうだ、きっとそう。だからこの胸の高鳴りも単なる幻想だ。
けれど結局それから眠りに就くことは出来なくて、目覚ましが鳴るまでベッドの中で悶々とし続けるしかないのだった。
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