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モールに戻ってから市民証を確認してみたけどまだ連絡が無い。
どうやら買い物はまだ終わってないようだ。
おいおいロイ君、キミが買い物始めてからもう3時間が経とうとしているぞ。
観覧車に乗ってる間に連絡が来たらどうしようと思ってたけど、完全に杞憂だった。
ちょこっとその辺の店でウィンドウショッピングしていたら、10分ぐらい経ってようやく連絡が。
合流した時、リンクとマルスが心底疲れ切った顔をしていたのは言うまでもない。


「やっほーお疲れリンクさん、マルス!」

「コノハ、ごめん! どうしても止め切れなくて……」

「いいですよリンクさん、こっちはこっちで楽しかったですから」

「オレも楽しかったぜー、いやあ買った買った!」

「ロイ君はちょっと自重しようか」


こう来ると、ロイの面倒を見ていたリンクとマルスに悪いな……。
何だかんだで私は買い物満喫して観覧車にまで乗ってたんだし。
ロイ、悪い子じゃないんだけどなー、多分夢中になると周りが見えなくなるタイプなんだろう。
さて次はどうしようかと思っていたら、リンクがとある提案をして来た。


「なあ、まだ腹減ってないなら一つ提案があるんだけど」

「なんですか?」

「今は飯食いに行ってもどこも人が多いと思うんだ。だから時間をずらす為に、観覧車でも乗りに行かないか?」

「えっ」


良いねー、とロイ達は盛り上がるけれど、私は応答が遅れてしまう。
え、あ、観覧車、ですか。いや面白かったですけど、あの、さっき乗ったばっかりで。

……なんて言える訳もなく、再び観覧車に乗りに行った私は、係員さんから「またコイツ来たよ」みたいに思われてないか不安が満ちるのでした……ってか。


++++++++


「楽しかったよ皆、また今度一緒に遊ぼう」

「うん、今度はセントラルエリアの方にも遊びに来てね」

「またなー、マルス!」


帰りの駅、イーストエリア在住のマルスと別れ、列車に乗り込む。
空はすっかり夕暮れ、思いの外盛り上がったので予定より列車を2本ほど遅らせて乗っている。
“日常”に戻るのか……このグランドホープでの“日常”に。

旅行最終日のテンション低下が起きたか、会話がそんなに弾まないままセントラルエリアに到着。
リンクやロイと和やかに挨拶して別れ、私は自宅に帰って来た。


「ただいまー。あー疲れた、明日はゆっくり休もう」

「お邪魔しますコノハ様」

「ちょ、ルカリオ。今日からキミも住むんだから挨拶は“ただいま”だよ」

「えっ……あ、はい、ただいま戻りました」

「……それ合ってるっけ? ま、いいや。これでルカリオも本格的にウチの一員だね」


そう言うと、ルカリオが少し嬉しそうに微笑む。
私が彼の言う“主様”じゃないと知った時のがっかりっぷりは盛大だったけど、今はもうそんな感情は浮かべていないみたいだ。
少なくとも喜んでくれているみたいで一安心かな。

荷物を整理し片付けていると、はらりと一枚のカードが落ちる。
今日サムスに貰った名刺。またも思いがけない任天堂キャラとの出会いだった。
こうして少しずつ知り合いになって行くけど、これから一体どうなるんだろう。
任天堂キャラの多くが革命軍や政府に属するとしたら、戦いが起きる可能性もある。
それに巻き込まれたくないし、本来なら出来るだけ一緒に居ない方が良いんだろうけど。

そもそも革命軍と政府に分かれたとして、どちらか一方だけに味方なんてしたくない。
だってどっちにも任天堂キャラが居る訳でしょ、敵対したくねぇぇ……!
どうにかして回避したい。臆病者とでも何とでも言うがいい。
私は夢ヒロインじゃないんだから、逃げたって責められる筋合いは無いぞ!
戦えないんだから仕方ないじゃないか。

いっそ自分が異世界人だとでも言おうか、そして彼らがゲームのキャラだとでも言おうか。

……いや、無いな。
自分が異世界人だって明かすのは良いけど、彼らがゲームキャラだって明かすのは無い。
だってそれって余りにも酷すぎるじゃないの。
彼らが信じる信じないは別として、自分の人生を歩んでいる彼らに、実はあなた達はゲームキャラですよ、などと言うなんて余りにも無神経だ。

幸いこの世界の任天堂キャラ達は、原作ゲームの彼らとは違う人生を歩んでいるっぽい。
だから、元の世界で辛い目に遭ったり心が抉れるような決断をしていたり……とか、そういう事は気にする必要が無い訳だ。
けれど、それでも彼らは生きている。自分の人生を歩んでいる。
今までの人生で苦労していたり、辛い事だってあったかもしれない。
十数年しか生きていないとしても、幸福と楽しい事しかなかったなんて事は無いはずだ。
例え目立った苦労が無くたって、今まで歩んで積み上げて来た人生は掛け替えないもの。

そんな彼らに、あなた達はゲームのキャラです、あなた達の命も体も、今まで歩んで来た人生も、これから歩む人生も、私達の世界の人が楽しむ為に作られた娯楽です、なんて。
そんな事を教えるなんてムゴいし無神経だし、どんだけ人の気持ち考えられないのって話になっちゃう。

いや、正直に言うとバラしたくなる事はある。思いっ切りぶっちゃけたくなったりする。
でも耐えなきゃいけない。
彼らの存在が娯楽なのは事実だけれど、それを知られちゃいけない。
これは彼らの名誉と矜持と人生と……彼らの存在そのものを尊重する為だ。

……ピカチュウは、そこんとこどう思ってるんだろう。
彼は“ポケットモンスター”というゲームを知っている。
“ピカチュウ”というキャラクターを知っている。


「ねえピカチュウ」

「ん、なに?」

「ピカチュウはさ、自分がキャラクターだって自覚、ある?」

「……ポケモンのゲームの事か。無いんだよね、それが。ボクはボクだ。ボクの命やジンセイもボクのものだ。ボクは“ゲームのキャラクター”じゃない」

「だよね。うん、私もそう思うよ。ところでルカリオにゲームの事とかは……」

「ルカリオにもちょっと説明したけど、多分理解してないと思う」


用途や位置の把握の為か家の中を見回っていたルカリオに視線を移す。
って事はルカリオは、私の世界とは何の関係も無いヒトなのかな。
ピカチュウみたいに異世界トリップして来た訳じゃない、と。

あー、新たな任天堂キャラに会ったせいかまた色々考え込み過ぎてる。
取り敢えず考えるのは今日はここまでにして、さっさと休もう。
サムスも好意的な人だったし気にかける必要は無さそうだし。うん、安心安心。

やっぱり疲れていたのか、荷物を片付けて簡単に夕飯と入浴を済ませると、急激に睡魔が襲い掛かって来る。
もう何にもする気力が起きなくなった私は、ベッドに倒れ込んで睡魔に敗北するのだった。




−続く−


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