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言ってから、ふとサムスの素性が分からない事に不安が過ぎった。
しかしもう乗ると言ってしまって後の祭り。今更断るのもなあ……。
まあ、ピカチュウとルカリオも居るから大丈夫かな。
きっとふたりなら私が何も言わなくても警戒とかしてくれるだろうし。

係員さんに話して500ずつの支払いにして貰い、市民証をセンサーに翳してゲートを通る。
通路を歩いて先へ行くとゴンドラの乗り場があった。
うわ、近くで見るとゴンドラがますます大きい! 球体だしあんまり見ないような形だなあ。
ほぼシースルーで眺めが良さそう&足が竦みそうだ。

数分ほど順番待ちをした後、乗降担当の係員さんに扉を開けてもらい中に入る。
中央の滑らかな曲線を描く柱をぐるりと回るようにベンチが取り付けてあり、端っこは東西南北の位置に2つずつ外向きの椅子が取り付けてある。
スペースが広めで立ち見の方がメインになりそうな感じだな。
ゴンドラの中も外も遮る物がほぼ無いので眺めが半端なく良い。
直径3mもの大きさがあるからほんと、ちょっとした部屋とか展望室っぽいんだよね。


「うわわ、乗り場が高い位置にあったからもう眺め良いですよ!」

「そうだな。もう少し上がればモールの高さを越えるから、イーストエリアの町並みも見えてもっと良い眺めになりそうだ」


思えば一昨日に海辺のランドマークタワーに行ったから景色的には同じ、しかも高さはずっと低い。
だけどやっぱり観覧車となると感覚が違う。
じわじわ上って行くゴンドラにテンションが少しずつ上がって行くから長持ちしそう。

きゃいきゃい小さな子供みたいにはしゃぎながらゴンドラの中を歩き回り、色んな方角から景色を眺める。うーん最高!
そうしていると、中央のベンチに腰掛けていたサムスが話し掛けて来た。


「お前、名は何というんだ? 私はサムス、ウエストエリアに住んでいるんだ。こうして会ったのも何かの縁だろうし、教えてくれないか」

「私ですか? コノハっていいます」

「コノハか、良い名前だ。イーストエリアには遊びに来たのか?」

「はい、友達と旅行に。観覧車を降りたら合流するつもりですけど、今はちょっと別行動してるので」


さり気なく所在地を言わないようにして、私よくやった! と心中で己を褒めたのも束の間、次の質問で思わずイーストエリア出身ではないと教えてしまった。自分アホ過ぎる。
まあ別にサムスが革命家や政府関係者だとか決まった訳じゃないし、それに革命家だったらピーチ姫が、政府関係者だったらアイクが何とかしてくれると信じたい。
かなり他力本願だけど、私には戦闘能力も特殊能力も無いんだから良いじゃないか、頼りまくったって!

ピカチュウとルカリオは少しだけ警戒を滲ませている気はするけど、私の傍に付いているだけで露骨な威嚇などは全くしていない。


「それにしても、そのペットは珍しい姿をしているな。しかもやたら流暢に喋るじゃないか、調整に苦労しただろう」

「いえ、実は私が作ったとかそういう訳じゃないんですよ」

「そうなのか。ひょっとして獣人とかだったりはしないか?」

「さあ……詳しい事は分かりません。でも何にせよ大事な友達です!」


笑顔を浮かべながらそう言うと、サムスが一瞬だけ驚いたように目を見開く。
ふと視線を感じて隣を見るとルカリオまで驚いたように私を見ていた。
え、あの、そんなにおかしいこと言いましたっけ?
まさかペットを人間と同格に扱うと法律違反になるとか、そんな事ないよね!?

サムスもルカリオも何も言わないから、何も無いのだと思っておこう。
観覧車のゴンドラはじわじわ高度を上げ、そろそろ4分の1辺りに辿り着きそうな感じだ。
一周30分だったっけ、あんまり考えなかったけど結構長いよね。
長くても一周15分ぐらいのにしか乗った事ないな。


「風吹いたらどれだけ揺れるかな。ちょっと期待」

「そんなこと言って、実際 揺れたらビビるに一票〜」

「ちょ、ピカチュウおのれぇぇ! 私の心の中を読むなと言っておろうに!」

「言われた覚え無いんですけど」

「くっそ、ルカリオも読んでんの!? 波動の力で読心余裕ってか!」

「いえコノハ様、波動にそのような力は備わっていませんよ。しかしながらピカチュウの言う通りのような気はしております」

「キミは私を敬っているのか見下しているのかどっちだ!」

「はははっ、面白い奴らだな!」


ぎゃんぎゃん騒ぐと、サムスが声を上げて笑い出した。
思わず振り返った先の彼女の笑みが満面のもので驚いてしまう。
うわわ、サムスってあんな満面の笑みとか浮かべるんだ! 良いもの見た!

そこから、何となく固まり気味だった雰囲気が溶解して柔らかいものになる。
ついついサムスの素性が知れない事も忘れてお喋りに興じ、景色も楽しんでいると30分はあっという間に過ぎた。
ゴンドラを降りた時にはどこかスッキリしたような気持ちにもなった。


「あー楽しかった! 30分って意外にすぐなんですね」

「それも楽しければこそだろう。一人で乗らなくて良かったよコノハ、お前達のお陰で私も楽しかった」

「お役に立てたのなら何よりです。じゃあ私、そろそろ友達と合流しますね」

「ちょっと待て。渡したい物がある」


踵を返そうとしたら引き留められ、懐から何かを取り出すサムスを黙って見る。
渡されたのは一枚の名刺で、市民証で読み込めるQRコードのような物が付いていた。


「え、と……警備会社イージス 専属警備員サムス・アラン……。あ、警備員ってあのシェリフよりお手軽で引く手数多な職業ですね!?」

「宣伝のような認識ありがとう。そこの会社に所属しているんだ。ボディガード等も請け負っているから何かあったら私を指名するといい、割安料金で請け負うぞ。個人的な連絡も大歓迎だ」

「わー、ありがとうございます!」


まさかリンクが目指す職業に就いている人だったとは。
このQRコードみたいなのを読み込めばサムス個人の連絡先とかが分かるんだね。
結局彼女は私の連絡先とか訊かないまま、別れて去って行ってしまった。
私が連絡するかどうか分からないのに私の事を何も訊かないって事は、革命家や政府とは何の関係も無いと思っていいのかな。


「ボディガードか、そんなものに頼る事態にならなきゃいいけどね」

「フラグ立てないで下さいピカチュウさん。まあピカチュウとルカリオが居るから、彼女にお鉢はそうそう回って来ないよ」

「おー嬉しいねえ信頼してくれるなんて。こりゃご期待には応えないと」


料金いくらぐらいなんだろ、ちょっと後でホームページでも見て調べとこ。
……いや、ピカチュウの言う通りそんな事態にならないのが一番なんだけど、念には念を入れていたって良いじゃないの。
それにサムスお姉様に守って貰えるなんてオイシイ……いや嬉しいじゃないか!
うーん、これじゃ“そんな趣味は無い”って自覚に説得力が無くなるね。
しかし女が美人好きでも良い筈だ、少なくとも悪い事は無いでしょう!


  


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