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ロイ達の質問攻めと周囲の視線や言葉から一先ず逃げようと、私は友人達を促してその場を離れた。
好奇心やからかいの気持ちで後を尾ける野次馬も居たけど、ルカリオのお陰で何とか撒いて私達は離れの静かな場所にあるカフェへ。
軽く飲み物だけ注文した後は沈黙が私達を覆う。
けど友人達は好奇心で以て私を見ているから、特に気まずくはないのが救いだ。
飲み物が来ても黙っていると痺れを切らしたロイが、声量大きめに質問して来る。
「で! コノハはどうやってジェネラルインストールと知り合ったんだよ、何か親しそうだったし!」
「ロイ、声大きい……!」
ロイの出した話題に周りのお客だけでなく、今しがた飲み物を運んで来たウェイトレスさんまで振り返る。
BWの3匹お猿さんとカフェグッズがキュートにデフォルメされたプリントのエプロン可愛いですね、後でお店で買いますから今は見せびらかさないで去って下さいお願いします。
リンクがロイを軽く叩き、はっとしたロイにボリュームを落として話を促されたので、以前の地下鉄事故の事を話してみた。
お姫様抱っこされた事まで話すつもりは無い。
あんな精神的罰ゲームは一生胸の内に隠すべきだね、うん。
「あの事故、結構ニュースになってたね。何にしてもコノハが無事で良かった」
「ありがとマルス。死人が出たら絶対トラウマになってたよ、って言うか今もちょっと地下鉄怖い」
「でもいくら特殊な出会いとは言え、そんな1回会ったぐらいであんな事まで言うかな普通。コノハお前、あのジェネラルインストールに惚れられたんじゃ……」
リンクが真顔で言うもんだから、持っていたアイスカフェラテのグラスを落としそうになってしまった。
あんな事、って、傍に居て守ってやりたいとかの恥ずかしいセリフだよね。
確かに惚れられたと勘違いしても仕方ない言葉だった。
どうやらアイクさんはご自分の男前具合を分かっていらっしゃらないようだ。
ちくしょーめ天然タラシが、次会ったら無視してやる。
「て言うか私はピカチュウとルカリオに訊きたい。ア……ジェネラルインストールと知り合いみたいだったし、あれなに」
「確かに知り合いだよ、古くからのね。これはルカリオ同様、今は話す気は無い」
「申し訳ありませんコノハ様、これはあなたの為でもあるのです」
「うーん……気になるけど二人がそう言うなら無理に訊く訳にもいかないな」
私が完結させたので続ける訳にもいかなくなったのか、ロイ達はそれ以上何も訊かなかった。
空調の行き届いたカフェで暫く休憩してから、また遊びへと繰り出す。
こんな異世界人にとって某夢の国より夢に相応しいポケモンのテーマパークは、湧いた疑問も何も分からない事への不安も、全て忘れさせてくれる素敵な存在。
あーあ、私の世界にもポケモン……ていうか任天堂のテーマパーク出来ないかなあ、絶対に行くのに。
マルスの言う通り人々は亜空軍の襲撃に慣れているのか、何事も無かったかのように連休を楽しんでる。
その日は閉園まで一日中、テーマパークでずっと遊んでホテルへ戻った。
「じゃ、また明日。おやすみなさーい」
「おやすみー」
皆と別れて部屋へ戻り、荷物を置くとふかふかのベッドへ倒れ込む。
うあー、と唸りながらウトウトしていたら、ピカチュウもベッドへ飛び乗って私の頬をぺちぺち叩いて来た。
「ほらほらコノハ起きて。やむを得ない状況でもないのに年頃の女の子が、お風呂に入らないまま男に会うなんて頂けないよ。キミそのまま寝ちゃうでしょ、寝るならお風呂に入って軽く荷物整理してからにしなきゃあ」
「うー……ふぁあい……。ぱっぱと身支度しますか、折角だからルカリオも一緒にお風呂入らない?」
「えっ」
「この部屋のお風呂、結構広くて快適だよ。ねね、親睦を深める為にも裸の付き合いしちゃいましょーよ」
いつもピカチュウと一緒に入ってるし、それと同じノリで誘ったつもりだった。
ところがルカリオは暫し呆然とした後、真っ赤になってわたわたと慌てだす。
……ん? あれ?
「ななな何をお考えなのですかコノハ様、私はれっきとした男ですよ!? そんな一緒に入浴など、その、ご自重下さいませ!」
「え……いや、だって私いつもピカチュウと一緒に入ってるから、ルカリオも大丈夫かなあと思って」
「……何ですって?」
ぴくりと目尻を吊り上げたルカリオが、
赤くなった顔が一気に冷えるほど雰囲気を冷酷剣呑とさせてピカチュウを睨み付ける。
すたすたと歩み寄り、まずい、と言いたげな顔をしたピカチュウが逃げられないように掴んでしまった。
「ピカチュウお前もしや、コノハ様を騙して無体な真似を働いたのでは……!」
「いややややちょっと、ちょっと待って誤解! 誤解! だから!」
「しかしお前も男だろう、正直に言え! さもなくば叩きのめす、そして返答次第でも叩きのめす!」
「大丈夫だって、人間の女の子には興味ない! ほら、ルカリオは何となく形が人間に近いし体の大きさも人間みたいだから、人間に近しい感覚があるんだよ! ボクは人間よりずっと小さいし姿形も遠いから、そんな感覚なんて無いっ!!」
「本当だろうな!」
「本当だよ!」
暫く睨み合うようにしていたピカチュウとルカリオだけどルカリオも信じたのか、悪かったな、と謝ってピカチュウを静かに降ろす。
私は普段のピカチュウの様子を知っているからとても意識してるとは思えなくて、端から疑ってなかった。
ふう、と息を吐いたピカチュウが何だか面白くて頭を撫でてあげると、何か言いたげに見上げて来るけど大人しくされるがまま。
一悶着あったものの習慣は変わらなくて、私はいつも通りピカチュウとお風呂へ。
広めの浴槽に浸かりホッと息を吐いたら、拗ねたような口調のピカチュウが。
「……コノハ、ボク、そういう趣味は無いからね」
「うん、分かってる。ま、あんまり言われると私に魅力が微塵も無いって言われてるようで凹むけど」
「え、自分がそんなに魅力的だと思ってたの?」
「やーかましい! ほんとに凹むぞ、私が本気で凹んだら超鬱陶しいからね!」
「あはは、ごめんごめん言い過ぎたよ。コノハは顔は平凡顔だけど、体はなかなか……」
「おぃぃエロオヤジみたいになってるぞ!」
ばしゃばしゃと阿呆みたいに言い合ったりお湯を掛け合ったりして騒ぐのが楽しい。
ちょっとトラブルや不安の種はあったけれど、私の旅行は概ね平穏に過ぎて行くのだった。
−続く−
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