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「ってリンクさん、なんて物持ってるんですか!?」

「コノハ、俺が目指してる職業忘れたか?」

「……あ、警備の仕事」

「ようやく二級武器の免許が取れたんだよ、訓練は積んでるし戦えるさ。コノハ達は周りに注意して逃げ回るんだ、警備員やシェリフも戦い始めてる!」


リンクの言葉に周りを見ると、シェリフの制服や警備の制服を着た人達が亜空軍と戦いを始めていた。
っていうか中には一般人と思しき私服の人まで居るけど、戦いに自信があるなら一般人でもいけるのか。
やっぱりまだシェリフを見ると緊張するけれど、現金なものでこんな場合には物凄く頼もしく思える。
もう私は身元もハッキリしてるから攻撃される事も無いだろうしね、存分に頼りにさせて頂きましょう。

ピカチュウとルカリオに守られ、ロイとマルスに引き連れられながら逃げ惑う。
連れ去られても無事に帰して貰えるなら大丈夫かもしれないけど、私は異端者だからどうなるか分からない。
緊張が凄くて心臓が少し苦しい。まるでゲームのよう……だなんて思えない。


「コノハ、大丈夫?」

「う、うん。マルス達割と落ち着いてるね」

「襲撃自体は10年ぐらい前からあるからね、嫌でも慣れてしまうよ」


政府が怪しい以前に、そこそこサバイバルな場所だったんだなグランドホープ。
いや、まさかこの襲撃は政府の差し金とか……。
うーやばいやばい、妙な事は考えないようにしよう。
亜空軍の数はなかなか減らず、そのうちプリムだけでなく違う奴らも出て来る。
あれ、これヤバくね?
と思っていたら、さっきとは違うサイレンが響き、ロイが興奮気味に声を上げた。


「うおお、このサイレン! ついにジェネラルインストールが出んのか!?」

「ジェネラル、インストール……?」

「シェリフ最高の地位に居る最高の実力者だよ、アレはもう警察じゃなくて戦士だな。憧れてる奴も多いんだぜっ」


楽しそうなロイの言う通り、周りは新たなサイレンの響きにざわめき始めた。
不安によるざわめきじゃなく、大人気な有名人が出現する直前のような感じの。
誰か知らない人が、あそこに居るぞと声を張り上げ、やや上の前方を指さす。
誰もの視線がそちらへ動き、私も例外無く視線を見知らぬ人の示す先へ動かした。

立派な造りの時計塔。
私が視線を向けたのは、誰かがそこから飛び降りた瞬間だった。
途端に響き渡る歓声。
亜空軍に襲われて発現した恐怖の渦は、期待と安心と興奮に満ちた明るいものへと変化する。


「あれがジェネラル・インストール……って、あれ、って、まさか」


ジェネラルインストールは大剣を手にし、そこから衝撃波を放ったり剣で直接斬りつけたりしながら亜空軍を次々と葬り去って行く。
益々歓声が沸き上がり、もうアイドルのステージでも見に来たかのような騒ぎ。
その騒ぎの中心、歓声や声援など物ともせず無心で敵を倒すジェネラルインストール。彼は見知った人だ。


「……ったく、もう。相変わらずなヤツ」


ピカチュウの呟きはジェネラルインストールが知り合いだと示すものだけど、私は今そんな事なんて気にならない。

大剣を振り回し、蒼い髪と赤いマントと鉢巻きをはためかせる彼はアイクだった。

怒濤の勢いで数を減らされた亜空軍はやがて、アラモス卿を最後に増援が途絶えた為こちらの完全勝利。
今までで最大の歓声が上がるもののそれさえ聞こえていないようなアイクは、ちらりとこちらを見やると剣を携えたまま歩いて来る。


「え、え、こっち来る! やべぇオレ スカウトされたらどうしよう!」

「何で戦ってた俺じゃなくてお前だよ」


興奮冷めやらぬロイを、いつの間にか戻っていたリンクが軽く小突いた。
だけど冷静に見えるリンクも何となく緊張しているように感じるなあ。
やっぱり警備員を目指してたらシェリフの最高峰に憧れもするのかな。
周りの人達が何事かと私達に注目してて恥ずかしい。

リンクもロイもマルスも固唾を飲んで見守る中、アイクは他所へ一瞥もくれずに私の目の前まで来た。
無表情で見下ろして来るアイクに集中している間に、歓声は消えて辺りが静まり返る。
え、あの、また会いましたね。でも何か私にご用ですか私は特に無いのですが。


「……おいコノハ」

「は、はい」


かの有名なジェネラルインストールが私の名を呼んだ事に周囲がざわめいた。
アイクはやはりそんな周囲など存在していないかのような態度を保ったまま、うっすらと微笑んで。


「また会ったな。よっぽどトラブルが好きらしい」

「いや好きで巻き込まれてる訳じゃないんですが。それを言うならアィ、……あなたの方こそトラブル好きと言えるんじゃ」

「俺は仕事だからな。寧ろシェリフとしては、トラブルが起きている場所にこそ居るべきだろ?」

「まあ、そうですね」


うっかりアイクと名前を呼びそうになったものの、ジェネラルインストールで通っている以上、もしかしたら本名は隠しているかもしれないので寸でで止めた。
ってか私、多分アイクから名前聞いてない気がするし、知ってたら怪しまれるよね。
そんな事より自分でも意味が分からないけど、まだ過去に1回しか会ってない人と割と親しげに話せててびっくりする。
別にコミュ障ではないけど、ここまで何の緊張も無く話せる程社交的でもない。
やっぱり前に1回会って交流を持ったからかな。


「コノハ、ひとつ忠告しておくが亜空軍には気を付けろ。絶対に捕まったりするんじゃないぞ」

「あ、はい。私も捕まりたくはないですし……」

「俺がいつでも傍に居て守ってやりたいんだがな、そうもいかないんだ」


は、はい……?
今この人めっちゃ恥ずかしいこと言わなかった?

うわああ何かまた周囲がざわめき始めた。
今の言葉は私の勘違いじゃない、マジで言われた!
いつでも傍に居て守ってやりたい、って、まだ2回しか会ってないのに何で!?

一目惚れされたとか、そんなのは有り得ない。
私は美人でも特別可愛くもないし、性格が良いわけでもないんだからね。
ってか、たとえ私が美人だったり可愛かったとしても、そんな事で惚れて欲しくないかもしれない。
外見が可愛いから惚れるだなんて、アイクがそんな軽薄なキャラだったら……ちょっと、うーん……。
私が妙な事を考えている間に、アイクは私の頭に乗ったピカチュウを撫でる。


「……俺が居ない間はコノハの事を頼んだぞ。こいつ馬鹿だからな」

「ちょっ」

「言われなくても分かってる。アンタこそ死んだりしないでよ、ボクだけじゃ荷が重いかもしれないしね。てか撫でるなキモい」

「悪い悪い」


私に失礼な(しかし否定する気も無い)事を言ったアイクはすぐに踵を返すと近くに居たルカリオへ、お前もコノハを頼んだ、とか言って去って行った。
後に残された私は呆然とそれを見送っていたけれど、ロイ達が駆け寄って来たのですぐ我に返る。


「コノハ!? お前らジェネラルインストールと知り合いだったのか!」

「しかもさっきの、あの言葉……いつでも傍に居て守ってやりたいとか、まるで恋人や家族だ!」

「どこで知り合ったんだ、シェリフの最高権力者とだなんて凄すぎる!」

「ちょ、待っ、ロイもマルスもリンクさんも落ち着いて! 落ち着いてってば!」


  


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