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やがて道が四つ叉に分かれている場所に来た。
それぞれ一人ずつ行かなければならなくなって少々怖いけれど、ピカチュウが居る分だけ気が楽だ。


「コノハー、一人で大丈夫か? 良かったらオレが付いてってやろうか!」

「ロイ君ロイ君、この先明らかに4分割されてるから。そこの壁のプレートにも書いてあるじゃん、一人ずつ進まなきゃ駄目だって」

「そこはほら、ピカチュウに行って貰うとかさ」

「その発想は無かった」


無かったけど、きっとこの先にもポケモンが必要な謎解きとかあるだろうし、どの道ピカチュウだけじゃ詰みそうな気がする。
ってかセンサーとかカメラとかで監視してるんじゃないかな、不正やいたずら防止の為とかでさ。
ここまで来て失格やリタイアは勿体ない。


「ちょっとコノハ、何か考えてるけどまさか本当にボクを一人で行かせないよね?」

「ないない、勿論ピカチュウと一緒に行くよ」

「ってな訳でロイ残念でしたー、またの機会に! 来ないだろうけど!」


んべ、と舌を出したピカチュウに笑いながらロイが頬をつつこうとして、やっぱりかわされてしまう。
そんなこんなで一人ずつに分かれ、それぞれ通路を先に進んで行く。
途中にポケモンバトルや謎解きがあったけれど、ピカチュウの協力もあってさくさくとクリアした。
……後で反則扱いされなきゃいいなー、係員さんはピカチュウを人工ペットだと思ってて、こんな流暢に喋ったり考えたりするとは思ってなかっただろうし。

やがて先に扉を見付け出口だーと駆け寄ると、その近くに大きな扉を見付けた。
駆け寄ったのは一人が通れるくらいの普通の扉、そこから3mくらい離れた所に、壁に切れ目が入ったような形で両開きの扉がある。
その扉には、電気タイプを象徴する〇に雷印の大きなマーク。
ノブや取っ手などが無いから扉だと判別し難いけど、多分扉だと思う。


「あれ……? ピカチュウ、いま私の手持ちに電気タイプ居ないよね」

「居ないね。設定ミスか、それとも電気タイプを持ってたら通れるみたいな隠しイベントかな?」

「ひゃー、手持ちに合わせて仕掛けが変わるならそういうのヤメてよ、気になっちゃうじゃんかー!」

「そこでボクの出番だね。ちょっと攻撃してみる」


ピカチュウが私の頭からヒョイと降りて、扉に近付きつつ電気ショック。
バリッ、と迸った青白い光に少し目を閉じ、開けた時には扉も開いて……ない。


「あれ、開かない。足りなかったのかな」

「じゃあ10万ボルトで!」


ピカチュウはもう少し近寄って体を丸めるように縮こまり、バチバチと電気を溜める。
再び体を伸ばした瞬間、頬袋からさっきより強い電気が放出され、やや暗めの場所では目を開けていられないような閃光が放たれた。
……確かに全部直撃したのに、それでもまだビクともしない大扉。
あの電気タイプマーク、ひょっとしてフェイクなんじゃないだろうか。


「……いーい度胸してるじゃないの。たかが扉ごときが、まさかこのボクに最後の切り札を出させるなんてねぇ……」

「ちょ、ピカチュウ君あなたアイドルなんだから青筋控えて! ってか最後の切り札ってまさか」

「ボル……、テッ……、カァアァアァァァァァ!!」


またピカチュウの体から閃光が迸り、今度はその光は離れず纏わり付いたまま。
一旦扉から離れ、そのままUターンして猛スピードで体当たりをかました。
部屋が揺らぐ程の衝撃、雷が落ちたような轟音。
思わず目と耳を塞ぎ、数秒して静まってから再び目を開けると、ついに扉が開いてない。

……開いてない。


「な……あ……あ……」


絶句するピカチュウ。
だよね、絶句するよね普通。最後の切り札無効とかチートかよこの扉。

と、次の瞬間。
ゴゴ……と重い音がして、土煙を上げながら大きな扉がゆっくり開いた。
思わず警戒して飛び退るけど、扉が完全に開くと成功した事に実感が湧いたのかピカチュウが飛び込んで来る。


「やったー! ねね、これ絶対隠しイベントだよ。行ってみようよコノハ!」

「う、うーん。折角開いたんだし行ってみたいけど、何か暗くて……恐い」

「んじゃあボクが先行するから、ほら早く早く!」


私の腕から飛び下り、扉の方へ駆け出すピカチュウ。
慌てて後を追うと、扉の先は階段になっていて奈落へ続くみたいに暗闇へと延びていた。
思わず後込みしたけど、ピカチュウがさっさと先に行ってしまったので半ばヤケになって段差を降りる。
ポケモンを出そうかと思っていたら割とすぐに暗闇が切れ、壁には篝火。
ひんやりとした壁は私の足音を反響させながら吸い込んで行く。

結構な段数を下った先にはまた大きな扉。
力は必要だったけれど今度は割とすんなり開いて、ピカチュウに先行して貰いながら足を踏み入れた。
中は意外に暗くない。
煌々と篝火が灯り奥には祭壇、祭壇の中央には棺があって、色とりどりな沢山の花に囲まれている。


「な、何これ……! どうしてこんなに花が……」

「……まさか、これ」


ピカチュウが呟き、棺の方へ駆け出した。
私も後へ付いて行くと、彼は棺の蓋や祭壇の壁を見つめて何か考えている様子。
一緒に見てみると棺と壁には同じ模様が彫られてる。
羽の生えた女神様みたいな女の人が水の入った球体を抱き抱え、その周りを沢山の植物が囲んでた。
……っていうか、私的には棺が気になるんだけど。


「ピ、ピカチュウ。これ、まさか中からゾンビ……」

「ここポケモンのテーマパークだよ。出て来るとしても精々ゴーストタイプのポケモンじゃない?」

「だ、だよね! この棺あれだ、多分デスカーンだ!」

「デスカーンと形も模様も全然違うじゃん。……ねぇコノハ、開けてみて」

「え、えっ?」

「ボクじゃ重くて開けきれないんだ。万一を考えて、ボクがすぐ攻撃できるように構えておくからさ」

「うう……」


いくらポケモンでも、いきなり飛び出て来られたらビビる……。
でもリーデッドとかスタルフォスなんかが出て来る訳ないよね、ここポケモンのテーマパークだし!
ヨノワールとかゲンガーだったらいいな!
ムウマージやシャンデラとかも好きだよ!

自分を勇気付けつつ、ピカチュウが私の頭に乗って電気を頬袋に溜め始めたのを確認し、棺に手を掛けた。
割と重かったけど、えい、と力を込めて勢いよく蓋を開け反対側へ落とす。

瞬間、何かが飛び出た。
咄嗟に飛び退ってモンスターボールを手にし、ピカチュウは私の頭から飛び下りて臨戦態勢。
……けど飛び出た何かの姿を確認した瞬間、私もピカチュウも戦意を失った。


「え、あれ……ルカリオじゃんか。何で棺の中から出て来てんの?」


ルカリオは何故か目を瞑り、頭が覚醒していないらしくかぶりを振っていた。
けど私が喋った瞬間ハッとしたように顔をこちらへ向け、目は瞑ったまま飛ぶように跳ねてこちらへ来た。
波動の力で目を瞑っていても障害物や生き物の存在が分かる彼は、思わず一歩引いた私に構う事なく跪き、私の片手を取ると騎士が女主人に対して行うような礼をしながら。


「主様(あるじさま)、お会いしとうございました」


……なんか、よく分からない言葉を放った。




−続く−


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