8-4



「凄い偶然じゃんか。お互いにパクった訳じゃないのに、こんなヘンテコな見た目のペットが被るとか!」

「ヘンテコってロイ、ヒトを奇怪生物みたいに言わないでくれないかなあ」

「悪い悪い。でもピカチュウお前、被ってても悪い気はしてないだろ?」

「うん。それは全然」


だよね。ピカチュウも私と同じ世界から来たしゲームも知ってるみたいだから、彼を責められないよね。
まだ申し訳なさそうにしているレッドに、私は気にしてないし責める権利も無いから、と言っておく。
ピカチュウは私が作ったんじゃないからと言ったら、レッドだけでなくロイ達も初耳だと驚いた顔をしていたけど、何も訊かないでくれたから助かった。
(ロイは口を開きかけたけどリンクが止めた)

話が終わり、落ち着いたら周りの視線に気付く。
……すっごい注目されてた。
だよね、経営者の息子に頭下げられて謝罪されてたら嫌でも目立っちゃうよね!


「えっと、なんか注目されてて恥ずかしいからこの話はここでおしまい!」

「え……あああ、本当だ! すみません、迷惑ばっかり掛けちゃって」

「いーのいーの、じゃ、私達はこれで!」

「ま、待って下さい。あと一つだけ……!」


今度は何ですかァ、と言いたくなるのを堪える。
レッドは懐から一枚のカードを差し出した。
近日一般に発売される予定の物で、これ一枚で値段5000、パーク内のどんな飲食店でも使えるらしい。
キャッシュカードみたいな厚さと大きさのカードには、ミュウツーとミュウのイラストが描かれている。
おお、かっこいい。コレクションにも良さそう。


「これ、貰っちゃってもいいの?」

「はい。迷惑かけちゃったんで」

「気にしなくていいのに。でも格好良いカードだし、くれるんなら貰うよ!」


有難く受け取り、尚も頭を下げるレッドに手を振って別れた。
ラッキー、一時はまた妙な事に巻き込まれるのかと心配したけど、何も無かったし良い物貰ったし!
うきうきでカードをバッグの外側ポケットに入れ、話も終わったし次に行こうとロイ達を促す。


「次はどこに行く? ぶらぶら歩き回っても良いし、また何かに乗っても良いし」

「次はマルスの希望を聞こう。行きたい所ある?」

「え、あ、僕ですか」


リンクに急に話題を振られて、マルスが少し吃る。
私は市民証を彼に見せ、ダウンロードしたマップを一緒に眺めて候補を絞った。
うひゃ、ちょっと近い。

なんて考えてたら頭上のピカチュウに、軽く頭を小突かれてしまう。
ちくしょう何なんだ、どうしてこうも私の考えが分かるんだ、どうしてたった3ヶ月くらいで長年付き合ったみたいに私の事が分かるんだよピカチュウ君!
そんな事を考えている間にマルスは行き先を決めたらしい。


「さっきから、ポケモンっていう人工ペットが可愛すぎて……。このアトラクションで一緒に謎解き出来るらしいから行ってみたい」

「どれどれ……へー、ポケモンラビリンスねぇ。“ポケモンを捕まえてバトルや謎解きをしながら、迷宮を進みます。あなたは脱出できるでしょうか!?”面白そうじゃん、次はここにしよう!」


ポケモン実際に使えるとか堪らん楽しみー!
……ピカチュウは……そう言えばピカチュウが何か技を使ってる所なんて見た事無い気がする……。
言葉を話すポケモンなら映画やゲームで沢山いるけど、このピカチュウは妙にハイスペックだから普通のポケモンと違って見える。
アトラクションに連れて行ったら反則になるかな……?
まあ入り口で訊けばいいか。

次の目的地は少し離れた所にあるので、交通機関に乗って向かう事に。
色んな交通機関があるけど、私達が選んだのはギャロップが引く乗り合い馬車。


「おいコノハ見ろよ、あのギャロップとかいうヤツ燃えてるぞ!」

「分かってる、見えてるからあんまりハシャがないでくれませんかロイ君」


乗り合い馬車なので、私達以外にもお客が居るわけで……クスクス笑われてんじゃん恥ずかしいー!

て言うか今更なんだけど、ロイの性格が余りにゲームと違い過ぎて気になる。
たまに二次創作とかでこんな性格になってるのなら見かけるけど、原作とはかけ離れてるんだよね。


辿り着いたアトラクション・ポケモンラビリンスの建物は、予想以上の大きさ。
あれー、何この球場ドームの3倍くらいの広さと階数ありそうな大きさの建物アトラクションなの?
入り口には数十人が並んでいて、一度に入れる数が多いらしく、そこまで待たずに済みそう……って、でもアトラクションのクリア予想時間が30分〜1時間以上ってなってるじゃん!
そんなに掛かるんだったら順番なかなか来なさそう。
……とか思ってたら、入場ゲートが開いて並んでる人達がなだれ込み始めた。
早く早く、とロイに急かされ、手を引かれてゲートまで走るはめに。


「ほらコノハ、早くしないとゲート閉まる!」

「ちょ、ちょい待ち! あんまり引っ張らないでよ、危ないから!」

「ロイ、コノハが困ってるから放してやりなよ!」

「なんだよマルス、ここに来たいって言ったのお前だろ。早くしないとまた待つはめになるぞ!」


やんちゃな暴走機関車は走り出したら止まらない。
入場には間に合ったけどこれ確実に走らなくても間に合ったと思います。
あ、そうだピカチュウを入れて良いか訊かなきゃ……と思っていたら、リンクが。


「コノハ、ピカチュウも一緒に良いんだってさ。ただはぐれたり怪我したりしないよう注意してくれって」

「えっ、リンクさん訊いて下さったんですか? 有難うございます!」

「ロイのお守りで大変だろうと思って。だからロイの気が済むまでよろしく」

「あれっ」


ちょおぉぉいまさか自分が面倒になった時のお守り役を押し付ける為に親切を!?
勇者の矜恃はどうした……って別にこの人、今は勇者でも何でもなかったね……。

入り口でモンスターボールを6つと初代ポケモン図鑑の形をした機械を貰い、迷宮に足を踏み入れる。
図鑑は、ゲームで言う所の“ポケモン”の項目を見られるみたいだね。
要は姿や能力値、ステータスや覚えてる技なんかを確認できる機械なのか。
迷宮内で捕まえたポケモンにより謎解きや仕掛けが変わるんだってさ。
ハイテクだなあ、ポケモンが出る時点で地球じゃ無理だけど……残念。

狭い部屋、広い部屋、複雑な通路、そんな迷宮を、ポケモンを捕まえたり捕まえたポケモンで戦ったり、謎解きしたりしている間に、ふと疑問が浮かんだ。
それはリンクがキレイハナをゲットした時。
彼は図鑑を確認しながら、ふと呟くように言った。


「あのさ、これ……。このキレイハナってポケモン、花を付けてるのか?」

「そうみたいですね。それがどうかしました?」

「いや、何か。初めて見たなあとか思って」

「……」


あれ? そう言えば。
このグランドホープには植物が基本的に存在しない。
けどレッドは当たり前に草ポケモンを作り、フシギソウを連れ歩いてる。
調べれば分かりはするだろうけど、少年がわざわざモチーフにするかなあ?

……これはもしかして。もしかしちゃうのか?
私が一人で考えて込んでいると、マルスが感心したように。


「凄いね、まだ小学生か中学生辺りだろうに勉強熱心なんだ、あのレッド君。ロイも見習ったら?」

「えー、めんどい。第一植物の事なんか勉強したって何になるんだよ。植物が当たり前にあったっていう他所のポリスから来たコノハは羨ましいけど」


……ロイ、勉強嫌いなのか。
勉強大好きな学生の方が珍しいだろうけどね。
しかし、私が別のポリスから来たって事、いつか深く突っ込まれたらヤバイ。
その話題になったら何とか話を逸らせるよう気を付けておかないと。


  


RETURN


- ナノ -