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うぐっ! マルスと違い、完全に天然の気遣い。これはこれでイイ!
並んだ先の入り口が別になっていたので、ロイと分かれリンクとラティアスコースターの方へ。
何かレールの下が水路になってる。水の都の映画思い出しちゃった。
ラティアスなカラーリングの車体はめっちゃ可愛い。
リンクと並んで乗ると、何だかデートみたいで思わず顔がニヤつきそうに。


「コノハ、ニコニコしてるけどそんなにジェットコースター好きなのか?」

「ぶっ!?」


ニヤつきそうに、じゃない、ニヤついてたみたい……。
やっぱ顔に出やすいんだな私、この場にピカチュウが居なくて良かった。絶対にからかわれてたよ。


「んー、まあまあかな。あんまり怖いのは無理」

「じゃあ何をニヤついてたんだ? 俺とデートする所でも妄想してた?」

「ぶふぉぁ!」


何なの!? 何なの!?
何故そう私の考えてる事が分かるの!? やっぱり顔に出ちゃってんの!?
リンクは冗談で言ってるんだろうけど、その破壊力を理解してないみたいだね。
その笑顔で言われたら大抵の女は意識するよ、うん。

なんて会話している間にベルが鳴り、発進する。
行ってらっしゃーいなんて言いながら手を振る、係員のお姉さんとラティアス……ラティアス!?

ラティアスが居るよ今気付いたやっべぇ!
しかも付いて来る。一緒にジェットコースター楽しめますよ的なサービスかい、なんて素敵な!
きっとロイの方にはラティオスが一緒に違いない。
これは両方乗りたく……

あ、てっぺん。


「おっひゃあぁあぁ!!」


車体が下り始めると、もうラティアスに目をやる余裕なんて無くなってしまうのでした……ってか。


+++++++


……一方その頃。
コノハ達が戻るのを待っているマルスとピカチュウは、特に話題も無く人混みをぼんやり眺めていた。
いや、マルスは何か話題を振ろうとしているのだが、何故かピカチュウの態度と雰囲気が突っ慳貪に思え、躊躇してしまっている。
しかし黙って待つのも暇なので、思い切って声を掛けてみる。
何でもない世間話には応じてくれなさそうなので、核心へ触れる事に。


「あのさピカチュウ、キミ僕の事を嫌ってないか?」

「うん」

「あ、あっさりだね……。何かキミに悪い事した?」

「ボクにじゃない、コノハにだよ。心当たりあるよね?」

「……あー。あれは、悪かったと思ってるよ」


以前、絡まれていた少年を見捨てたコノハに厳しい言葉を掛けたマルス。
あれはほぼ正論だが、見ず知らずのコノハに対して言い方がキツ過ぎた。
コノハもコノハで、売り言葉に買い言葉とはいえマルスに対して暴言。
二人は反省し、昨日晴れて仲直りが叶った訳だが。
ピカチュウはマルスを許し切ってはいないらしい。


「コノハが大切なんだね」

「かけがえ無い友達だから」

「……ピカチュウ、キミは本当に人工ペットなのか? 喋る調整自体が困難で希少だし、それを引いても飼い主を友達だと表現する人工ペットなんて初めて見た」

「…………」


ピカチュウは何も言わない。肯定も否定もしない。
自分の正体を言ったとして信じて貰えないだろうし、そもそも彼にとっては意味不明もいいところだろう。
ピカチュウにとってコノハはかけがえ無い大切な友達で、彼女を害する者は絶対に許さない。
そんな確固とした信念を話せただけで充分だ。牽制にはこのくらいで丁度良い。

……しかし。


「マルス、キミのあの言葉は正論だと思うし、コノハを心配して言ってくれたって事は分かってる。けどフェミニストみたいなキミがどうして、女の子に対してあんなキツい言い方したの? それがどうしても不思議なんだけど」

「僕も自分で驚いたよ。本当、どうしてあんな言い方してしまったんだろう」


マルス自身も理由が分からない、あのキツい言動。
誰かを見捨てた事が原因で、後々コノハに後悔して欲しくないから……。
初対面、しかもはっきり対面した訳ではない通りすがりレベルの相手に、何故そんな感情が湧いたのか。
ピカチュウに問われても、マルス自身が知りたい事なので答えようが無い。

それ以上は会話も無く、コノハ達はどの辺に乗っているだろうかとぼんやり考えながら、悲鳴を引き連れて動くジェットコースターを見ていた二人。
車体が乗り場に戻って来たのを見てから少し後、座っていたベンチの背後、大通りから歓声が。
何事かと振り返ると、そこにはテーマパークコンセプトの人工ペットを連れた……、コノハが居たら、内心騒いでいたであろう人物。

ポケモントレーナーだ。お馴染みのゼニガメ、フシギソウ、リザードンを連れた彼は、この世界ではこんな巨大テーマパークを運営する大企業の御曹子。
周りを取り巻く人々に笑顔を振り撒きつつ、ふと、彼の視線がマルス達を捉えた。
途端にひきつる彼の顔。
ピカチュウが嫌な予感を抱いた時には遅く、一直線にこちらへ向かって来る彼。
やや早歩きで慌てた様子の彼は、何事かと怪訝な顔をしながらピカチュウを抱え、ベンチから立ち上がったマルスの前に来ると勢い良く頭を下げて……。

……頭を下げて?


「ごめんなさいっ!」


……全力で、謝罪した。


+++++++


ラティコースターから降りた私達がマルスの元へ戻ると、そこには衝撃の光景。
えーと、何ですかこれ。
何でポケモントレーナーがここに居てしかもマルスに頭下げてるんですか?
あの入り口の巨大な装飾看板からして、ポケトレは関係者だろうとは思ってたけどさあ……。


「……何これ?」

「あ、コノハ! こちらのレッド君が、ピカチュウの飼い主のキミに謝りたいみたいだけど……」


マルスに手招きをされ、内心ビビりながら近付く。
ロイとリンクは何事かと興味深そうにしながら付いて来るけど、そんな楽しいなら代わって下さい。
ポケモントレーナー……ここではレッドという名前らしい彼は、何だか恐縮しながら私を見ている。
マルスの隣に並んだ瞬間にピカチュウが私の頭に飛び移り、その衝撃にちょっと体がふらついた。


「え、っと……レッド君? 私はキミに何もされた覚えが無いんだけど、何を謝りたいのかな……?」

「その、パクるつもりなんて微塵も無かったんです。信じて貰えないかもしれないけど、本当に偶然で」

「落ち着いて。はい、深呼吸深呼吸」


テンパった様子で口が慌てている彼を落ち着かせようと、自分に合わせるよう自ら深呼吸をしてみせた。
レッドはつられて深呼吸し、周りの相棒達が心配そうに自分を見ている事に気付いて落ち着きを取り戻す。
うん、さすが“ポケモントレーナー”の名を冠するだけはあるね。
相棒の為にすぐ我を取り戻せるなんて、元々雀の涙ほどしかない私の年上としての自覚が完全に霧散した。


「改めて、オレはレッドっていいます。このテーマパークオリジナルの人工ペット……、“ポケモン”のデザインを担当しました。経営者の息子です」

「これはご丁寧にどうも、私はコノハです。で、謝りたい事って一体?」

「あなたの連れたペットの事です。実はデザインだけしか作ってないポケモンが何種類か居るんですが、実はその中の一匹が、コノハさんの連れている子と完全に同じで……。パクるつもりは全く無かったんですけど、まさかこんなにデザインが被るとは予想できませんでした」


……レッド君、これキミは全然悪くないんだよ。
この世界のポケモンはキミが作ったって事になってるなら、被るのも当たり前。
って言えるワケねえぇ……これは無難に謝罪を受けた方が良いんだろうか。

でも彼、私の方がパクったとは考えないのかな?
それを訊ねてみると、彼はポケモンの設計図を誰にも見せた事が無いらしく、実際に作っていないポケモンのデザインを自分以外が知っている筈が無いと。
話を聞いていたロイが、嬉しそうな声音で割り込む。


  


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