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「よぉコノハ遅かったな。朝から大量に食べる気なんだろ、太るぞ」

「なぁにをぉ!? 今のロイには言われたくないね、それ朝食の量じゃないって」

「オレは男だから良いんだけど、コノハは一応女なんだからさぁ」

「じゃあ女の子にそんなデリカシーの無い事を言うな」


マルスが席に座りながらロイの頭を軽く小突く。
やっぱりマルスは王子様なんだなぁ、前に私にキッツイ事を言ったのって、ついうっかりだったのかな。
他に困ってる人が居て、それを私が見捨てようとしちゃってた訳だし。
私は苦笑しながらリンクの隣に座り、ピカチュウも私の頭からテーブルに降りる。


「しっかし植物の無いグランドホープにも野菜はあるんだよね…不思議な話」

「野菜って植物なのか?」

「……」


えっと、リンクさん? 今なんと仰いました?
“野菜って植物なのか?”ってアナタちょっと……。


「……植物ですよ」

「植物って花とか木だろ、見た事は無いけど。野菜は違うと思うんだけど」

「野菜がどうやって出来てるか知ってます?」

「食物生産工場で」


あぁあぁそうだったァ!
食べ物の“一から全て”を科学薬品で作ってるんだから野菜だって作れるよね普通に考えたらさ!
食べる部分を直接作るから地球で言う所の“収穫後”の姿しか見なくて、植物だって意識が無いのかもね。

……ん?
記憶が曖昧だけど、ピーチ姫の屋敷に来たフォックスが、フルーツとかコーヒーを羨ましがってたような。
あれは薬品からでなく、ちゃんと栽培された物から作られたからなんだろうね。
そうやって故郷との違いに思いを馳せていると、マルスが感心したように話し掛けて来る。


「ロイに新しい友達は違うポリスから来たって聞いたけど、本当みたいだね。植物が普通にあるとか……」

「あるよー。あちこち植物だらけ、土の地面も普通にあるしねー」

「す、すごい……!」


うっはぁ! これちょっと気分良いんだよね!
なんか自分が特殊な人間になったみたいで高揚する!
夢小説に出るようなヒロインの特殊能力や特殊設定には遠く及ばないけど、そんなの私には分不相応だからこのくらいで丁度良い。
それにもし今の私の状況が夢小説だとすると酷いよ、怒られるわ嫌われるわで散々な目に遭ってるし。

ああもう、大した努力も無しに都合良く特殊能力とか戦闘能力とか武器とか持ってる夢ヒロインが羨ましい!
私は嫌な思いや怖い思いしても打開策なんか無いのに、不公平すぎるってば!

今の状況をぐちぐち言っても、急に私が夢ヒロインのような特殊能力や戦闘能力を持てる訳ではないので、考えるのをやめた。

朝食を食べ終わり、部屋に戻って荷物を持ってから今度はロビーに集合。
今日はテーマパークで遊ぶんだよね、わーい遊園地!


「で、で、どんな遊園地なのどこにあるのっ?」

「経営者の子供がデザインした人工ペットをモチーフにした、最近新しく出来たテーマパークなんだって。ここからなら、一番遅い列車でも20分くらいかな」

「へえぇー、じゃあピカチュウ連れて行っても浮いたりしないかな」

「ネットで調べてみたけど大丈夫だと思うよ」


正直、目にする人工ペットは地球で見掛けるような動物やそれのアレンジが多いから、ピカチュウが割と浮いてたんだよね。
子供がデザインしたなら奇抜なのも居そうだし、寧ろピカチュウはシンプルなぐらいかもしれない。
人が比較的少な目の鈍行各駅列車に乗り、20分程で目的のテーマパークへ。
出来たばかり+連休中なだけあり、入場ゲートからかなりの人だかりだったけど……。
私は、そしてピカチュウも、唖然としてゲートの装飾を見てしまっていた。


「コノハ、どうしたの? ボーッとしてるとすぐ迷子になっちゃうよ」

「あ、有難うマルス。人混みが凄くて圧倒されちゃってたみたい」


違う。私とピカチュウが唖然としていたのは、人混みのせいなんかじゃない。

……ポケモンだ。ポケモンなんだよ。
入場ゲートの上、巨大な装飾の看板にはゼニガメとフシギソウとリザードン。
私は慌てて、頭上のピカチュウに小声で話し掛けた。


「ね、ねぇ、あのメンツ……人工ペットをデザインした経営者の子供ってまさか、ポケモントレーナー?」

「だろうね。万一ボクがテーマパークの関係者に目ぇ付けられたらどうしよう」

「よくネットサーフィンしてたけど、この遊園地の事知らなかったの?」

「知ってたらコノハに言うよ……。ホントどうしよう、今更入らないなんて言えないし……」


だよねぇ、ここまで来て帰るなんて言えないし言いたくないよ私は……。
よし、行こう。嫌な事は考えず後回しにして、今を思いっ切り楽しもう。
ピカチュウも観念(?)したのか、それ以上は何も言わずに大人しくしている。
駅のように市民証を使って入場ゲートを通り、外界と遮断された別世界へ。
いや私にはこの世界自体が別世界なんだけどね。

パーク内は敷地が広いからか、入り口の混み具合に比べたらマシな歩き易さだ。
勿論人は多いんだけど、動くのも困難な程でなくそれなりには快適だったり。
ロイがはしゃぎながら、市民証にマップをダウンロード出来るみたいだって言って確認してる。
こういう時ロイってすぐ行動してくれるんだよね。何か意外な頼もしさだ。


「よーっし、どっから回る? オレ絶叫マシン乗りたいんだけど!」

「……僕はパス」

「へー、マルス絶叫マシン苦手なんだー。まあ私も得意って訳じゃないけど」

「昼飯は時間ずらした方が良いよな。遅めか早めかだけ先に決めとくか」


計画立てるだけでワクワクするね、楽しい!
私も市民証に地図をダウンロードして、辺りと合わせて確認してみる。
ポケモンをモチーフにしたアトラクションが沢山で、これはぜひ地球にも欲しい。
確か期間限定でポケモンの遊園地はあったけど、こんな大掛かりじゃなかったはずだもんね。

架空の街並みを作り上げているメインストリートを歩いていると、手品師と一緒にマジックショーをしているエスパーポケモンや、ワゴンで客引きをしている可愛い系のポケモンなど、歩き回るだけでも楽しい。
みんな人工ペットなのかな、全種類作ってるなら凄いなあ……。

暫く歩いた先、ロイがお目当てのアトラクションを見付けて嬉しそうに駆け寄る。
あ、ラティオスとラティアスをモチーフにしたジェットコースターなんだ。
車体もコースも2つあって、寄り添ったり離れたりしながら波打つレールは回転こそ無いけど結構ハードそう。


「あったあったこれこれ、ラティコースター! これ乗ろうぜ!」

「だから嫌だってば、待ってるからロイ達だけで乗って来なよ」

「一応中級者向けだよ、これ。向こうのレックウザって名前のコースターが上級者向けみたいだし」

「中級だろうが無理だって言ってるのに……コノハやリンクさんからも言ってよ、僕には無理だって」

「ロイ、嫌がる人を無理やり乗せちゃ駄目だよ。待ってて貰おう」

「むー……」


まあ待ってて貰うのも何か申し訳ないから、誘いたくなる気持ちも分かるんだけどね。
絶叫マシンとか嫌がってる人に無理強いは駄目でしょう。

ピカチュウは乗れないので、話し相手にでもしてて、とマルスに預け、私はロイ&リンクと乗り場へ。
人が多いから30分待ちぐらいは必須かと思ってたら、何とタイミングが良くて、調整から復帰した直後みたい。
調整中は並んでる人も居なかったようで、走り寄る人混みに負けはしたけど、それでも待つのは1回分だけで良さそうだ。


「ラッキー! 最初からこれって幸先良いね!」

「だな。ところで2つ乗り場があるけど、ロイとコノハはどっちに乗るんだ?」

「オレはラティオス! スピードが速い方!」

「ラティアスは……高くまで上がるのか。じゃあ私はラティアスにしよっと」

「んじゃ、女の子一人にするのも何だから、俺もコノハと一緒にラティアスの方に乗るよ」


  


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