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「知り合いなら話が早いや。コノハ、マルスの両親が宿泊券くれたんだ」

「いや、あの、まあ、名前は知らなかったけど」

「ん? 知り合いじゃなくて見た事あるだけか。マルス、こいつはコノハってんだ。前に市民証で話した新しい友達だよ。で、コノハ。こいつはマルスっていって、オレの親戚だよ。宿泊券くれたのはこいつの両親」

「……ア、アリガトウゴザイマス」

「どういたしまして……」


こんなに気まずい雰囲気を出してたら、さすがにロイ達も何か言うだろ……。
その通り、ロイとリンクは何か言いたげにしていたけど、ピカチュウが早くチェックインしようよと助け船を出してくれた。
まだ朝の9時半なのに、こんな早い時間にチェックイン出来るんだろうか?
てっきり大きい荷物だけ預かってもらって、遊びに行くと思ってた。
こういうのってホテルごとに違うとは思うけど。

フロントの人がカウンターに出してくれた機械へ市民証を翳すだけで、宿泊者登録は終わり。
物足りない。けど便利。
で、機械に翳した市民証が部屋カギの役目も果たすらしい。すっげぇぇ!
本当に無くしたら大変だよ市民証。以前ピットにスられたのは自分の大きな過失でもある。

荷物はベルボーイが部屋まで運んでくれる。
うっひゃあ高級ホテルに来たって感じだ!
こんな未来都市だから何かの装置を使って一発で部屋まで荷物を運べないのかと思ったけど、魔法じゃないんだし何でもかんでも出来る訳じゃないか。
それにベルボーイは客室や非常口の説明、客の要望に合わせて色んな手配をする役目もあるし。

ロイが言うには、高級ホテルだからこそ機械ではなく人が行う持て成しに力を入れてるんだって。
やっぱりそれ大事だよね。
便利な機械が沢山あっても生活してるのは人間……フォックス達も人間か?
まあ“人”って事で。
……生活してるのは人なんだし、こういう意識があるのは嬉しい。

部屋は全員16階、最上階の二つ下にあるフロアだ。
部屋は全室オーシャンビューのようで、眺めが爽快。
うわあシングルなのに部屋もベッドも広くて綺麗!
でも一人は寂しい。ピカチュウが居るからいいけど。
マナとこういう所で一緒に泊まってみたい。
それが実現できれば良いのに、元の世界へ帰れるかどうかすら不明。
いつか帰れるかな……。

キャリーを置きショルダーバッグだけを持ってエレベーター前で集合。
うーん、当たり前だけどマルスが居て気まずい。
まだろくに会話してないし、以前の事を謝りたい。


「さて、まずはどこに行こうか。リンクはランドマークタワーとメモリアルミュージアムに行って、後はブラブラするって言ってたけど。マルスとコノハは何か希望あるか?」

「僕もそれで良いよ。久しく行ってないし」

「私は分かんないのでお任せコースで。ピカチュウは何か希望ある?」

「うーん、ボクも初めてだからここは経験者にお任せするよ」

「じゃあ決定な。まずは近場のランドマークタワーに行くか」


折角だし歩こうという事になり、ホテルから徒歩20分程の海辺、小高い丘になっている場所にランドマークタワーはあった。と言うか見えてた。
真っ白な石畳が敷き詰められた上、スマートに佇む塔はかなり高い。
入り口にある案内のパネルには全体の高さが650m、第一展望台の高さが630mと書かれてあり、登れば爽快な景色が望めそう。


「うわー高っ! 早く展望台登りたい!」

「海浜タワーとしてはグランドホープで1番じゃないかな。いや、他所のポリスと比べても1番かも。あと第一展望台には縁結びの泉があるから、何か小さい私物でも入れてみろよ」

「へっ? またまたリンクさん、私が恋してるように見えます?」

「今してなくても出会いを願うとかさ。コノハはそういう話題嫌いか?」

「誰かがしてるのを聞くのは好きですけど、自分の事はちょっと、照れ臭くて」

「ウブだなー」


違う違う、断じてウブとかじゃなくて今までがモテなさ過ぎて今更なだけ!
友人には恵まれたけど恋には恵まれなかったよ!
私の苦笑が照れ笑いに見えたのか、リンクの中で私のイメージがウブで固まってしまったような気がする。
ぎゃー違う違う恥ずかしいそんなんじゃないってば!

声に出して否定しようにも必死になるような事柄じゃないような気がして、恥ずかしさで顔が熱い。
で、またそれを誤解される悪循環マジやめて私本当にそんなキャラじゃない。
私がぐるぐる悩んでいると、ピカチュウがからかうような声音で口を挟む。


「コノハ、リンクに言えば良かったのに。リンクさんが運命ですって」

「だあぁっ、ちょ、バカ聞こえるからやめて! 私はそれを言って良い顔じゃない!」

「せっかく異世界トリップなんて夢小説みたいな体験してるんだから、恋愛モードになってみなよ〜」

「無茶言うなあんなイケメン達を前にして恋愛モードになったら心臓が持ちませんわ! 友情モードが限界だしマルスに至っては友情さえまだまだだ!」


出来るだけ小声で話し、エレベーターに乗る事になったから会話を終わらせる。
もし恋愛できるならしたいけど、私じゃ頑張っても友情止まりでしょう。
憧れのキャラと関われるなら友情でも有り難いし、正直危なくなったら逃げる気満々な私だから、本当は友情すら危ういよ。

エレベーターが第一展望台に辿り着き、扉が開くとそんな悩みが吹き飛ぶ程の景色が飛び込んで来た。
正面は爽やかな水平線、裏側に回ればイーストエリアの街並みが眼下に広がる。
自分のアパートなんかよりずっと、遥かに高い。

凄い、見に来て良かった!
受かれて展望台をぐるぐる回りつつ海や街の景色を楽しむと、ロイやリンクが傍に居ない状況でマルスとばったり会ってしまった。
お互いが、あ、みたいな態度でそそくさと離れようとしたけど、このままじゃ駄目だと思って引き止めてみる。


「あ、あの。待って下さいマルス君」

「えっ」

「何と言うか、その、この前会った時は本当にごめんなさい! 偽善者なんて酷いこと言っちゃって……。逆ギレとか最低ですよね」


言えた、謝れた。
これでマルスがどんな反応をしても、謝った事への後悔はしないようにしよう。
また出会えるかどうかすら分からなかったのに、こうして謝るチャンスが来てくれたんだし。
怖くて少しの間頭を下げたままだったけど、ちらりと視線を上げると戸惑ったマルスの姿があった。


「ああ、その……。あれは僕も言い過ぎたよ、初対面の女の子にさ」

「いえ、あれはマルス君が正しかったじゃないですか。それに私を心配してくれたんでしょ?」

「だけどもっと別の言い方もあったのに、あんなキツい言い方して。あれじゃ言われた方は反発したくもなるよ、本当にすまない」

「……じゃあ、お互い様って事で。これから友達になりませんか?」


私から言うのは図々しいかなと思ったけど、恐らくマルスなら気にしないでくれると思う。
逆に、悪いと思ってくれているマルスの気持ちを和らげられるんじゃないかな。
マルスは戸惑いの表情を穏やかな笑みに変え、私に手を差し出した。


「コノハ、だよね。僕は17歳なんだけどキミは?」

「あ、同い年です」

「じゃあ敬語は無しにしよう。呼び捨てでも良いよ。こちらこそ宜しく、コノハ」

「はい……じゃない、うん。宜しくねマルス」


握手を交わす。
周りの人から少し注目されて気恥ずかしいはずなのに、マルスと和解できた嬉しさが勝ったためか、そんなに気にならなかった。




−続く−


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