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構わず、元いた世界には緑なんてあちこちに存在していた事、その代わりこの世界ほど文明が発達していない事などを話してみる。
些細な話も懸命に聞いてくれてかなり気分が良い。
年長組は信じてないみたいだけど、嘘なんて全く吐いてないから気にしない。
話し終え、もっと話して欲しいとせがむ年少組だけど、その前にピット君が鬱陶しそうに割り込んだ。


「はいはい、子供だましの嘘ご苦労様。そんな下らない夢なんか見てるから、お人好しな馬鹿に成長したんじゃないの? 見ず知らずな奴の代わりに金を払うなんて信じられない馬鹿に」

「え、マジで!? お姉さんいくら何でも頭悪すぎ、相当におめでたいね!」


ピット君は心底嫌そうな顔で、ネスはおかしさを堪えきれないように吹き出して私を馬鹿にする。
うん、ぶっちゃけ自分でも思うんだよ、馬鹿だって。
君子危うきに近寄らずの誓いを忘れ、しかも他の人だったら絶対助けない癖に、知っているキャラだったからって理由で代わりに代金を払い、そしてその子に市民証をパクられた。
端から見れば温室でぬくぬく育った世間知らずの頭パー人間だろうね。

……だけどさ。


「恩仇状態のキミには言われたくないなあ……」

「オンアダ?」

「“恩を仇で返す”の略」

「はっ、それこそ知らないよ、僕は頼んでないし。完全に恩の押し売りでしょ」

「第一、市民証が無いと建物に触れるだけで通報される街なのに、どうやって店に入ったの」

「あのねー、にいちゃん達はねー」

「言うなバカッ!」


年少ちゃんが言おうとした事を慌てて遮るピット。
市民証も無いのに通報されない秘密があるのか。
少なくともこの辺の建物は朽ちてるから通報なんてされないんだろうな。

まあいいや、恩の押し売りなのは確かだし、ピットから頼まれてないのに勝手に助けたのは事実だし。
でも散々暴言を吐かれてさすがにムカッと来たから、何か言ってやりたい。
何か無いかなーと思ったら、一つだけ思い付く。
ピットやネスと違い純粋らしい年少組を利用させて貰おうフッフッフ。


「よーし、ピット君やネス君と違う素直なちびっ子達に良い事を教えよう」

「なになにー!?」

「実はピット君は皆に幸せを運ぶ天使でね、ネス君とリュカ君は世界を救う超能力者なんだよ」


言った瞬間、ピットとネスとリュカがむせた。
何バカなこと言ってんの、と声を荒げるけど、目を輝かせた年少組にすごーいと纏わり付かれて、それどころじゃないみたい。


「ちょっとお姉さん勝手なこと言わないでよ! 超能力者なんて有り得ない!」

「ネスやリュカの超能力者なんてマシじゃないか、僕なんか天使って……頭おかしいんじゃないの!?」

「いいや、私には分かる! ピット君は天使、ネス君とリュカ君は超能力者!」

「確かに……ボクはともかく、ピットとネスが来てからみんな明るくなったよ。ピットは幸せを運ぶ天使で、ネスはボク達の世界を救ってくれた救世主だよ」


リュカがふにゃりと微笑み、控え目に言うから。
年少組は益々目をキラキラさせてピット達を誉め、ピット達は口をもごもごさせて黙ってしまった。
おお、生意気だけどこういう所は可愛いじゃん!
この世界の彼らは中2か中3ぐらいだろうな、大人になろうとしているけど、まだまだ子供らしい年齢だ。
って、私もまだ17歳だから子供なんだけどね。そんな私から見ても子供っぽくて可愛らしいや。
そう思っていると、ピットが隙を見て悪態。


「信じられない、本当に頭ん中お花畑なんだね、偽善者で頭パーとか最悪!」

「おーおー私は偽善者だしキミ達に同情してるお花畑な頭パー人間だよ、だけどそれがどうした! やらない善よりやる偽善だこのヤロー!」


もういい開き直ってやる!
私は偽善者です、しかも身寄りが無いらしいピット君達に同情してます!
知り合いでもない赤の他人に奢って大事な市民証をパクられたお花畑人間です!


「善行なんて自己満足なんだからキミ達がいらなくても私が満足すればOK!」

「おねえちゃん良い人!」

「はっはっは、別にそうでもないよ割とマジで。ちなみに私はコノハだよ」

「コノハねえちゃん!」

「おおう可愛いねー」


年少組がきゃあきゃあ楽しそうなものだから当てられたのか、ピットとネスは盛大な溜め息を吐いて諦めた……っぽい。
リュカも存在に気付いた時のような困り顔じゃなく柔らかな笑みを見せていて、何だかホッとした。
ピットは相変わらず冷めた目付きで見て来るけど、何かもういいや。気にしないようにすれば構わない。


「僕ね、お姉さんみたいな温室でぬくぬく育った馬鹿が大っ嫌いなんだ。お花畑過ぎて見てると苛々する」

「僕もー」

「そうかいピット君ネス君、でも私はキミ達が好きだよ」

「気持ち悪い」


うぐ……美少年から言われるのはちと辛い。
だけど年少組は慕ってくれるから気にしない!
ピットとネスは放っておいて、年少組と戯れる。
するとリュカが控え目に近付いて来て……。


「ねぇ、コノハさん」

「なに?」

「さっきコノハさん、ボクの事も世界を救う超能力者だって言ったよね。……ボクも、なれるかな。みんなを救えるかな」


……この世界のリュカも、控え目で自分に自信が持てない性格なんだな。
どう言うべきか迷った。
なれるよ、なんて言うのは無責任な気がしたから。

だけどリュカを見る年少組の視線に気付いた。
……ああ、なんだ。


「もう、なってるよ」

「え……?」

「リュカ君はもう、皆の世界を救った救世主だよ。そうだよね、皆?」

「うん、リュカにいちゃんも頼りになるって、おれたち言ってなかったっけ?」

「リュカにいちゃん、凄く優しいもん。大好き!」


唖然としたリュカの顔が、とても愛しく思える。
身を寄せ合って生きているだろう彼らにとって、余計なものを持つ余裕は少ない。
ここに居る、それだけで大切な存在のはずだから。
それを告げるとリュカは先程よりずっと顔を綻ばせ、心底嬉しそう。
代わりにピットとネスが面食らったような顔をしてたけど、見ない振りをした。


++++++


やがて日が傾きかけ、私は帰る事にした。
年少組が名残惜しそうなのを見て、うんざりした顔のピットに話し掛ける。


「また来ていい?」

「僕は嫌だけど、皆が来て欲しそうだから良いよ。……ただし、もし僕達の事がシェリフはじめ政府側にバレたり、この場所が誰かにバレたりして、皆に何かあったら……」

「あったら?」

「どこまでも追い掛けて、絶対に殺す。許さない」

「大切なんだね」

「当たり前。家族だよ」


相変わらずピットは憎々しげな顔、ネスは憎くはなさそうだけど完全に私を馬鹿にしているっぽい。
うん、いいんだ。二人は皆を守る責任があるから、容易に信用できないんだね。
また来てねー、さよならー、と言い手を振るリュカや年少組に返事をして、手を振り返してビルを去る。
人一人通るのがやっとの脇道を抜けた時に違和感を覚えて振り返ると、何と、脇道が消えていた。


「あ、あれ……」


何この神隠し現象。
ひょっとして、これであの場所が見付かってないの?
案外ガチで、ネスやリュカが原作通りの超能力少年なのかもしれない。

夢だったのかもしれないと思いつつ、また来るって約束したもんなと反芻して、私は帰路に就いた。




−続く−


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