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「……もう5000年は軽く経ってるかな。この国……いや、この世界は自然豊かな場所だったんだ。でもある時、それをよしとしない男が現れた」


フォックス達の話を要約すると、こうだ。

男は、人類が繁栄する為に動植物は不要と考え、世界中の木々などを伐採し始めたらしい。
男は科学の力によって生活を成り立たせ、まずは自然災害に悩まされていた地域の人々を取り込む。
そうして力を付けていった男は武力を振るい、男の思想に同意しない者達までも支配し始めた。
やがて国を作るに至った男は、動植物の力によって発展していた国を最大の害と見なして侵略し始めたらしい。
そして侵略を受けたその国があった場所は、まさにここ、グランドホープがある場所だそう。


「……それって、結局その国は滅ぼされて、こんな自然の植物や動物の居ない土地にされちゃったって事なんですか?」

「ああ。この国どころか世界中から動植物を奪ったんだよ、その男は。それにこの国はもっと広かったんだけど、管理しやすいように、そして動植物が繁栄する地を無くす為に人為的に小さくしたらしいな」

「……どうして、あなた達がそんな事を知っているんです」


5000年も前にあったらしい出来事を、何故そんな確証たっぷりに、まるで見たように話せるのか。
私が彼らを疑問の目で見ている事に気付いたのか、ピーチ姫は少し迷っているようだった。
でもすぐに口を開いて……私が予想だにしなかった答えを発する。


「……私達が、当時に生きていたからよ」

「……え?」

「私達は国が滅ぼされる前に封印されて長い時を眠り、目覚めた時に国を再興する為の活動をする事を命じられたの」


信じられないだろうけど……と沈むピーチ姫。
確かに信じられないけど、現に私の方も異世界トリップだなんて事をしているので否定が出来ない。
だって『次元も何もかも違う異世界に来ました』よりも、『同じ世界で封印されて眠り、長い時を越えて目覚めました』の方が現実味がある。


「コノハ、君は動植物を普通に受け入れた、故郷にあるとも言う。おれ達は君も、おれ達と同じく封印され、祖国復興を託された人じゃないかと思ってるんだ」

「……!?」

マリオの言葉に私は唖然としてしまった。
絶対に有り得ない、私は地球の日本で育ち、今まで生きて来たんだから。
こんなとんでもない事に巻き込まれるなんて、冗談じゃないよ……!


「そんな、違いますよ! 第一私、この街に来て二週間じゃないですか!」

「おれ達と同じく政府から逃れる為に嘘を吐いてるかと思ったんだ」

「フォックスとファルコも自然が無くなって人の中で生きて行けるよう進化した動物じゃなくて、遥か昔からずっとこんな姿なの。元々のものよ」


4人とも眠らされる前に年齢を戻され、目覚めた時は孤児として保護される事にしたらしい。
そして彼女達以外にも、同じような人がグランドホープ内に居るとか。
小さな嘘だけど、姫が市民証発行の為の生体情報登録方法を知らなかったって言ったのも嘘だって。
そしてファルコが指摘したのは、私が持っていたピカチュウのぬいぐるみ。
やっぱりピカチュウはこの世界で特別な存在らしい。


「あれはな、澄んだ森にしか生息しねえ妖精みたいなもんなんだ。国が滅びると同時に絶滅してるし、そんなぬいぐるみ持ってたら誰だって疑うだろうが」

「そんな事……言われても……」


ピーチ姫が私を引き取ってくれたのって、私がピカチュウのぬいぐるみを持っていたからなんだ。
つまり最初から反政府活動に参加させるつもりで、自然食物の生産工場に勤めさせたのも私の反応を見る為で……。

嫌だ、私は恐い事や危ない事なんて関わらずに生きるって決めたんだから。
やや独裁気味な雰囲気も漂う政府を相手にレジスタンス活動なんて出来ない、絶対に無理……!


「……お断りします」

「コノハ……!」

「お断りしますっ!」

「待って、私、あなたが女王様じゃないかと……!」


ピーチ姫の言葉に、また私は唖然とする。
彼女は私を、滅びた国の女王様に関わる者じゃないかと思ったらしい。
ピカチュウのぬいぐるみを持ち、動植物に対しての接し方もまるで……。


「違います、私、絶対に違いますっ!」

「コノハ、待って!」


私は彼らが引き止めるのも構わずに応接室を後にして、与えられた部屋に駆け戻った。


++++++


……一方、コノハが立ち去った応接室。
あそこまで拒否されては無理に引き入れる訳にはいかないと、マリオ達は諦めようとしていた。


「……私、彼女が女王様じゃないかと本当に思ったのよ。ピカチュウは王室の象徴である動物の一つだし、動植物に対しても優しく接してる……」

「ピーチさん、おれもだよ。この二週間、コノハを工場で見て……確かに女王様の面影を見た」


落ち込むピーチに同調したマリオが彼女を慰める。
だがこれで同時に、とある可能性が出てしまった。

コノハが、政府側のスパイではないかという事。
ピカチュウのぬいぐるみも動植物への対応も、ピーチ達を油断させて情報を引き出そうとする罠ではないかという事。
ピーチ達が反政府活動をしている事はバレていないのだが、ひょっとしたら今回の事で……。
思えば共に反政府活動をしている仲間達は、全て封印される前に姿を確認している者達ばかり。
だがコノハは……女王の面影はあるものの、封印の際には居なかった。

ファルコがぽつりと、顔を俯けたまま言う。


「……始末するか?」

「……コノハを?」

「何にしてもレジスタンスに参加する気は無さそうだし、スパイの可能性もある訳だろ。スパイじゃないとしても、この先、俺達の事を政府に話さないとも限らねえぞ」


確かにそうだ、コノハに話してしまった以上、彼女が生きていると不都合が山のようにある。
ピーチはコノハを女王だと思い込み、引き入れようとした自分を内心で責めた。
自分がそんな勘違いをしなければこんな事にならなかったのに。
ピーチはこの二週間でコノハの事を妹のように思うようになっていた。
それなのに今は、生きていられると困る存在になってしまったのだ。


「コノハを殺さないで、お願い。せめてこれからの行動を知られないように私達から離すから」

「だがピーチ……」

「お願い! 責任は全部、私が取るわ。コノハを殺さないで……!」


ピーチの涙ながらの訴えに、ファルコ達は渋々ながらも了承したようだ。
ピーチは独りぼっちらしいコノハを追い出さなければならない事実に、ただ涙し、内心で謝罪し続けていた。


  


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