3-2
グランドホープから出るには高速列車か飛行機しか手段が無いらしい。
列車は線路が決まってるからいいけど、問題は飛行機の方だとか。
自由に動ける飛行機には政府によって規定のルートが定められていて、そこから離れた所を航行すると大破してしまうらしい。
原因は不明で、計器が異常になってしまう場所がある可能性が高いと政府は発表してるそう。
って普通に怖いんですけど。だって普通に飛んでた飛行機がいきなりぶっ壊れちゃう訳だよね!?
何その怪現象、地球ならアン○リーバ○ーとかで取り上げられてもおかしくない……って言うか、世界的に大問題になるレベルだと思うよ!?
「そう言えばピーチさん、フォックスさんやファルコさんはパイロットなんでしたよね!? まさか彼らが事故に遭ったとか、そんな事は……」
「え? ああ、心配しなくても大丈夫よコノハ、彼らはそんなヘマなんてやらないわ。政府の恐ろしさは身に沁みて知ってるもの」
「あ、そうですかー、それなら安心……」
…………あれ?
“政府の恐ろしさは身に沁みて知ってる”?
飛行機は原因不明の事故で大破しちゃったんだよね?
なのにピーチ姫の言い方って何だか、事故が政府の陰謀だって言ってるように聞こえるんだけど。
やだ何これ怖い、私、今聞いちゃいけない事聞いちゃった気がする!
やめればいいのに、私は恐怖の中にある好奇心を無視できなかった。
聞き流すべきだった今の言葉に、つい反応してしまう。
「まさかピーチさん、飛行機事故は政府の陰謀とか……思ってたり……?」
「……政府が決めた規定のルートを外れると起きる事故……。一部の人は、政府が行かせない場所に何かがあるのではないかと疑っているのよ」
「そこに近付く者を政府が攻撃してるとか?」
「可能性はあるわ。政府が行かせない場所に何があるか調べてみようって考えて、実行する人がたまに居るの。今回の事故に遭った人も、そのクチなんじゃないかしら」
ピーチ姫が話し終わった後、しんとする室内。
列車の窓からはノースエリアの最北にある、5000mもの高さを誇る政府の中枢であるビルが見えた。
あそこからグランドホープ全体を見渡して……いや、監視してるのだろうか。
急に怖くなって来た、どこに居ても何をやっているか見られているような気がしてならない。
「そもそも、今の政府自体に疑問を持つ人は割と居るのよ。街から出るのにも厳しい審査を通らなくちゃいけないし、通っても決められたルートでしか動けないし」
だから、街の外には政府が隠している何かがあるんじゃないかと考えているそう。
街の外とは言っても周りは360℃海で水平線まで何もないから、“外”と呼べる陸地まではかなり離れてるんだけど。
小島なら点在してるけどグランドホープの管轄下だし、一般市民も行くらしいから関係ないよね。
そして私の時みたいに時折シェリフが横暴な事をするのを見かねて、政府に対抗しようとレジスタンス活動をする人まで居るんだとか。
「かなりハイテクな街ですけど、監視されてる気はしますもんね」
「コノハも分かる? 長く住んでても何も気にしない人も多いのに、二週間ぐらいで気付くなんて凄いわ。レジスタンスの素質があるのかも」
「えっ!? や、やだなあ、やめてくださいよピーチさん。私にはそんなの無理ですからっ」
確かにこの街はちょっと嫌な感じだけど、そんな危険な事なんて革命家にでも任せておけばいいよ。
無理無理無理、そんなん政府に見つかって捕まりでもしたら怖いじゃん!
ピーチ姫がレジスタンスじゃなくて良かった、もし彼女が革命家だったりしたら、絶対に流れで仲間にならないかとか誘われてたに違いない。
よし決めた。この世界で生きるに当たって革命家みたいな危険な人には近付かないようにしよう。
余計な事には首を突っ込まない、長生きの秘訣ってまさにコレだよね!
一人で決めて満足し危険には近寄らないと誓う。
君子危うきに近寄らずは生き残る鉄則だ。
やがてピーチ姫の家に帰りつき、ロボットが出してくれたお茶を飲む。
きっとこのお茶も貴重品なんだろうと、最近は口にする物の一つ一つに感謝せずにいられなかった。
「こうやって自然の食品を口に出来るって本当に幸せな事ですね、感謝しなくちゃって思いますよ」
「そう思ってくれる? 嬉しいわ、コノハが分かってくれて」
微笑むピーチ姫に微笑み返して、私は、彼女の瞳が揺らいだのをスルーした。
そのまま話し掛けて来たピーチ姫に、何の疑問も持たず返事をしてしまう。
「ねえコノハ、今夜またフォックスとファルコが来るの。そしてマリオも一緒なんだけど、大事な話があるから時間を空けておいて貰えない?」
「あ、いいですよ。どうせ用事も何も無いし」
「よかった。夕食の後……入浴とかも済ませて9時ぐらいになるかしら」
「はーい」
気軽に返事をして、何も気にしなかった私。
その後に夕食を済ませて入浴や身の回りの事も済ませ、約束の時間になった。
応接室に行くとフォックスとファルコ、マリオがやって来ていて、私が席に着くと話が始まる。
まずはマリオが一つ咳払いをして、切り出した。
「さてコノハ、工場の仕事を始めて貰ってから二週間だけど、仕事には慣れてくれたかい?」
「はい、これならやって行けそうです」
「良かった、動植物にも慣れてるみたいで、おれ達は驚いてたんだ」
「おい、前置きはいいからさっさと本題話せよ」
ファルコがマリオに話の本題を促した。
なんか以前の一件から私はファルコの事が何となく苦手になっちゃってる。
何と言うか……恐い、視線を向けるのも恐い。
マリオはファルコの言葉に続きを切り、一つ息を吐いてから突然……余りにも突然に言葉を発した。
「コノハ、おれ達レジスタンスの一員になってくれないか?」
「……」
しん、と静まり返る。
私が「え?」と、ただそれだけを発するのに結構な時間を要した。
レジスタンス?
誰が? マリオが?
と言うかピーチ姫とフォックスとファルコも、レジスタンス活動してるの?
嘘だ、こんな世界で……警察に位置する人達が平気で横暴な振る舞いをするような世界で、反政府活動なんて命知らずな事。
今日、革命家なんて危ない人達には近寄らないと決めたばかりなのに。
何て事だろう、私はこの世界に来た初日から、その渦中に居たんだ。
「混乱してるな、無理もないか。オレ達の事を順を追って話そう」
フォックスが気遣ってくれて、彼らが反政府活動をするようになったキッカケを話して貰える事に。
でもその内容は、反政府活動のキッカケと言うより……初めから定められていた事だった。
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