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ピーチ姫? の話によると、ここはグランドホープと言う名の街。
海に浮かぶ、人口約800万人の都市国家だそうだ。
丸い巨大な島の中を×マークが区切るように、東西南北4つのエリアに分けていて、更に中央にはもう1つ、丸く区切られたエリアがある。

南のサウスエリアは商業を中心とした地区。
当然他のエリアにも店は沢山あるが、他の街への出輸入品が集まる事もあり、一番の買い物区だ。

西のウエストエリアは工業を中心とした地区。
工場が沢山あり、グランドホープ内の様々な物をこの地区で作り上げている。
飛行場などもあり、一般人も集まる。

東のイーストエリアは観光業を中心とした地区。
地区の外側には巨大な砂浜があり、テーマパークなど遊ぶところも沢山、大金持ちも住んでいる。

中央のセントラルエリアは住居を中心とした地区。
住民用ビルや金持ち用の一軒家が一番多く、学校や公園なども充実している。

北のノースエリアはこの街を監理している政府が中心の地区。
重要な施設が沢山あり、地区の一番北には政府の中枢、5000mもの高さのビルが街を見下ろしている。

私が居たのはセントラルエリアで、今ノースエリアに向かっているらしい。
レコードタワーと言う、様々な申請や登録が出来る建物に向かっているとか。


「この街では、身分証明の市民証が無いと何も出来ないのよ。身体データを登録しないと、ビルや施設に触れた瞬間通報されるの」

「私、テロリストって、言われたん……ですけど」

「心配しないで、市民登録さえすればOKだから。この街は住民は勿論、旅人も旅行用パスが必要だから、パスの無い人が居ないのよ。だからパスを持っていないと不法侵入のテロリスト扱いされるけど、管理が甘いんじゃないかって叩かれる原因になるから、こうやって責任を負い身柄を引き受けて身分登録をしてくれる人が居たら、間違いだって見逃してくれるの」

「そんな適当な……」

「本当に管理が厳しいから、パスを持っていない人なんて有り得ないの。コノハは特例中の特例よ」


極端な話、幽霊のようなものなのだろうか。
公園に入った途端にサイレンが鳴るくらいだから、本当に管理が厳しいのかもしれない。
それより私はピーチ姫が言った事が気になる。
責任を負い身柄を引き受けるって……初対面なのに、一体どうして?

以前どこかのサイトで見た夢小説を思い出した。
夢小説では異世界にトリップしたヒロインは、大体キャラに親切にされるけど……そんな感じだろうか。
でも、夢小説なら親切なキャラ達に嬉しくなるけど、実際に体験すると不安と不審感が出てしまう。
どうして初対面なのに親切なのか。何かを企まれていないか、何かを要求されないか。
それに夢小説なら、必ず何かの事件や冒険が待ち受けているはず。
そんな事、私にできっこない。
私はこれからどうなるのか、何が私を待ち受けているのか、怖くてしょうがなかった。


++++++


やがて東西南北中央のエリアを隔てている壁を越え、ノースエリアに到着。
先程セントラルエリアから見えていた【とてつもない高さの何か】は、やっぱりビルだった。
政府の中枢、5000mもの高さを誇るビルが、遥か向こう……恐らく円形の島の一番北、端に建てられている。

私達が向かったのは、それより遥か手前のそこそこの高さなビル。
でもこれでも800mあるらしい……って東京タワーの2.5倍近く……。
中に入ると白が基調のすっきりしたロビーで、外から日光がガラス張りの壁を通り眩しく降り注いでいる。
でも……やっぱり私には、拭えない違和感が。
セントラルエリアの通りや公園で感じた違和感が、ここにもあった。


「コノハ、住民登録しましょう」

「あ、はい」


ピーチ姫に連れられ、受け付けを済ませてから50階へ上がった。
て言うかエレベーター、壁の中じゃなくガラス張りの筒の中を上り下りしてるんですけど……丸見え。
しかも階数の選び方は設置されたボタンを押すんじゃなくて、電子パネルに数字を入力する方式。
そう言えば800mって、一体何階あるの。
なんて考え終わる前に着いた。早っ。

通されたのは意外にも四畳半ぐらいの広さ。
白を基調とした病院のような清潔感あふれる部屋。白好きねえ。
ただ奥の壁にトンネルがあって、足元は動く歩道になっていた。
何かと思っているとピーチ姫は、じゃあね〜、と部屋から出て行ってしまう。


「え、あの、ピーチさん!」

「では、生体情報を登録しますので、入ってください」


スーツを着込んだ女性に言われ、動く歩道のトンネルに入る。
薄暗く時折ちらちらと光が入るトンネルの中はまるで、少し深めの海底に居るようだった。
本当にそれだけで、1分足らずで出口に到着する。
出口ではピーチ姫が待ってくれていて、生体情報登録は、あっけなく終了したのだった。
待合室で市民証の発行を待っている間、ピーチ姫と会話する。


「なんか生体情報の登録って、すぐ終わりましたね。もっと色々検査するのかと思いました」

「そうね、私もびっくりよ。だってこの街の人は生まれてすぐに生体情報を登録するから、記憶なんてある訳ないもの」

「あ、そうか……じゃあ私、貴重な体験したのかな」

「ふふ、そうみたいね」


イメージ通り優しそうな人。
もう私の中で、彼女はピーチ姫認定だ。
欲を言えばスーツじゃなくてお馴染みのドレス姿見たいなあ。

その後、ほんの5分足らずで市民証が完成したらしく発行所へ向かう。
好きな色を選べるみたいだから黒にした。
無難に白にしたかったけど、汚れ目立つし。
で、受け取ったんだけど……。
あの、この市民証、どこからどう見ても……。


「……折り畳み式のケータイだ。私、市民証って言うからカードみたいなの想像してたんですけど」

「便利よ、この市民証。支払いは勿論、電話やメールも出来るしネットにもアクセス出来るし、カメラは付いてるし動画や音楽だって楽しめるし」

「まさにケータイじゃないですか! おサイフ携帯!」

「その【けーたい】って良く分からないんだけど。何を携帯するの?」


…まいった。
自分が当たり前だと思っている物を、知らない人に説明するのは骨が折れる。
説明しようにも、まさにこの【市民証】と全く同じな訳だし…。
まぁまさにコレですよ、と曖昧に答えておいた。


  


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