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眼前に広がる未来都市。
行き交う人々の格好は割と普通だけど、立ち並ぶビル等の町並みが凄い。
外国の都会に行けばこんな光景はあるかもしれない。
でも見慣れないから目に眩しい。

向こうに凄いビル群があって、更に遠くにはとてつもない高さの何かがある。
遠くて分からないけど、やっぱりビルかな。
と言うか車が、車が浮いてる、タイヤが無い!
ちょっと視線を外せば都市高速の道路が……やっぱり浮かんでるし。
ただ見慣れない事は抜きにして、妙な違和感があるけれど。
そこまで考えて、座り込んでいる私を周りの人がじろじろ見ている事に気付き慌てて立ち上がった。

夢だ、夢夢夢、さっきの亜空軍も亜空間もこれもぜーーーんぶ夢っ!
もう一度寝れば元の場所に戻っているかもしれないけど、
さすがに人前でそうする勇気は無かった。
今は諦めて、どこか公園でもないか探し、あったらベンチで寝てみようと歩き出す。

鞄は落としてしまったようで、持っているのはケンジが私のお金で取ったピカチュウのぬいぐるみだけ。
携帯でもあったら良かった……ぬいぐるみじゃ役には立たない。
寂しさを紛らわそうと強く抱き締め、公園を探す。
タイヤの無い車を横目に真っ白な歩道を歩き続けても、違和感は抜けない。

やがて公園を見つけた。
舗装された真っ白な地面が眩しく、カラフルな遊具が良く映えている。
だけど私は、やっぱり妙な違和感があった。
さっきの歩道にもこの公園にも何かが足りない。
特に公園。普通ならあるべき物が無い気がするんだけど、具体的に何が足りないのかは分からない。
遊んでいる子供たちを見てホッとして、ゲートをくぐり公園に足を踏み入れた……瞬間。

けたたましい音でサイレンが鳴り響き始めた。
ぎょっとする私。
遊んでいた子供達は私以上にぎょっとして、何か叫びながら一目散に逃げて行く。

何だろう、今あの子達、
「テロリストだー!」
とか叫んだ気がするんですけど。


「動くな、シェリフだ!」

「えっ?」


振り返ると銃を構えた警察官らしい数人が居る。
慌てて両手を上げる……が、多分いまこの場所で唯一私の味方であろうピカチュウのぬいぐるみは絶対に放さない!
でもシェリフって何だろう……?
とか考えているうちに、奴らは何かをヒソヒソと話し合っていた。


「どういう事だ……この街でテロリストだなんて有り得るのか?」

「上に言ったって信じてもらえないだろう。どうせ市民証を持っていないんだから、殺したって記録はされない」

「じゃあ撃ってもいいよな、面倒になるよりは」


え? あの人達、なに物騒なこと言ってんの?
そんな事がまかり通っていいわけ!?
どこの独裁政権よ!!

まさか、まさか自分がこんな所で死ぬ事になるなんて思えなくて、
私は必死で抵抗する。ただし、頭の中だけで。
夢だ、絶対に夢なんだから撃たれたって大丈夫。
そんな事を思っても、高鳴る心臓と冷や汗は鎮められない。

万が一、夢じゃなかったら?
嫌だ……私、まだ死にたくなんかない!!

そう思っていた次の瞬間、背後から何か凄い衝撃が私を襲った。
頭がぐらりと揺らぎ、耐え切れなくなって思い切り倒れる。
薄れ行く意識の中、どこかで聞いたような声が響いた。


「連れて行け、後はこっちでどうにでもする」

「は、はいっ!」


あれ…? この声、どこかで聞いた事がある。
だけど思い出せなくて、私はそこで意識を沈めた。


++++++


それからどれくらい時間が経ったのか、目を覚ました私の視界には、真っ白な世界が広がっていた。
何だろうと思って起き上がるとそこは壁も床も天井も、全てが真っ白な部屋。
ゾッとした。
物凄く綺麗で汚れなんか無い部屋なのに、ただただ純白なだけの部屋は居るだけで気が狂ってしまいそうな気がする。
妙な緊張を感じてうずくまっていると、さっきの警察と同じ制服を着た男がやって来て部屋から出される。
連れて行かれた先、大きな扉を開けると……思わず、息を飲んだ。

前方に大きな机があって、そこに座っていたのは他の警察より立派な制服を着た男。
でも私の目を釘付けにしたのは、その側に立っている女性だった。
服装こそきっちりしたスーツだけど、長いふわふわの金髪に大きなイヤリング、何よりあの顔は……。

我らがスーパーマリオのヒロイン、ピーチ姫だ。
何だろう、あの人。そっくりさんだろうか。
まさに現実にピーチ姫が居ればあんな感じだろうという人で、可愛げのある綺麗さが目に眩しい。
立派な制服の男は一枚のディスクを手に、ピーチ姫のような顔の女性に話しかけている。


「では、手続きはこちらに記録して後ほど。市民証は確認でき次第発行いたしますので」

「えぇ、分かりました。じゃあレコードタワーに行きましょう」

「え……あ、あの……」


訳が分からない私に女性は、取り上げられていたらしいピカチュウのぬいぐるみを渡してくれた。
そのまま私の手を引き建物を後にする。
相変わらずタイヤの無い、しかしリムジンのような立派な車に乗せられ、どこかへ向かう。
車窓から見る景色は、やはりアニメの世界にあるような未来都市。
車は都市高速に乗り高い道路から街を見下ろせた。
遥か向こうには大きな壁があるけど、何かを隔てているのかな……?


「あなた、グランドホープは初めてよね? 市民証を持っていないもの」

「え? あ、えっと……」

「あらごめんなさい、私はピーチよ。あなたの名前は?」

「……コノハ、です」


ピーチという名前を聞いて遂に幻聴かと思った。
顔が似ているかと思えばこれだ。いい加減夢としか思えない。


×  


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