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「な、何だこのバケモノ!」


“これ”を見るのが初めてのリンクが声を上げる。
リンクだけじゃない、きっと私以外の全員が初めてだ。
本当ならリンクも知ってるはずなんだけど……。


「……ガノンドロフ」

「えっ? し、市長? これが?」


唖然とした様子でルフレが私の言葉に反応した。

そう、これはガノンドロフ。
正確には【魔獣ガノン】。
スマブラXやトワイライトプリンセスで見られる、4足歩行の巨大な猪のような姿。
当然、実際の猪とは程遠いけど。
こいつがグランドタワーの方から走って来たんだ、さっきまでの地響きはその足音……!

圧倒されて暫く眺めてしまっていた。
奴は辺りを見回していたけど、やがて巨大な道路を挟んだ向かいに居る私達に気付く。


「に、逃げよう!」


我に返るのも口に出すのも遅かった。
巨大な魔獣ガノンにとっては、この広大な道路も2、3回飛べば越せる距離。

自我があるのかどうかは分からない。
けれど私達を目にした瞬間こちらへ向かって来たという事は、私達を害する意思があるんだろう。
リンク達が私の前に立ち塞がり、サムスが銃を撃ちルフレとゼルダが魔法を放とうとするのに、間に合わない。

思わず目を瞑った直後に聞こえたのは、耳を劈くような轟音。
まるで雷が落ちたような……と思った瞬間、それは比喩でも何でもない事に気付いて目を開けた。
ダメージを負って怯み呻きながら止まった魔獣ガノンの前を、何か小さく黄色いものが落下している。
私はそれに気付いた瞬間、皆の制止も聞かずに飛び出した。


「ピカチュウーーーーーーッ!!」


くるくる落ちて来た彼を間一髪で受け止める。
落下による速度が加わった重さと衝撃が凄かったけれど、何とか落とさずに済んだ。
ハッとして見上げた黒い瞳と視線がぶつかる。


「あ……」

「ピカチュウ、良かった無事だね……!」


彼らにとって今の私は政府の支配下にあるアンドロイド。
それは分かっていたけど、もう我慢出来なかった。
瞬時に私の腕の中から飛び出して地面に降り、臨戦態勢を取って私を見るピカチュウ。
拒否されたも同然なのに思ったより辛くないのは、彼の顔が敵意でも憎しみでもなく、戸惑いに満ちていたからかもしれない。


「……」

「……」

「……コノハ?」

「……一応、だけどね」

「……」


少しの沈黙も、魔獣ガノンの唸り声に中断される。
後ろからやって来ていたマルスに手を引かれて庇われ、仲間達も私を庇うように立ち塞がりつつガノンから距離を取った。


「おーい、大丈夫か!」


魔獣ガノンの背後から聞こえて来たのは、我らが任天堂のスーパーヒーロー・マリオの声。
ピカチュウは私を気にして振り返りながら彼らの方へ。
彼らも私に気付いたようで。


「ねえあれ、ひょっとしてコノハじゃない!?」

「って事は政府のアンドロイド……!」


ピーチ姫とフォックスの言葉に何も反応できない。
何を言った所で疑いがあるだろうし、今はゆっくり説明して誤解を解く時間も無い。
更にルイージとピットが他の仲間達にも反応する。
やっぱり彼らもレジスタンスと一緒に居たんだ。


「待って、リンク達も一緒だ!」

「ルキナ先生まで……何でこんな所に居るの!?」


疑問を口にしても、今はそれを考えている場合じゃない事はこの場にいる全員が分かってる。
咆吼を上げたガノンが今度はレジスタンスに向かって行った。


「フォックスとファルコは距離を取れ! ピーチとルイージはレッドと共にポケモン達と行動して、他は俺に続け!」


指示を飛ばす声はアイクのもの。
一応シェリフなのにレジスタンスの陣頭指揮取ってんの? はーすごい。
戦い始めた彼らを見たロイが興奮した様子で口を開く。


「なあアレ手伝った方が良くないか!?」

「いいえ、ここは彼らに任せましょう。わたし達はコノハさんを守る事に徹底しなければ」


ゼルダ姫の返答に突然申し訳なさが込み上げてしまった。
お、おうゴメンねロイ君、英雄になる機会奪っちゃって。
一応こちらで戦えないのは私だけでなくルキナもだ。
シュルクもまだ完全には回復し切ってないみたいだし、ここはレジスタンスに任せよう。

更に距離を取り、繰り広げられる凄まじい戦いを遠くから見守る。
どこか見えない場所で戦われるより、視界に入る場所で戦われた方が蚊帳の外感が高まる気がした
もし私に特殊能力や戦闘能力があったら、今あそこでレジスタンスと共に戦っていたんだろうか。

任天堂キャラが敵と戦う姿なんてスマブラや元のゲームで散々見た。
なのに違和感や不思議な感覚を覚えるのは、既に彼らが見知った友人だからだろう。
画面越しでも紙越しでもない、同じ空間で共に生きている友人達。
決して“キャラクター”ではない、動いて喋って、自我と感情を持った“人物”達。


「(……やっぱり凄い場所に居るんだなあ、私)」


蚊帳の外なのは寂しい。
けれど、例え一緒に戦えなくても、美少女でなくても特殊能力持ちでなくても、この世界や重要な出来事に必要とされていなくても。
彼らは私を、“コノハ”を大切な友人の一人に数えてくれている。
それはとても素晴らしい奇跡。


「(……大好きだよみんな。どうか頑張って、絶対に勝って)」


祈りながら、彼らの戦いを見守っていた。




−続く−


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