22-3
光の柱に直撃されたマルス達に巡った、前世の記憶。
全てをはっきり思い出した訳ではない。
ごく一部以外は断片的で靄が掛かったように頼りなく、まるで夢のよう。
女王ヨリが誰かと言い争っている。
もう……てください! こんな酷い………いつまでも…………る訳がありません!
いい加減に……さい、他に方法………と言うの?
だけど……
下らない………に付き合っ……る暇は無いわ
待って下さ……どうか……サクヤお姉様!
「!!」
そこで光の柱が途切れ、マルス達は意識を取り戻した。
気絶していた訳ではないのに“意識を取り戻した”という表現がしっくり来る。
心配そうに見つめて来るルキナとカービィに、声を掛けてあげる事も出来ない程の衝撃。
分かってしまう。
今のは夢でも何でもない、前世にあった事なのだと。
ふと手に違和感を覚えて見下ろすと、3人とも剣を握っていた。
コノハならば易々と名の分かるその剣は、今までのマルス達なら分からなかっただろう。
しかし今ならば分かる。
『今のあなた方ならば、その剣を使いこなせる筈です。リンクさんはマスターソード、マルスさんはファルシオン、ロイさんは封印の剣』
初めて持つ筈なのに、とても良く手に馴染む剣。
使い方も、戦い方も、初めから知っていたかのように頭と体が呼応する。
これならきっとコノハの力になれる。
マルス・リンク・ロイは立ち上がる。
すぐにでもノースエリアへ向かってコノハを探し出さなければ。
「ルキナはどうする?」
「私も一緒に行きます。今の皆さんにとっては足手纏いかもしれませんが……」
「とんでもない。少なくとも僕達よりはノースエリアに詳しいだろうから、頼りにしてるよ」
「ええ、頑張ります……!」
こうしてノースエリアを目指し始めた一行。
マリオ達レジスタンスには協力しないと言ったが、結局首を突っ込む事になった。
しかし勿論これは不本意に強制された結果ではない。
マルスもリンクもロイも、自分の意思でコノハを助けたいと思った。
前世の記憶が蘇った今となっては尚更だ。
その事についてロイが。
「なあ、コノハってヨリの孫なんだろ?」
「そうみたいだね」
「……にしてはちょっと、顔がざんね痛っ!」
何を言おうとしたのか気付いて、全部を口に出す前に両側からリンクとマルスが鉄拳制裁。
「いってーな、何だよ殴る事ないだろ!」
「最低だなお前」
「最低だね」
「だ、だってヨリはあんな絶世の美女だったんだぞ! 別にコノハが不細工って訳じゃないけどさ、せめてもうちょっと受け継いで痛ぇ!」
懲りないロイにもう一度鉄拳制裁。
そのやり取りを見ていたルキナと、彼女の頭に乗っていたカービィが。
「ロイ……酷いです」
「ひっどい。コノハねえちゃんのことキライなの?」
「嫌いじゃねーよ好きだよ!」
「じゃーそんなこと言わないでよ」
「そうですよ。コノハさんが傷付いたらどうするんですか」
「……ごめん」
思った事を正直に口にしただけなのだが、正直が全て美徳とは限らない。
確かにコノハの容姿はヨリと比べるとだいぶ見劣りする。
マルスもリンクもカービィもそれを思わなかった訳ではないけれど、自分達はコノハを容姿で判断して好ましく思ったのではない。
一緒に過ごした中で築いた友情を、友人想いで強いその心を。
自分達はそれを持つコノハを好ましく思っているのだ。
「ロイだってそうだろ?」
「そりゃモチロン」
「だったらツベコベ下らない文句なんて言うなよ」
「文句なんてー……ただ思ったままの感想を」
「うっかりコノハの耳に入る前にもう一発喰らっとくか」
「すいませんでした」
今度こそ反省したようなので鉄拳制裁は終了。
マルスがヨリの容姿を思い浮かべながら。
「だけど目元とか、ちょっとしたパーツは似てるよね」
「それ思った。コノハは似合う化粧して着飾れば化けるタイプだな」
その会話にロイはコノハの着飾った姿を考える。
しかし思い浮かんだ姿がどうもしっくり来ない。
「オレはコノハにはそんなにベタベタ化粧とかして欲しくないな」
「別にベタ塗りする訳じゃないぞ。と言うかさっき顔がどうこう言ってたのに化粧は否定するのか」
「モラハラだモラハラ」
「ちーがうって!」
好き勝手な男達のやり取りに少々呆れつつも、同時に微笑ましさを感じるルキナ。
こそりと頭の上のカービィに話し掛ける。
「ロイは素直じゃないんですね。そのままのコノハさんが好きなんでしょう」
「だったらそう言えばいいのにねー」
「本当ですね」
何だかんだ彼らにとってコノハは、いざという時は助け守ってあげたい大事な友人。
かつて……前世だが……仕えていた主君の孫娘。
今度こそ守り抜く為に、ノースエリアを目指し駆けた。
−続く−
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