Gust〜突風〜


「暑い!なんでこんなに暑いんだ!!」
「それは今の気温が32℃だからね。というかごめん、ロキアの方が暑苦しい」
「…ひどくね?」

サンサンと照りつく太陽に文句をたらしながらロキアとルクナはとある研究所に向かって足を進めていた。

いまから数時間前、ギルドの新規登録を終えた二人は署長に呼ばれ一件の依頼を頼まれていた。

『町外れにある荒城に住む豺(やまいぬ)の化け物を退治しろ』

オフィスのいすにもたれながら一人の男がそう言った。その発言に怪訝そうな顔をしながらルクナは言い返した。

「…署長、豺くらいならぼく達が行かなくても大丈夫なのでは?」
『豺退治だけなら君たちには頼まないよ』
「その口振り、裏があるな」

署長と呼ばれる男の発言にイヤな感じをしたロキアが顔をしかめながら低い声で返す。 男はおやっとわざとらしく答えると今度は真剣な顔つきで二人を見返した。

『流石、勘が鋭いね。そうだ、この任務の豺退治は表向き。本来は荒城を装った不法研究所を壊滅させてほしい』
「「…!!」」

さすがの二人もこのことには驚きが隠せない。それを読みとったのか今度は優しい口調で話し始めた。

『君達なら大丈夫だ。認定試験を見て断言できる。君達… いや、君達のギルドなら重要な依頼でも安心して頼める』
「…ですが、ぼく達はまだまだ未熟ですよ?」
「それに俺達が裏切ったらどうするんだ」
『君達は裏切らない。絶対に』

にっと笑う顔を見て一見呆気にとられた二人だが、どこか見透かされている感じがし、苦笑しながらわかりましたと 返事をした。

その後荒城もとい研究所の場所を聞き、先に行っていた ラーグとソエルの帰りを待ちながら研究所への道なりを歩いていた。

「あのおっさん俺達のこと過信評価しすぎじゃね?」
「まあまあ、評価してくれてるならいいじゃん。ぼく達はぼく達に頼まれたことをしたらいいんだよ」
「それもそうだな…っとラーグが帰ってきたみたいだな」

遠くに見慣れた黒毛の狼をみつけるやいなやおーいとロキアは手を振る。 が、二人の姿を確認したラーグは全速力でロキアに向かって突進しその反動で後ろにふっとんでしまった。

「って〜な!おいラーグ!なにしやがる!!」 「まって、様子がおかしいよ」

ロキアの上に乗っている黒毛の狼は大きく肩で息をしている。 よく見ると綺麗な毛並みは傷だらけで、今にも倒れてしまいそうであった。

「「ラーグ!!」」
「あ、あんまり大声出すな…ひびく…」
「わるい…何があった」
「いや、なにが"いた"の」

ルクナの問いにラーグは苦笑いをこぼす

「さ、流石ルク…ナ…鋭いな…」
「!まさか豺に襲われたのか!」
「あぁ…早く行かないとソエルが…うぅ…っ」
「ラーグ!むりに動かなくていいよ。ありがとうゆっくり休んで」
「わるい…」

そういうとラーグはルクナの影の中に身を落とした。
それを見届けると二人は無言で見合い、同時に地を蹴った。



ごぉっと突風が吹き荒れる


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