……ごめんね (1/3)







「…あ」



お昼休み。

友人と談笑しながら昼食を食べていると、ハッと頭に浮かんだことに声を漏らす。
私は咀嚼していた卵焼きをゴクリと飲み込んだ。



「どうしたの?」

「部室に忘れ物した……ごめん、ちょっと行ってくるね!」

「行ってらっしゃい」



一口分残っていたおにぎりを口に詰め込み、友人にひらりと手を振って、教室を飛び出した。

朝練の時間より早く着いた部室で予習をしていた、古文の教科書が脳裏に浮かぶ。
次の授業がその古文であるのだから、取りにいかない訳にはいかない。





「(だけど思い出して良かった…!)」



角を曲がれば部室というところで、ふうと安堵の溜め息をついているとドンッと誰かにぶつかってしまった。



「っごめんなさ、」

「…名前?」



え、と顔を上げれば火神君、黒子君、そしてカントクの姿が目に入る。
すると、上から「ん?」という声が聞こえた。



「おい、」

「?」

「飯粒ついてんぞ」



グイッと顎を持ち上げられ、その辺りについてたのであろうご飯粒を取ってくれる。



「え、あ、恥ずかし…!ありがと火神君」

「おう」



へにゃりと恥ずかしさやら感謝やらが混じった笑みを浮かべると、言葉少なに返す彼はそのままご飯粒をぺろりと食べていて。
なんだか得体の知れない羞恥でだんだんと顔に熱が集まるのが分かった。



「あらまー、火神君も結構やるじゃない」

「はあ?何がスか」

「無自覚が一番恐ろしいのよねえ。名前ちゃん、平気?」

「あ…う、はい…」



カアッと上った熱を冷ますようにパタパタと手で顔を扇ぐ。
やった本人は無意識なのに、慣れないせいで意識してしまって申し訳無いなと思う。



「?だから何が」

「名前さん、これ、忘れてましたよ」



未だに分かっていない彼の言葉を遮って、黒子君が目の前に一冊の本を差し出す。
それを目にし、私はパアアと明るい表情を浮かべた。



「古文の教科書…!ありがとう黒子君!!」

「いえ、…朝練の前にやっていたのでもしかしてと思って」



たった今それを取りに行こうとしていたのだと言えば、彼は会えて良かったですと笑う。

顔を綻ばせると嬉しそうに黒子君も笑ってくれる。
その横で火神君は面白くなさそうにしていたけど───ちらりと目が合ったカントクは、一人愉しそうに笑っていた。










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