頼みがある (3/3)
──ザアアアア
──ゴロゴロ…
そして、案の定というかお約束というか。
ようやく秀徳バスケ部の練習が終わった頃には、傘がなくては辛いほどの大雨がアスファルトを打ち付けていた。
「……さむ」
外に出されたままの道具を片付けている間に降りだしたものだから、私はばっちりと雨に濡れてしまい。
傘と同様に着替えなんてあるはずもないので、現在は冷たい制服のまま体育館の入り口で立ち尽くしている。
ぶる、と寒気に身体が震えた。
「まだ帰ってなかったのか」
「あ…」
「雨は酷くなる一方だぞ」
着替え終えたらしい緑間君は鞄と傘を片手に私の隣へとやって来る。
ほとんどの部員が帰宅したため体育館は既にガランとしていて、残っているのは監督さんや大坪さん、それから私たちくらいだ。
「実は傘が無くて…いっそ走って帰ろうかな?なんて」
「…………」
「そっそんな呆れた顔しなくても!」
彼の目が明らかに「こいつ何言ってんだ」的な意味合いを含んでいる。
真剣に考えていただけにそれはショックである。
「雨の中のランニングと思えば……っくしゅ、」
「……これでも着ていけ。ついでにくれてやる」
「わぷ!……え、でもこれ…」
渡されたのは私が今日返したばかりのTシャツ。
着ていけって…ていうかくれてやるって……ええ?
「その軽そうな鞄にでも詰めておけ、いざという時に使えるだろう」
とりあえずは今なのだよ、と私の手からシャツを取り、ばさりと頭から被される。
制服スカートにTシャツというなんともラフな格好になった。
「み、緑間君、あの」
「行くぞ」
「わあっ?」
戸惑う私に構わず彼は腕を掴み、それからバンッと開いた傘の下に私を引き入れる。
シャツのことやら傘やら近さやら、急な展開にオロオロしていると──ばちり、彼と目が合った。
「…………名前に風邪を引かれては困る」
「へ?困る…?」
「っい、いいから歩くのだよ!」
「あわわわ待って待って!」
突然声を張り上げたかと思えばさっさかと歩き出す緑間君に置いてかれないよう、慌てて私も足を動かす。
彼の横を歩きながらさっきの言葉の意味を考え──行き着いたのは。
「あ、そっか!秀徳の部活を手伝って体調崩したなんて、変な噂になりかねないもんね!」
「………………そうだな」
「?」
何故だろう、思ったより緑間君の反応は良くなかった。
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