頼みがある (2/3)
「このタオルなんだけど…」
「は、はい!お預かりします!」
「スコアボードまだー?」
「はいっ今行きます!!」
緑間君ひいては大坪さん(あのあと直々に頭を下げてきた)の頼みを断れるはずもなく、今日限定で秀徳の男子バスケ部のマネージャー業に勤しむ私。
やる仕事は誠凛とあまり変わらないが、なにぶんこっちは大所帯であるため、引き受けたのを後悔するくらいに忙しい。
いくらマネージャーが校外学習とやらで不在だとしても、先日試合した相手校のマネージャーを臨時で自分達の部活に率いれるなんて──と、選手たちのメンタルを気にした私に監督は。
『君がそう思う暇も、うちをスパイする余裕も無いと思うよ』
って不適に笑っていたっけ。
そしてその言葉通り、予想以上の大変さに私はマネージャー業をこなすので精一杯なのであった。
「ぷは、生き返る…」
「頑張ってるね、名前ちゃん」
「!高尾君もお疲れさま」
仕事の合間をぬって水道で水を飲んでいると、へらりと笑う高尾君がやって来た。
「真ちゃんてば最初からエンジン全開なんだぜー?練習なんだからもうちょっとさあ…」
「そう言っても高尾君だって本気でプレイしてたでしょ」
「まあねー名前ちゃんに良いトコ見せようと思って」
「ふふ。良いプレイだったよ」
そうやって話をしながら体育館に戻ろうとした時、不意に空から低い音が響いてくる。
慌てて見上げた空は暗い雲に覆われ、今にも雨が降りそうだ。
時折また響く雷鳴にハアと隣からため息が聞こえた。
「あーあ、こりゃ荒れそう。置き傘あったかなー」
「…帰るまで降らないといいね」
折り畳み傘など入って無い自分の鞄の中を思い返す。
祈るように見上げた雲間からピカッと稲妻が走り、嫌な予感だけが強まった。
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