頼みがある (1/3)
「失礼します……」
土曜日。
休みの日であっても登校する生徒はちらほらと居て、そんな中で違う制服を着ていれば視線を集めてしまうのは道理で。
多くの視線を掻い潜ってようやく辿り着いた体育館は、想像以上に大きなものだった。
「ん?君は確か誠凛の…」
「お久しぶりです大坪さん。誠凛男子バスケ部マネージャーの苗字です」
「久しぶりだな。で、今日はわざわざどうしたんだ?」
「はい、実は緑間君に用事が…」
たまたま入口の近くにいた大坪さんに事情を話すと、彼は軽く頷いて声を張り上げる。
「緑間!お前にお客さんだ!」
「……こ、こんにちはー…」
主将の声に体育館中の選手がちらりと此方を見るものだから、なんとなく気まずさを誤魔化すみたいに笑みを浮かべ、小さく会釈した。
「……名前?」
やがて程なくして現れた緑間君は私の訪問に驚いていた。
「お前に用事があるんだそうだ」と彼の肩をポンと叩いた大坪さんはそのままコート内へと走っていく。
ミニゲームでもやるのかなあ、なんて緑間君越しのコートに目をやるも、それは彼の言葉に制された。
「よく迷わなかったな」
「……もう」
第一声がそれかと苦笑した。
「ほら、この前シャツを貸してくれたでしょ?それを返しに来たの」
「……ああ」
「ありがとね」
「礼を言われることでもないが」
綺麗に洗って畳んだシャツを紙袋ごと手渡せば彼はツンとして眼鏡のブリッジを上げる。
相変わらず素直じゃないんだから、と笑みを溢した時──ピイイ!と高らかに笛が鳴った。
「これより10分の休憩に入る!」
大坪さんの声が響き、忙しなく動いていた部員たちが次々に動きを止めていく。
さすがは強豪校、練習も半端ない厳しさなんだろう。
「(……あれ?)」
ふと気付く。
休憩する選手たちにドリンクやらタオルやらを配ってる人もまた──休憩に入ったばかりの選手じゃないの?
「名前、このあと時間はあるか」
「え、あ、うん。帰るだけだし、急いではいないけど…」
「頼みがある」
「頼み?」
聞き返すと、緑間君は言いにくそうにちらりと視線を外し。
こほん、と咳払いをしてからこう続けた。
「今日だけ、うちのマネージャーになって欲しいのだよ」
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