すぐに追い抜くよ (4/4)
「じゃーいい時間だし、そろそろ帰ろかー」
私が髪やら服やらをやっているうちに、雨は上がったらしい。
奥の個室で着替えさせてもらっていた私が戻ると、お開きの一声にみんなが片づけを始めていた。
「また…やりましょう」
「……当たり前だ。次は勝つ!」
何かを話していたのか分からないが、黒子君と緑間君の会話にほっと安堵の息が漏れる。
それと同時に、私は先に店を出るという緑間君に駆け寄った。
「緑間君!あの、色々ありがとう」
「名前の世話をするのは今に始まったことじゃないのだよ」
お好み焼きは髪だけでなく制服にもついていたため、着替えとして彼がYシャツを貸してくれたのだ。
それも含めて礼を述べれば、ぽすっと頭を撫でられた。
「それに、礼なら要らない。お前にはもう…十分貰っている」
え、私何かあげたっけ?
私がぽかんとすると、前から明るい声がかかる。
「真ちゃーん。こんなとこでデレても駄目だって!」
「高尾……」
高尾君は緑間君と同じ秀徳の選手で、彼の友人だ。(たぶん)
リヤカーを引く自転車に跨っている彼は、私を見るとニコッと笑ってくれた。
「名前ちゃんだよね。俺は高尾和成、よろしく!」
「どうしてお前と名前が宜しくする必要がある。それに俺はまだ先ほどのことを許してはいないのだよ」
「いでででで!愛がいてーよ真ちゃん!あだだだ!」
おちゃらけて言う高尾君の頭をがしりと掴む緑間君。
二人の姿を私は笑みを浮かべて見ていた。
うん、仲が良いんだね。
緑間君にも良い理解者がいて、自分のことみたいに嬉しいと感じる。
「じゃあ、俺たちはもう行く。またな、名前」
「名前ちゃんばいばーい」
「またね、緑間君、高尾君!」
彼らを見送った後、中へ戻ろうろする私の肩に、ぽすんと温かいものが乗せられる。
驚いて振り向いた先には、にっこり笑顔の黄瀬君がいた。
その後ろから笠松さんもやってくる。
「名前っちと離れるの寂しいけど…先に帰、いでっ!?」
「悪いな苗字、こいつがうるさかったみたいで」
「先輩ヒドイ…」
だうー、と涙を流す黄瀬君は昔から、こう…憎めない何かがある。
けど笠松さんは気にせず「じゃあな」と先に行き、黄瀬君はまたあわあわと焦りだしていた。
「あ、そうだ!名前っち、約束した通りまたバスケやろうね!」
「うん、楽しみにしてる」
「それじゃあまた!」
せんぱーい!と走っていく彼の後ろ姿にまた笑みが零れる。
みんなちゃんと仲間がいて、私は言い知れない気持ちになる。
嬉しいような、寂しいような……でもやっぱり安心するような。
ぼうっとそこで立ち尽くしていると、中から声が聞こえた。
「名前ちゃーん!私たちも帰るわよー!」
「はーいっ!」
私は明るく返事をして、仲間の元へ戻った。
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