すぐに追い抜くよ (3/4)
あれから、試合を抜け出して先輩たちを呼び出したこと、彼女たちと試合をしたこと、その試合に余裕で勝ったこと、など全てを話すことになった私。
じっと注目されるのは同じテーブルの彼らだけじゃなくて、背後からもひしひしとそれを感じながらも全てを話し終えると。
「えーと、その…抜け出したこと怒ってる?」
私はちらりと、黒子君と火神君を見ると、黒子君はハアと深い息を吐いた。
「名前さんは、本当に……」
「いたっ」
ぴし、とデコピンされたおでこを押さえる。
やっぱり怒ってる、よね?
「うう、ごめんなさ…」
「怒ってるわけじゃねーって!」
ごっくん、と大きなお好み焼きを飲み込んだ火神君が言う。
どういうことかと見つめ返すと、ニカッと笑って言葉を続けた。
「つーか抜け出したのも、結局は信じてくれたからだろ。気にすんなよ」
「火神君…ありがとう」
黒子君にもありがとうと言えば、はいと返してくれた。
ほんとだ、怒ってないみたい。
でも、だったら、さっきの…ちょっとムッとした顔はなんだったのかな?
「ところで、名前」
「なーに?緑間君」
「吹っ切れたということなら、俺と試合してほしいのだが」
真剣なその眼差しに、私は笑顔で頷いた。
「もちろんだよ!私も久しぶりに緑間君とバスケしたいし」
「っ、そ、そうか」
「あー緑間っちだけズルイ!ね、名前っち俺ともバスケしてよ!」
「待ってください順番的に僕が先でしょう」
そんな会話をしていると。
「「あー!!!」」
べちゃあっ
「う、ええええええ!?」
後ろから何かが飛んできた。
かと思えば、後頭部に温かさと重みを感じた。
ズル、と何かが落ちる感覚の後、ようやく状況を理解した。
「お、お好み焼き……」
そう。
私の後頭部にぶつかってきたのはお好み焼き。
「…勿体無い…」
「そういう問題じゃないのだよ!」
「う、わあっ?」
ぼたりと床に落ちたそれを見る私にそう素早く突っ込むと、緑間君はそのまま店の奥へと私を引っ張っていく。
連れて行かれたのは男子トイレで、戸惑う私を他所に彼は私の頭をわしゃわしゃと洗ってくれた。
「おい、これ使えよ!」
後からやって来たのは火神君で、その手にはスポーツタオルが握られている。
タオルを緑間くんに渡すと、また戻っていく火神君。
無言のままそれを受け取った緑間君は、洗い終わった私にばさりとそれを被せ、今度は濡れた髪を拭ってくれた。
「……あはは」
「まったく…笑い事じゃないのだよ…」
「だって二人とも、息ぴったりだったんだもん」
「なっ」
試合のこともあるし、どういう経緯かはおいといてもすぐ後に一緒にいてギスギスしてたはずだ。
良い雰囲気とはいえなくても、和らいだ空気に笑みが溢れた。
「名前っちー、大丈夫ー?…って、緑間っち固まってどうかしたんスか?」
「……何でもない。黄瀬、あとは頼む」
「?はいっス」
黄瀬君にタオルを預けた彼はそのまま行ってしまう。
照れてるのかなーなんてまた笑みを漏らした私に、黄瀬君は不思議そうな顔だ。
「ねえ、黄瀬君」
「なんスかー」
「私…今、楽しいって言ったら、どうする?」
「ぷっ。お好み焼き被って大惨事なのに…黒子っちの犯人探しすごかったっスよ」
あらかた拭き終わったのか、タオルを動かす手を止めた彼。
設置された鏡越しに見た彼も、どこか楽しそうな表情だった。
「こうしてさ、みんなとまた笑い合えて…すごく、嬉しいの」
目が合って、笑いかければ。
彼もまた、はにかんだみたいに笑顔を浮かべた。
「……俺も、そう思ったよ」
ねえ、やっぱりさ。
壁なんか早く無くしたいって、思った私は。
きっと、間違ってない。
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