すぐに追い抜くよ (2/4)







「まさかあの誠凛が勝つとはなー」

「こりゃあ決勝リーグが楽しみだぜ!」



試合が終わり、しばらく経っても余韻は冷めやらず。

いつまでも場内に響き渡る歓声を背中に感じつつ、私は会場を飛び出す。
擦れ違い様に、そんな風に会話をする人たちがいて思わず頬が緩んだ。



「(それにしても……すごい雨だなあ)」



試合を途中で抜けて以来、別行動となっている私に、ついさっきカントクからメールがあった。
どうやら近くにある鉄板焼きのお店に入っているらしく、用が済んだら合流しなさいとのこと。

何も聞かずに私を送り出し、また待ってくれているカントクの優しさに心の中で感謝して、濡れるのも構わず走り続ける。
身体を濡らしていく雨が、バスケをして興奮しきった感情を落ち着けてくれるようだった。





「あ。名前ちゃん、こっちよー」

「カントク…!あ、あの…っすみませんでした!!」



なんと店の前でカントクが私を迎えてくれていた。
彼女に真っ先に頭を下げれば、ぽんとその頭に手が置かれる。



「その様子だと色々吹っ切れたみたいね」

「…え……?」



まるでどうして抜けていったかを知ってるみたいに、カントクは笑った。



「可愛いマネージャーのことだもの、ちゃーんと分かってるわよ」

「か、カントク…!」


パチン、と星が飛ぶようにウインクひとつして、彼女は私の頭を撫でる。
思わず彼女に抱きつくと、それすらも分かったように抱きとめてくれて、私は少しばかり鼻の奥がツンとしてしまう。



「で・も!」

「…………へ」

「心配させた罰として、名前ちゃんには指令を与えます!」

「え、…え?」



罰?
え、指令?

ていうかやっぱりちょっと怒ってる?


「さ、行くわよ!」

「わわ!?」



カントクに腕を引かれるままに、私はお店の中へと足を踏み入れた。
ざわっと集まる視線。



「お、苗字!待ってたぞー!」

「名前ちゃーん」

「皆さんお疲れ様です、それとおめでとうございます。あと、その…遅くなってすみません!」



先輩たちはからりと笑って「気にすんな」や「おかえりー」と迎えてくれた。
ああ、いい人たちだな…。



「はい、名前ちゃんはここに座ってちょうだいな!」

「あ、分かりまし……!?」



にこーっとカントクが椅子を置いてくれたテーブルのメンツを見て、息を飲む。

黒子君の隣に黄瀬君、その向かいに火神君と緑間君って……!
固まる私だったけど、カントクにぐいぐいと押され、誕生日席と言える場所に座ることになった。



「名前さん、メニューどうぞ」

「え!?あ、うん…ありがと…」



緑間君は眉間に皺を寄せてイライラオーラ全開だし、黄瀬君だって気まずいのか冷や汗を流しているのに。
そんなこと気にする様子もなく、はいとメニューを渡してくれる黒子君はさすがというか。

そして火神君の目の前で焼かれる大きなお好み焼きが気になる。
おっきすぎる…!



「えーと、うーんと……あ、ブタ玉にしようかな!」



空気の重さに耐えられなくても、それ以上に空腹には勝てない。
周りからの良い匂いにお腹がグウと鳴り、目に付いたメニューを店員さんに注文した。



「名前っちが肉系って、珍しいっスね」

「ふえーほうはんふぁ?」

「…火神君、こっちに飛ばさないでください」



黄瀬君の言葉に火神君が(おそらく)そうなのか?と聞き返し、黒子君が顔を顰める。

なぜかって、まあ久々に本気でバスケしたからお腹が空いたわけなんだけど……そうともはっきり言えず。
三人にじい、と見られて苦笑すると、ばちりと目が合ったのは緑間君。



「……成る程。運動すれば空腹になるのは道理だな」

「…っぐ、ゲホゴホッ」



思わずお茶を噴き出してしまった。

ちょっと、緑間君なんでそんな知ってる風なの…!?



「み、緑間君、なんで」

「……偶然だが、第2体育館に向かう秀徳の女子生徒を見かけたのだよ」

「あ!もしかして名前っち、探してた先輩たちとバスケしたんスか!?」

「ちょ、黄瀬君それここで言っちゃうの…」



ちらり、と横を見ればにっこり笑顔の黒子君。
わあ、滅多に見られない表情だー…。



「名前さん、何をしていたか話してくれますよね」

「……ハイ」



私はがっくりと肩を落とし、彼らに話さざるを得ないことを知った。

別に話さないって決めてたわけじゃないけど…いや、うん、洗いざらい話しますとも。










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